表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/37

諸国連絡会義

陽歴3025年(西暦1950年) 6月12日 昼 カレドニア王国 王都ノーリアス 王宮 諸国連絡会議


 諸国連絡会議。


 それは58年前に亜人国家群が合意して3年に1度各国の王都にて開催される事が決定された国際会議であり、次回の開催は2年後の筈だったのだが、2ヶ月前に第五文明圏南部の国々(サードミーナ連合)の連合軍が攻め込んで来たことで、急遽繰り上げられる形で開催されることになった。


 そして、現在、サードミーナ連合軍による侵略を受けている国家──ウルフルズ王国の代表セドン・モーリッヒは会議の場で各国にこう訴える。



「各国代表の皆様方。皆さんも知っての通り、我が国が第五文明圏南部の国々から侵略を受けてから2ヶ月。我が軍も、そして、各国から派遣された援軍も奮戦しておりますが、敵の連合軍の進軍の勢いを止めるには至っておりません。よって、この神聖な会議の場にて私は各国の皆様方に更なる援軍を送って頂くことを要請したい」



 要は援軍をもっと寄越してくれという事であり、侵略を受けている国からすれば妥当な要請でもあった。


 しかし──



「残念だが、今すぐは無理だ。最低限の治安維持活動要員を除いた兵はあらかた送ってしまったし、動員の完了はあと3ヶ月は掛かる」



「それに進軍の勢いと言っても、サードミーナ連合軍の動きは明らかに遅い。おそらく連合軍ゆえに足並みが揃っていないのだろう。貴国が動員を完了させさえすれば、貴国単独でも追い払えるのではないか?」



 カレドニア王国の代表──セバス・トォーリャとスタシア連合王国の代表──キラン・ゴースは口々にそう言ってセドンの要請に消極的な姿勢を示す。


 実は今回のウルフルズ王国への侵攻を亜人国家群は事前に察知することが出来ておらず、実際に侵攻されるまで各国は戦時体制にすら入っていなかった。


 なぜこのように重要で、且つ第五文明圏で大兵力の動員というどうやっても隠しようが殆どない情報を事前に察知できなかったのかというと、それは第六文明圏の国々が第五文明圏への諜報活動をダークエルフにほぼ全面的に任せていたからだ。


 そもそも第五文明圏南部というのは、亜人を排斥を標榜している地域であり、亜人にとって非常に生きづらい地域だ。


 それ故にその地に居る亜人は基本的に奴隷しか存在しておらず、中には“奴隷繁殖施設”という皇国人であれば名前を聞くだけで眉をしかめ、中身を知れば吐き気を催すような施設に放り込まれる者すら居る有り様で、そのような土地で亜人が諜報活動を行うのは殆ど不可能に近かった。


 だからこそ、ダークエルフに諜報活動を頼っていたのだが、今回のサードミーナ連合による第六文明圏への侵攻計画に関しての情報は一切伝えられておらず、その結果、ウルフルズ王国は突然の侵略に晒される羽目になったのだ。


 当然、いきなり侵攻されることになったウルフルズ王国はダークエルフに抗議の声を入れようとしたが、その文句を言う相手であるダークエルフ達は侵攻の直前に違約金を置いて姿を消しており、ウルフルズ王国はダークエルフ達に裏切られたことに怒りつつもサードミーナ連合軍を手持ちの兵で迎撃したものの、大砲や魔法による火力、更には根本的に兵力が少なかったことによって迎撃は失敗。


 2ヶ月経った今では上陸したウルフルズ王国北西部の海岸部一帯とその内陸18キロを制圧されてしまっていたのだが、ここに至ってもウルフルズ王国以外の亜人諸国は状況を少々楽観視していた。


 これには幾つか理由があるが、一番の理由はやはり敵の進軍速度が遅いことだろう。


 そもそもウルフルズ王国は意外なことであるが、亜人諸国の中ではカレドニア王国の次に道路などの交通インフラが整っている国であり、加えて国土が日本のように起伏の激しい土地だらけというわけではなく、平野部が多いために攻める側にとっては非常に進軍しやすい土地なのだ。


 更に言えば、ウルフルズ王国はいきなり侵攻されたが故にまだ動員を完了させていない。


 にも関わらず、サードミーナ連合軍は2ヶ月経った今でも僅か18キロ、つまり、1日300メートル程のペースでしか進軍していないのだ。


 まあ、実際は単に略奪や暴行、虐殺に強姦、更には捕らえた住民を奴隷にして本国に輸送することに精を出していた為に進軍が遅れていただけなのだが、この時点で現地の情報はアルメディア王国のスパイ狩りによって片っ端から狩られており、情報が全くと言って良いほどに入ってこなかった為に彼らはその事実を全く知らない。


 それ故にこの進軍速度ならば自分達の援軍派遣は必要なく、仮に必要であったとしても動員が終わってから送っても十分間に合うと各国の代表達は考えていたのだ。



「・・・それはそうかもしれません。しかし、動員が完了するまでに甚大な犠牲者が出ることは確かなのです。それを防ぐためにも各国のお力添えを頂きたいのです」



 セドンは悲痛な表情をさせながら尚もそう訴えるが、各国の反応は鈍かった。


 なにしろ、各国の立場からしてみれば、動員というのは非常に金が掛かる上に、時期と戦争の期間によっては食料の生産力すら低下させてしまう行為なのだ。


 なので、容易には踏み切れず、出来るならばその当事国でなんとかして欲しいというのが本音だった。


 しかし、侵略を受けて苦戦している国の心情も分かるのでどう答えるべきかと思っていたところ、セバスがあることを思い出してこんなことを口にする。



「そう言えば、我が国は皇国と国交を結んでおりますが、彼らに要請してみるというのはどうですか?その為の仲介ならば喜んで致しますが」



 それを聞いた亜人諸国の内、スタシア連合王国は興味深いといった感じの表情を見せるが、セドンとフェアリー王国の代表──カラン・ストリッチは嫌な顔をする。


 3年前の愛宕事件以来、フェアリー王国とウルフルズ王国国内での反日感情は強くなっていた。


 そして、今回の会議に出席したウルフルズ王国の代表もまた皇国の事をよく思っておらず、もし今回の侵攻が容易に対処できるものであったならば、すぐさまカレドニア王国代表の提案を蹴っていただろう。


 ──だが、今回受けているウルフルズ王国への侵攻は自力ではね除けることは難しいとウルフルズ王国の代表は読んでおり、それ故に彼はカレドニア王国代表の提案を受けるかどうか迷ったが、その様子を見たカランは焦った様子でこう言った。



「セドン殿、早まってはなりませんぞ。奴等は我が国の象徴たるハイエルフを殺した野蛮人共です」



「分かっている。だが、我が国には援軍がどうしても必要だ」



 セドンのその弱気とも取れる発言に、各国の代表達は驚愕した。


 当然だろう。


 ウルフルズ王国は反日国家として知られており、それ故に彼らが皇国に頼るなど、国が滅亡寸前でもうどうにもならない状況にでもならない限り有り得ないと考えていたのだから。



「・・・そこまで追い詰められているのですか?」



「・・・」



 カランのその言葉をセドンは無言で肯定した。


 そもそもウルフルズ王国がほぼ自力でサードミーナ連合軍の侵攻を退けられるという各国の予測はあくまで当事国以外の者の視点にすぎず、当事国であるウルフルズ王国では当然の事ながらそれとは違った視点が存在する。


 そして、実際に攻められて土地とそこに住む住民を奪われたウルフルズ王国からすれば、占領地の奪還を早急に行うためには各国の援軍が必要だと考えており、だからこそ、この国際会議の場で各国に対して追加の援軍を要請していたのだ。


 もっとも、ウルフルズ王国軍が思い切ってサードミーナ連合軍を占領地の奪還を諦め、敵の占領地域をこれ以上拡げないことに注力すれば嫌悪している皇国に頼るなど考えもしなかっただろうが、あいにくとウルフルズ王国の国民は同族意識が強く、更には占領軍のモラルが全く期待出来なかった為に、その選択肢を取ることは殆ど不可能だった。



「・・・分かりました。では、あなた方の窮状を本国に伝え、近衛隊を派遣するようにハイエルフの方々に要請してみましょう」



「近衛隊ですと!?」



 そのカランの発言に、各国の代表達はざわめく。


 基本的に全員が魔導師と言っても良いエルフで構成されるフェアリー王国は軍事力という点でとても優れている。


 まあ、魔法に依存しがちな為に戦術や純粋な剣術などの能力は獣人はおろか、人族にすら一段劣ってしまっているが、それを補ってあまりあるほどの力を持っているというのも確かだった。


 そして、近衛隊とは“近衛”の名の通り王族を護衛するための部隊であるが、その人員はエルフの中でも特段魔力量に優れているハイエルフで構成されている文字通りの精鋭部隊で、1人で通常のエルフの精鋭兵10人を相手できると言われている。


 そんな部隊が来てくれればこれ以上心強いことはなく、ウルフルズ王国は期待の眼差しをカランへと送った。



「それは本当ですか!?」



「ええ。勿論、派遣のためには陛下を説得しなければなりませんが、貴国は我が国の最大の友好国。貴国がこれほどまでに困窮しているとあらば、派遣を許可してくださるでしょう」



「おお!それはありがたい!!」



 セドンは歓喜した様子で礼を言うが、言うまでもなくこの約束はあくまでカランの独断であり、もしフェアリー王国の女王──セシリア・クライアットが拒否すれば近衛隊を派遣することはできないし、勝手にそんな約束をしたカランは間違いなく厳罰に処されるだろう。


 だが、それでもウルフルズ王国を繋ぎ止める為にはああするしかなかったというのは確かであり、もし適当にお茶を濁すように追加派遣を約束し、それで大した成果を挙げられなければ、ウルフルズ王国は皇国を頼っていた可能性が高い。


 愛宕事件の事もあって、皇国の事をサードミーナ連合と同等か、それ以上に悪質な国家だと考えていたカランにとって、それは何よりも避けなければならない事だった。


 ──そして、そんな彼の想いが通じたのか、この会議の2日後、女王セシリアは近衛隊派遣を決定し、フェアリー王国近衛隊はウルフルズ王国へと送られることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ