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サードミーナ連合

陽歴3025年(西暦1950年) 3月25日 昼 メーデル大陸 アルメディア王国 王都カリス


 アルメディア王国。


 それはメーデル大陸一の軍事大国であり、経済力こそオーデル公国には及ばないものの、第五文明圏最強の国家として君臨しているがゆえに第五文明圏南部の国家の国々によって構成される国家連合組織であるサードミーナ連合では事実上の盟主として振る舞っており、国際的な影響力は非常に高い。


 さて、そんな国の王都カリスでは各国の外交部門の代表が集合しており、1週間後に開始される予定の“ある計画”についての最終調整を行おうとしていた。



「さて、皆様。亜人共との戦争の準備はよろしいでしょうか?」



 アルメディア王国の代表──クルト・シューベルト子爵のその言葉に、第五文明圏南部の各国から来た国の代表者達は頷く。


 サードミーナ連合は元々、アルムフェイム大陸の亜人国家への対抗を名目として発足した国際組織であり、設立から30年近くが経過してもその本来の機能は失っておらず、着々と第六文明圏に対する戦争の準備を整え、今から1週間後には第五文明圏南部の対岸に存在する獣人の国家──ウルフルズ王国に対する軍事侵攻を行う用意が完了していた。



「我が国も勿論の事ながら準備は完了しています。最新鋭の火縄銃にガレオン船、更に魔導武器を装備させた魔導師3000人も投入する予定です」



 その言葉に、各国は改めてアルメディア王国が第五文明圏を代表する軍事大国であることを認識した。


 魔導師というのは基本的に魔道具を必要としない純粋な魔導師と魔道具を行使して魔法を発動させる魔導師の2つの種類が存在している。


 だが、純粋な魔導師というのは全人口の3パーセント(魔女を加えれば1割だが、魔女は基本的に嫌われ者であるために戦力に数えようとする国は少ない)程しかおらず、更には使える魔法の魔法の種類も少なく、エルフやダークエルフのように火球や水球を打ち出したりすることは魔導武器を使わなければ出来ないので、その点は魔法を使えない一般の人間とほぼ変わらない。


 しかも、その3パーセントの人口ですら年齢や魔法の習熟度に差があったりする(中には魔法を全く使ったことがないという者すら居る)ので、全員が兵士になれるわけではなかったし、別に剣で斬られても大丈夫という体をしているわけでもないので、回復系の魔法や薬すら使わない状態で体を深く斬りつけられたりすれば普通に死ぬ。


 ・・・とどのつまり、純粋な魔導師というのは冒険者のような個人やパーティレベルであればかなり有用であっても、軍隊などの巨大な武装勢力の中ではあまり役に立たないというのが現実で、それ故に各国の軍関係者の間では魔導師とは人工的な生産が可能であり、尚且つ(純粋な魔導師と比べれば)数を揃え易い魔導武器を装備させた魔法使いを表すことが多く、そんな高価で高度な技術を必要とする魔導武器を装備した魔導師を多く揃えられる国はそれだけで強国として認識される傾向にある。


 ましてや、実戦に投入できるだけの魔導師を3000人も揃えるというのはアルメディア王国以外では不可能であり、それ故にこの場に居る各国の代表がアルメディア王国に畏怖の感情を抱くのは当然と言えば当然と言えた。



「おお!それだけの兵力を投入すればまず間違いなくウルフルズ王国は滅ぼせますな!!」



「いや、上手く行けば亜人共を滅ぼし、第六文明圏自体が我々のものになるやもしれん!」



「流石はアルメディア王国!我々とは格が違いますな!」



 各国の代表は口々にそんなお世辞を口にするが、当のクルトはそれを半ば聞き流しつつ、オーデル公国の代表であるセルシオ・リューズンバーグ伯爵に対してこう尋ねる。



「セルシオ伯爵」



「なにかな?クルト殿」



「貴国と国交を結んでいるという皇国とやらは此度の戦に参戦する意思は有るのですかな?」



 その言葉を聞いたセルシオは表情こそ変えなかったが、内心でアルメディア王国の情報網に舌を巻いた。


 なにしろ、日本皇国とオーデル公国は接触した日こそ3週間前だが、正式に国交を結んだのは8日前であり、まだ各国には国交を結んだ旨を通達していない。


 いや、それ以前に高々海の向こうの国家と国交を結んだくらいでこのような国際会議の場でわざわざ言うとも思えないので、おそらくは皇国という国が相当な技術力を持つ国であるということも知っているのだろう。



(相変わらず凄まじい諜報網だな。伊達に軍事大国をやっているわけではないということか)



 セルシオはそう思いながらも、クルトの問いに対してこう返答する。



「おそらく無いでしょう。なにしろ、彼らはまだこの大陸と関わったばかりのようですからな」



「そうですか。しかし、私どもの情報網には彼の国は亜人共と国交を結んでいるとの情報が入ってきているのですがね」



「!?」



 クルトの言葉にセルシオは先程とは違って明らかな驚愕の表情を見せる。


 日本側の外交官はオーデル公国と国交を結ぶ際、ドワーフの国であるカレドニア王国と国交を結んでいることは一切口にしなかった。


 当然だろう。


 これまでの情報収集によって第五文明圏南部と第六文明圏は致命的なまでに関係が悪化していることは既に分かっている。

 

 まあ、片方の国家勢力がもう片方の国家勢力を制圧、場合によっては民族浄化を真剣に考えていれば、そうなるのも当然と言えば当然であったのだが、そうなると日本が一つとはいえ、第六文明圏の国家と国交を結んでいるという事実は第五文明圏南部の国々との交渉に悪影響をもたらしかねない。


 しかし、かといって流石にそれだけの理由で折角結んだカレドニア王国との国交を断絶させるわけにはいかないので、第五文明圏の国々には日本が第六文明圏の国家と国交を結んでいる事実を黙っておく事にしたのだ。


 幸い、第五文明圏と第六文明圏双方は人種の違いから情報を集めることは独力では困難となっており、諜報網はその全てが日本に臣従したダークエルフ勢力によって担われていた。


 また純粋魔導師同士が行うような念話などを含めて大陸を跨いで情報を伝達する無線技術は存在しない事は既に確認されている。


 こういった要素が有ったからこそ、日本側は『国交を結んでいる事そのものを秘密にする』という地球世界ならば絶対に不可能だった情報操作が可能だと考え、第五文明圏と第六文明圏の国々と同時に国交を持つという端から見れば無謀だと思えるような試みが行われることになったのだ。


 そして、その目論見がつい今しがたまで成功していたというのは、セルシオがクルトに言われるまでその事実を全く知らなかったことからも分かる。


 しかし、残念なことにアルメディア王国がダークエルフとは違う第六文明圏の情報網を持っていたことで、日本側の目論見は根本から破綻しようとしていた。



「それは本当ですか!?」



「さあ、裏を取っているわけではないので、本当のところは分かりません。ですが、彼らは東から来たと聞いている。方角が少々違うとはいえ、亜人共と何らかの関係があったとしても不思議はありません」


 

 クルトはそんな推測を口にしつつ、更にこう言葉を重ねる。



「一度、確かめてみた方がよろしいかと。そして、もし間違っていないのであれば、速やかに皇国の大使とやらを調べて取り調べた方が良いでしょう」



「・・・・・・」



 そのクルトの提案に対し、セルシオは思考を巡らせる。


 このようなことを聞いてしまった以上、自分はこの会議が終わり次第、すぐにでも国へと帰り、シーリアに駐留する皇国大使にこの事についての真偽を確かめておく必要がある。


 しかし、問題なのはそれが本当だった場合だ。


 今でこそシーリアにやって来た鋼鉄の艦隊は本国に帰っているらしいが、もしまたやって来た時に大使が不当な扱いを受けているのを知れば、まず間違いなく皇国軍はオーデル公国に対して攻撃を仕掛けてくるだろう。


 そして、そうなった時、こちらが受ける被害は想像もつかないので、仮にクルトの言うことが本当であったとしても、皇国大使を拘束して取り調べるなどといった乱暴な真似は絶対に避けるべきだとセルシオは考えていた。


 だが──



(こいつの言うことが本国の貴族に知れたら、それも不可能になってしまうな)



 なにしろ、オーデル公国を含めた第五文明圏南部の国々は亜人排斥をスローガンとして掲げて団結している。


 まあ、実際は排斥まで考えていない王族や貴族も結構多い(と言うより、そうでなければ第五文明圏南部で亜人奴隷など存在すら出来ない)のだが、そういった人間も表向きは亜人排斥を唱える者ばかりだ。


 そんな人間達の耳にこの情報が入ったりすればどうなるかなど、馬鹿にでも想像できるだろう。



(ならば、公王陛下のみにこの事を秘密裏に伝えて慎重に事を運ばなければな)



 そう考えたセルシオだったが、彼はこの時知らなかった。


 その秘密裏に伝えようとした相手である公王こそが最大の地雷であったことを。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  ましてや、実戦に投入できるだけの魔導師を3000人も揃えるというのはオルメディア王国以外では不可能であり、それ故にこの場に居る各国の代表がオルメディア王国に畏怖の感情を抱くのは当然と…
[良い点]  日本とアルメディア王国の衝突が近いこと。 [気になる点]  オルメディア王国、アルメディア王国どっちが正解なんだ?。 [一言]  亜人(エルフやドワーフなど)と言われる国家でも、そこそこ…
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