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外交交渉

陽歴3025年(西暦1950年) 3月5日 夕方 メーデル大陸 オーデル公国 シーリア



(な、なんなのだ。これは)



 シーリアを治めるオーデル公国の領主──アリトア・カスマット・エーデルワルフ子爵は目の前の光景を見て呆然とせざるを得なかった。


 事の始まりは今日の昼過ぎ。


 シーリアから少し離れた街──イトリアの郊外に存在する自らの屋敷で執務を行っていた彼は、慌てた様子でやって来たシーリア駐留の騎士より『謎の大艦隊が突如シーリアに出現した』との報告を受ける。


 当初は信じなかったアリトアだったが、その騎士と後から追加の報告を行いにやって来たシーリア駐留騎士達の尋常ではないその様子に、シーリアで何かが起こっているという事は確実だと判断し、少数の供回りの兵士を引き連れてシーリアへとやって来たのだが、そこで彼が見たのは鋼鉄の船の大群がシーリアの沖の海を覆い尽くす光景だった。



(いったい奴等は何者だ!何処から現れたのだ!?)



 アリトアはいきなり自分の領地に現れた鋼鉄の艦隊に困惑していた。


 そもそもアリトアの領地は別に国境に接する領地というわけではなく、また外交に携わってきた家系という訳でもなかったので、外国船と接する機会など殆ど無かったのだ。


 そんな所にいきなり鋼鉄製の船が多数やって来れば、混乱するのは当然と言えば当然だった。



「アリトア様!これはいったい・・・我々はどうすれば!!」



 連れてきた従者の1人が発した不安げな声に、アリトアは我に返った。



(そ、そうだ。今は取り敢えず、状況把握と指示が先だな)



 そう思いながら、アリトアは一旦頭を整理し、この報告を寄越してきた騎士達の方に顔を向けると、そのうち最後に報告にやって来た騎士にこう尋ねた。



「おい!確かこの艦隊から上陸してきたニホン皇国とやらの使節団の目的は国交の開設と通商の許可と言っていたな!?」



「は、はい!そのように伺っております!!あと、これだけの艦隊で来てしまったが、侵略の意図はないとも言っておりました!!」



「侵略の意図はない、か」



 アリトアはその言葉に微妙な顔をする。


 当然だろう。


 これだけの艦隊でやって来て侵略の意図がないなど、説得力があまりにも無さすぎたのだから。


 ──だが、同時に頭の中の冷静な部分では、もし向こうに侵略の意図が有ったのならば、今頃はシーリアが占領されていたであろうことは理解していた。



(くそっ!なんでいきなり私の領地にこんな連中が現れたんだ!!・・・いや、今は連中と話し合うのが先か)



 アリトアは自分の領地にいきなり訪れた危機に半ば錯乱しながらも、上陸した使節団と話し合うことを決め、先程の騎士に対して再びこう尋ねる。



「それで、その使節団とやらは今は何処に留まっているのだ?」



「はっ。対応した町長と騎士長が領主との会談はおそらく明日以降となるので、街の宿を手配すると提案致しましたが、向こうは『艦隊に戻ってそちらに泊まるので、国の代表、あるいは領主との会談の用意が出来たら教えて欲しいと』」



「・・・舐められてるな」



 アリトアは眉をしかめた。


 こういう場合、訪れた使節団はやって来た街からの提案を受けて宿へと泊まるのが少なくともこの大陸における礼儀だ。


 無論、外交関係によってはその使節団が泊まっている宿が襲撃されたりといった事もあるので、信頼出来ない国からそのような提案をされた場合、断ったりするといった例は存在する。


 だが、それは逆に言えば、提案を蹴るというのは『私たちの国はあなた達を信用していませんよ』ということを表しており、関係良好な国同士や今回のように初対面な国同士であれば失礼に値する行為なのだ。


 その為、アリトアの日本皇国に対する第一印象はこの時点で少なからず悪くなっていた。



「まあいい。取り敢えず、今日はもう遅い。明日の朝、会談を行う旨をしかと向こうに伝えておいてくれ」



「はっ、承知しました」



 その騎士の返事を聞いた後、アリトアは現地に居る騎士長と町長と共に今後の対応を話し合うために2人が居る屋敷に向かって馬を走らせた。



















西暦1950年(昭和25年) 3月6日 朝 シーリア 屋敷


 日本艦隊がシーリアを訪れてから一夜が明け、日本使節団は再度シーリアに上陸し、町長の屋敷にてアリトアを始めとした街の代表者達と会談を行おうとしていた。



「初めまして。私は日本皇国外交使節団代表の杉原千畝と申します。本日はよろしくお願い致します」



「・・・オーデル公国エーデルワルフ領の領主のアリトア・カスマット・エーデルワルフだ。まず確認したいのだが、貴君らは我が国と国交を結ぶために来たということで間違いはないか?」



「はい、間違いありません。まあ、あれほどの大艦隊で来てしまったので、誤解されたかもしれませんが、我が国には貴国への侵略の意図はありません」



 アリトアの問い掛けに杉原はそう答えるが、内心ではその言い分はあまりにも無理がありすぎると感じていた。


 当然だろう。


 これだけの大艦隊を引き連れてくれば、侵略の意図有りと見なされるのが普通なのだから。



(だから、私は反対したんだ!幾らなんでも過剰すぎると!!)



 杉原はそう思いながら、最近過激になりつつある外務省上層部を内心で罵る。


 元々、杉原は今回の大艦隊派遣には反対の立場を取っていた。


 確かにダークエルフの情報があるとは言っても、日本という国そのものがこの世界の事を肌で知っている訳ではない以上、下手をすれば派遣された外交官が殺されてしまうなどといった事態も起きるかもしれないし、実際に3年前は外交官が殺される事態が起きている。


 それを考えれば、外交官に護衛をつけるといった考えは間違いではなかったし、杉原もここまでなら反対しなかっただろう。


 が、今回は幾らなんでもやりすぎだった。



(まったく。吉田総理ももう少し強く反対してくれれば良かったものを。これではやりづらくて仕方がない)



 そう思ったが、彼もまたプロの外交官。


 その程度の不満で仕事を放棄したりはしない。



「我々がここまでやって来た理由は先程もあなたが仰有ったように貴国との国交の開設と通商の許可です。その為にあなたにはオーデル公国政府との仲介役を勤めて頂きたいのですが」



「・・・それは確約できないな。私に出来るのは貴君らがやって来たことを政府に伝えることだけだ」



「それで結構です。それで、どれくらいの期間があれば伝えられますか?」



「ワイバーンを使えばすぐ、と言いたいところだが、今回の件は兵士の報告だけでは政府の者達は信じないだろう。まあ、私がワイバーンに乗って報告に行けば済む話なのかもしれないが、あいにく私はワイバーンに乗れないのでな。馬で王都に報告に行くことになるので、それなりの時間を頂戴することになるが・・・」



「構いません。我々は幾らでも待ちますので。・・・ああ、そう言えば我が国からあなた方に送る予定だった献上品が幾つか有ります。今回、騒がせてしまったお詫びも兼ねておりますので、是非とも受け取っていただきたい」



「献上品?」



「はい。我が国の特産品です」



 これは半分嘘だ。


 確かに贈呈品の1つである日本刀などは日本独自の剣であり、専属の職人が作っているので日本の特産品であることは間違いない。


 が、逆に言えばそういった日本でしか生産していない物以外は日本の技術力を見せつけるための精巧な品物であり、正直外交官である杉原からしても使いどころを選ぶ代物だった。


 何故なら、精巧な技術で作られた献上品というのは送る相手の文明レベルが自分達より上ならば恥を掻くだけになるし、そうでなくとも送り方によっては無礼にもなりうるからだ。



(帰ったら、献上品を送るタイミングと場面、そして、作法についてマニュアルを作成する必要があるな)



 杉原はそう考えながら、相手の返事を待った。



「・・・分かった。そういうことならば、是非とも受け取らせてもらおう」



「ありがとうございます。後でこちらの者に持ってこさせますので。それと我が国の艦隊の停泊場所と将兵の滞在に関してですが──」



 ──その後、沖合いに停泊する日本艦隊と将兵に関することで幾つかの話し合いを行い、その日の会談は終わった。

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