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転生会の方針

西暦1947年(昭和22年) 11月11日 日本皇国 千葉県 某料亭



「では、物資の統制はあと1年か2年ほどで解除できるのだな?」



「はい、正確には最低でも1年、万全を期すならば2年といったところです。ただし、食料に関してはベビーブームが起きていることもあってもう少し掛かりそうですが」



 蛯谷の問いに、転生会の物資統制に関する報告担当者──渋沢田助はそう答えた。


 史実の世界大戦後に世界各地で戦争が終わった安堵感からベビーブームが起きたように、この世界の日本でも──流石に食料不足もあって史実ほどの勢いは無かったが──第二次世界大戦後(転移後)にベビーブームが発生しており、西暦1950年頃には人口は2億7000万人、西暦1960年頃には3億人を越えると予想されている。


 その為、食料の統制解除については西暦1950年代半ば、下手をすれば西暦1960年前後にずれ込む見込みとなっていた。



「まあ、ベビーブームについては仕方あるまい。下手に手をつけると大変なことになるのは中国の一人っ子政策が証明しているからな。そして、食料以外の物資の統制解除についてだが、西暦1950年の正月を目処に実施させよう」



「それがよろしいかと。あと資源に関することでもう1つ報告があります」



「なにかね?」



「例の魔剣や魔法の杖の製造などに使う魔鉱石やこの世界の生活用品である魔石に関してですが、千芝大陸の西部にてその鉱山が何件か発見されています。魔力はない我々では使い道がないとして今まで放置していましたが・・・これはどうしますか?」



 そう、この世界には地球世界に在ったような石炭や原油の他、“魔鉱石”や“魔石”といったこの世界独自の資源が存在している。


 前者(魔鉱石)は高い魔力を発生させることから渋沢が言ったように魔法の杖の製造や魔剣の製造に必要不可欠な物質であるのだが、加工が難しいことから大半の国では貴重品として扱われており、これが魔法の杖や魔剣の価格の高騰に繋がっていた。


 後者(魔石)は魔鉱石と比べると発生する魔力量は圧倒的に少ないものの、その分、加工もしやすく、余程の貧乏な家庭でも無ければ生活用品として一般家庭にも出回っている。


 しかし、どちらにしても魔力のない日本人には使えないためにこれまで採掘されても現地の倉庫に仕舞いっぱなしになっていたのだが、既に多くの倉庫の中身が埋まってしまっているのでいい加減処分を決めて欲しいと数日前に現場から抗議を受けており、今回の会合を機にその処分を決めたいと渋沢は考えていたのだ。



「そうだな。確かにそろそろ魔鉱石や魔石の扱いを決めるべきかもしれんな。確か科学研究所では魔鉱石や魔石のサンプルを採取して何かに使えないかという研究を行っていた筈だが、報告はまだ受けていなかったな。どうなのだ、佐賀君」



 蛯谷は転生会が設立した科学研究所の所長──佐賀幸治郎に対してそう尋ねる。



「・・・結論を申し上げれば、使い道は全くありません。そもそもあれらは魔力を持つこの世界の人間が使ってこそ真価を発揮するものですから。まあ当初は真価は発揮できないまでも、何かしらの有用な資源として使えるかとも思いましたが、どうやら魔力のない人間にとっては正真正銘、ただの石なようです」



「・・・なるほど。それなら我々が資源として使うという選択肢は諦めた方が良さそうだな。・・・では、他の国に売るという選択肢はどうだ?」



「おそらく買い叩かれる可能性が高いかと。魔鉱石は加工が難しいだけでそこら辺の鉱山で普通に採れるようですし、魔石に至ってはその辺の川原でも採れるようですので」



 蛯谷の発言にそう答えたのは、目に隈を作った転生会の経済部門の報告担当者──唐沢英一郎だった。



「では、加工して魔道具として売るのならどうだ?」



「品質の調べ方が魔力のない日本人には不可能な以上、あまり期待は出来ないかと。まあ、ダークエルフなら出来るでしょうが、彼らは日本人では有りませんし」



 然り気無くダークエルフに対する不信感を口にする唐沢。


 別にオタクという訳でもない彼はダークエルフにこれといった特別な感情は特に抱いておらず、日本に忠誠を誓ったというダークエルフという種族を完全に信用しているわけではなかった。


 確かに今のところは日本の言うことを聞くだろうが、世代が代われば彼らの日本に対する感情が悪い方向に変化してくる可能性も有ると考えていたし、そうなれば諜報と暗殺に特化した彼らの能力が厄介になってくるのではないかと危惧していたのだ。


 もっとも、今の現状ではダークエルフを取り込まないという選択肢は出来なかった──なにしろ、千芝大陸の資源の位置と魔獣の情報の殆どは彼らから得ている──ので、“例の御成婚”や最近徐々に進みつつあるダークエルフの日本国内への浸透に関してもあまり強硬に反対することは出来なかったのだが、それでも彼の心の何処かにはダークエルフに対する強い警戒心が燻っていた。



「相変わらずダークエルフに厳しいなぁ、唐沢は」



「あなた達が警戒しなさすぎるんですよ。それに私は少し注意する程度で済ませていますが、私よりもダークエルフに厳しい視線を向ける人間など、今の日本にはごまんと居ますよ?」



 それは事実だった。


 確かにダークエルフの存在は既に公表されており、彼らの持つ情報が今の日本にどれだけ貢献しているかは日本国民のほぼ全てが知るところとなっている。


 しかし、例の“御成婚の話”があまりにもいきなりすぎた事と転移の原因が分かっていないことから、『ダークエルフが我が国をこの世界に呼び寄せて都合よく操ろうとしている』という“ダークエルフ陰謀論”のような事を唱える人間も居り、それは日本国内、特に転移によって失ったものが多い神州大陸の住民から一定の支持を得ていた。


 そして、それに伴って神州大陸出身の軍人の間で御成婚反対が声高に叫ばれるようになっており、現在、彼らは憲兵隊(史実では陸軍の所属だったが、この世界では防衛大臣直轄の組織で三軍から独立した存在となっている)や公安警察(少し前までは特高警察であったが、転移に伴う組織改編によって名称が公安警察に改められた)、日本連邦捜査局(JFBI)(史実FBIの日本版。この世界の日本は連邦国家であった為にこのような組織が存在した)の監視対象となっている。


 もっとも、その3組織の中に居る神州大陸出身者の中にも御成婚に反対する人間が居ることから、事実上、監視網は日本本土以外(ちなみにこの時点では神州大陸は準本土という扱いであり、正式な本土として扱われるのは、選挙体制が整った来年5月の事となる)では半ば機能していない状態となっているのが現状だった。


 ・・・つまり、今の日本には唐沢の言ったようにダークエルフに反発する輩はあちこちに存在しているのだ。


 ──まあ、ダークエルフ自身もそれを理解していたからこそ、比較的冷静な視点でものを見ている日本本国の国民の支持を得るために本土のあちこちで自分達の存在の浸透を進めているのだが。



「それは否定せんがな。せめてここ(会合)ではそういうことを言うのは止めた方が良い。元の世界に帰るといった事態にでもならない限り、我々は彼らと長く付き合っていかなければならないのだからな」



「それは否定しません。ですが、付き合い方については定期的に見直す必要があると考えています」



「ふむ。・・・まあ、確かに方針の“手入れ”は組織の考え方を柔軟にする上でも有効だが、あまり頻繁にやってはダークエルフ側の不信を招くことになるぞ?」



「分かっています。しかし、5年、いえ、3年に一度程度はやる必要があると考えます」



「・・・分かった。検討だけはしておこう。ただし、あまり期待はせんでくれよ」



 蛯谷はそう言いつつ、次の議題に移る為に教育・思想方面の報告担当者──千木都一浪に顔を向けた。



「千木君、“例のお客さん”の様子はどうだ?」



「はい、今のところ、特にこれといったトラブルは起きていません。しかし、奴隷商人による虐待によって人間不信になっている者も一部居り、本国の学校などに編入させるにはもう少し時間が掛かりそうです」



「・・・そうか」



 その報告に蛯谷は苦い顔をする。


 彼らの言う“お客さん”とは、数ヶ月前にダークエルフ達が転生会の第六文明圏との国交仲介の停止の要請を無視した“詫び”として連れてきた数十人のハーフエルフ、獣人、ドワーフの少年・少女達の事だ。


 なんでも第六文明圏以外ではエルフや獣人、ドワーフは奴隷とされる例も多いらしく、こういった者達は奴隷商で簡単に買うことが出来るとのことだったが、日本では当の昔に法律で禁止されている奴隷売買の行為を行ったことに、当初、転生会の人間達は眉をしかめた。


 しかし、一度連れてきてしまった彼らを送り返すのは後味が悪すぎるということでやむ無く彼らを移民者という形で受け入れたのだが、子供とはいえ、人間とは違う種族となると交流の過程でどんなトラブルが起こるか分からないということで、一旦保護(監視)者をつけて様子を見てみることにしたのだ。


 そして、日本国内でやっていくには知識が不足していたり、虐待されて人間不信となっていた者が一部居たために、現在は本土で(神州大陸は亜人に対する目が厳しいため)普通に暮らせるように教育とカウンセリング等を行っているところだった。



「いっそのこと、本土の学校には通わせず、彼ら(亜人)だけの学校を作ってそこに通わせた方が良いのでは?日本の子供は良くも悪くも自分と違った者を排斥するものと新しい者を受け入れる者とで対比が激しすぎますし」



「それはそうだが・・・将来的に亜人の移民を受け入れることを考えるとな」



「まさか、また奴隷を受け入れると?」



「いや、そういうわけではない。しかし、第六文明圏と交流を持つ機会は何時か必ずやって来るだろう。そうなれば、日本に移住してくる輩が出てくるかもしれない。そうなった時、その分けるやり方はちと不味いのではないかと思ってな」



「そうでしたか。しかし、それはそうなった時考えればよろしいかと。今は受け入れた人間だけの事を考えるべきです」



「・・・まあ、それもそうだな。では、君の言う通りにしよう。速やかに彼らの為の学校と教師を用意しておいてくれ」



「了解しました」



 かくして、ダークエルフ達によって連れてこられた亜人奴隷達に対する処置は決められることになった。


 ──だが、彼らは後に思い知ることになる。


 この世界において、第六文明圏以外での各文明圏での亜人奴隷の扱いの闇がどれだけ深いのかを。

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