紐を引きたい女と紐を引かれたい男
1.紐を引きたい女と紐を引かれたい男
「さあ、いらっしゃい!この紐を引いて、繋がっている物がもらえる紐引き!500円でもしかしたら、PS5が当たるかも!さあ、いらっしゃい!」
俺は今、的屋のアルバイトをしている。
何故、俺がアルバイトをしているかというと、欲しい物があるからだ。
男子高校生なら1つや2つくらい欲しい物があっても不思議じゃないだろう。
俺が欲しいのはただ1つ彼女だけだ!
これまでの学生生活、部活と勉強ばかりしてきた俺は、青春というものをして来なかった。
「今日は、この祭りで可愛い彼女をつくって、この夏休みエンジョイしてやる!」
「おい!ちゃんと仕事してるか?」
「は、はい!ちゃんとしてます!店長!」
「それならいい、今日のノルマが終わったら、帰っていいぞ」
「わ、分かりました」
あの人顏怖すぎるよ。
「ねえ、今日はどこ回るの?」
「そうだね、今日は全部の的屋を回ってみようよ!」
「ちょっと、いくら使うつもりなのよ!」
「大丈夫、私は今日の祭りのために半年間お小遣いとアルバイト代ずっとため続けてたんだから!」
「それにしても結構多いよ、的屋」
「大丈夫だって、さあ行こう」
「何で女友達と一緒に祭りを回っているんだろうか…」
「そんなこと言ってないで、行くよ!」
「はい、はい」
それから私たちは、屋台が始まっている通りから的屋を1つずつめぐっていった。
ピンボール!射的!くじ引き!ダーツ!ボール投げ!輪投げ!etc…
「あんた、めちゃくちゃ強いわね!」
「そりゃあ、毎年やりまくってたら上手くもなるよ」
「それにしても、ほとんど1回で終わるなんて」
「運がいいだけだよ!ちょっと休憩して、あと半分回っていこう!」
私たちは昼ご飯に焼きそばを食べて、デザートにかき氷を食べた。
「よ~し、残りの半分頑張るぞ~」
「ほどほどにしてあげてね、的屋の人たち真っ青な顔してたから」
「そお?私には分からなかったな」
「何も感じずにやってたんだ…恐ろしい子」
それからも、すごい勢いだった。
入る的屋全て蹴散らしていく姿はまさに嵐だった。
「ここが最後の的屋ね!今年もここが最後なんて何かの因果かな…」
「いらっしゃい!ここは紐引きだよ、一番の売りはもちろんこのPS5、1回500円だ。さあ、やっていってよ」
やばい、この時間になっても全く売れない。
このまま売れなかったら、俺は最後までずっとこの屋台の中で売り続けなきゃいけない。もう午後7時を過ぎてる、このままじゃ彼女を作るどころか、祭り自体が終わっちまうよ。何とかしてこの子に引いてもらわないと。
「きやがったな、ガキ!」
「店長!」
「こんにちは店長!今年も来たよ。」
「去年は一発で持っていきやがったかな。今年はそうはいかねえぞ」
「お!何か秘策でもあるの!」
「今年の紐を去年の3倍にしてあるんだよ。実質去年の3倍だ」
店長…そんなことしてたんですか。
だから、全く人が来なかったのか。
こんなバカげたゲームにお金払う人はいないよな…
アルバイトする店間違ったかな…はぁ。
店長の電話が鳴る。
「あン!何だ!今、忙しいんだよ。何?頭が危ない、チっ!おい、アルバイト!ちょっと来い!」
「は、はい。何でしょうか店長!」
「ここからお前に任せる。良いか絶対、一等を引かせるな!何としてでも引かせるのを阻止しろ。引かせるなら最後の最後だ。すべて引かせてから一等を引かせろ、もし残ったまま一等を引かれたら…お前のアルバイト料は無しだ!」
「そ、そんな!わ、分かりました。」
「お話は終わった?」
「ああ、良いぜ!じゃあ、後は頼んだぞ、アルバイト!」
「了解です!」
「よ~し、それじゃあ引くよ!」
まあ、これだけあるんだ、一発目からあたりを引くなんてありえない。
俺はそう思っていた。
しかし、そんなことはなかった。
「う~ん、どれにしようかな…これにしよ」
そう言って、彼女が引こうとしたのが一等のくじだった。
「嘘だろ!一発目から一等のくじに手をやるのかよ!」
引かれそうになった瞬間、俺はすぐさま、話しかける。
「それでいいんですか?こちらの方がおすすめですよ」
「そんなこと言って、この子が変えると思う?」
「そ、そうですか?ならそうしようかな…」
「え、良いの!自分で決めたのしか信じないんじゃなかったの?」
「何言ってるの!人の言うことは素直に聞いた方が良いって」
そして彼女が引いたのは、俺が選んだ6等だった。
「あ~外れちゃったか。お兄さんもう一回!」
それから、何度もお勧めしては6等や5等を引かせた。
でも、なんかすごく心が痛くなってきた。
「ねえ、そろそろやめなよ。これ以上はやりすぎだって」
「い、良いから。お兄さん次は何を引けばいいですか?」
引いてもらえればアルバイト料がもらえる、でも、こんなことをしてもらったお金ってどうなんだ…
「俺じゃあ全然当たらないや、君の好きな紐を引くといいよ」
「そ、そうですか。ならこれで」
そう言って引いた、紐は意外なものだった。
「え?」
「先輩が欲しいです…」
彼女が引いたのは俺の腰ひもだった。
「は~、これだけ引いて、やっと引く気になったの。それにしても、こんな鈍感な奴のどこがいいんだか」