1-2 懐かしの通学路
家を出るとそこは懐かしの景色が拡がる。
今(35歳視点)はもう無い駐車場や皆で遊んだ思い出の公園を通過した所で声を掛けられた。
「たぁーくんおはよう!!」
(おぉ!!あれはホッシーじゃないか)
ホッシーとは小学校、中学校時代、一緒の野球チームに所属していた事もあり、大人なってからも付き合っていた腐れ縁だった為、直ぐに分かった。
「ホッシーおはよー」
俺も手を振りながら挨拶をする。
すると目の前のホッシーは固い表情で立ち尽くし、こんな事を言う。
「ホッシーってだれ?」
「えっ??」
思いもよらないホッシーの一言に状況が全く掴めず立ち尽くす。
(どうゆう事だ?目の前にいるのは間違いなくホッシーのはず。付き合いの浅かった奴ならともかく、腐れ縁の友達を間違えるはずもない…)
そんな事を思いながらもすぐさま自分の過ちに気が付いた。
(そーいえばホッシーってあだ名は中学生位の時からで小学生の時は違うあだ名だった様な…。
ホッシーの本名はホシザキ ミノル…)
「あっ!!」
「みっちゃんおはよう!!みっちゃんって名字にホシが入ってるじゃん?ホッシーってなんか強そうで格好良くない?」
そんな適当な事をいってごまかす。
「格好いいかな?」
「すごい格好いいと思うけどなぁ。でもやっぱりみっちゃんはみっちゃんだよね?」
「僕もやっぱりそっちがいいかな」
(流石小学生!!こんな程度の会話でなんとかなるんだな…)
そんな事を思いながらもホッシーことみっちゃんと脚を進める。
「昨日のニチロー凄かったよね?ホームラン2本も打って!!」
みっちゃんはプロ野球の話題を振ってきた。
そこでまた、
「えっ??」
(ニチローは知ってるけど、昨日??)
俺の中での昨日は、昼間就活して特に成果も無く家に帰り、缶ビールとコンビニ弁当を食べて寝たのが昨日。
今朝起きた時は何とも思わなかったが、35歳から記憶を保ったまま小1の自分に戻れたけど生まれてから今朝までの記憶が全く無い…。
当然昨日のプロ野球の記憶も無く、何を食べたのかも全く思い出せない。
(これって結構ヤバイんじゃないか??)
そう思ったがどうする事も出来ず、
「昨日、お姉ちゃんとお母さんがドラマ観てて野球見られなかったんだよねー」
そう適当に誤魔化しつつ、頭の中で考える。
(きっと、いきなり35年分の記憶が入ってちょっと混乱してるだけだ!!ちょっと考えれば色々思い出すはず…)
そう思いながら記憶を辿る。
(ダメだ…全く思い出せない…)
人生の勝ち組を確信してから1時間も経たず、思いもよらぬ落とし穴にハマるのだった…。