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五つ下の妹、アリスは兄の目から見てもかなりの美形だ。まだ13歳ではあるが、国一番の美女と言われた母のシルクのような銀髪と陶器のような白い肌、美丈夫と有名だった父の紺色の瞳と顔立ちがいいように混じりあったのか中性的な顔はすでに完成された美になっている。普通に令嬢として社交界にでも出れば、良い縁談にも巡り会えただろう。
しかし残念ながら彼女は普通の令嬢ではなかった。アリス・クローディアは顔だけ見れば、麗しい美少女だ。
しかし、中身は見た目とまるで違っていた。
彼女がそうなってしまったのは父がかなりの原因であることは明白だ。
まず領地で隠居生活をしていた為、令嬢教育のための家庭教師はいなかった。父は剣のことしか考えないようなタイプなので、子どもに貴族らしさを強要するような人ではなかった。領地の森の奥の屋敷で他の貴族との交流もなかった。
それでも母がいればまだ良かったのだが、母は彼女が3歳の時に亡くなってしまった。
貴族令嬢としての教養を教えてくれる母も教師も友人もいなかった彼女はが興味を持ったのは父が俺につけていた剣の稽古だった。
騎士団団長まで昇り詰めた父の稽古は大人でも逃げ出すほど厳しいものだったし、俺も父のことは尊敬していたが、稽古だけは本当につらかった。しかし、彼女は自分からけいこがしたいと志願したのだ。しかも6歳の時にだ。
父は子どもだろうと女だろうと剣に関しては容赦しない。俺はすぐに嫌になって逃げ出すだろうと思っていたのだが、彼女は毎日毎日父の指導を受け、剣を振り続けた。父が病で体を動かせなくなるまで毎日だ。
彼女は顔は美少女でも頭はただの脳筋だったのだ。
しかも彼女は父の剣の才を引き継いでいたのか、俺よりもずっと剣が扱いが上手かった。彼女の才に気づいた父もそれは熱心に教えたのだ。正直言って女が剣を握ることはこの国ではありえない。女は結婚して子どもを産み、夫を支えるが当たり前であり、魔物の討伐も戦場の戦いも男の仕事なのだ。それは平民でも同じで、仕事として店の手伝いや切り盛りはしても剣を持って戦うなどはありえなかった。
それでも剣バカの父は妹に剣を教え続けた。
そうして現在、13歳になった彼女は貴族教育ではなく、騎士とての技術をこれでもかと詰め込まれた伯爵令嬢になってしまったのだ。