あるいはある探偵の私記
僕たちは場所をバーに変えた。こんなところで話をしているとあらぬ誤解を生むかもしれないからだ。
直子は酒に口をつけると僕をからかうように口を開いた。
‐珍しいわね。直樹くんがこんなところにいるなんて
彼女の問いにコーヒーを飲みながらそっけなく答えた。
‐25年前に起きた殺人事件の調査をしています
直子には警官になったということは話していなかった。直子は柔和な表情を崩さないながらも
‐まあ、ってことは直樹くん、刑事になったの?
僕の卒業アルバムに書いてある夢が刑事になるということだったことを直子は憶えてくれているらしい。
‐まあね。それで直子はなんでこんなホテルにいるの?
すると直子の口からなんでもいいじゃないという言葉が漏れた。
‐そんなことより直樹君が刑事になっていたことのほうが驚き。
そういってリキュールに口をつける。その態度からして捜査には必要最小限の協力はするが私自身話すことは特にないという態度だった。まあいいそんな口調で話されても僕はたいして落胆しなかった。こんな場所にこんな時間から酒を飲んでいると私たちは他人から変な目でみられるのではないだろうか。
‐まあね。いろいろあってね。
店の主人らしき人がワインを振っている。カクテルというのだろうか。テレビ画面越しに見たことはあっても
実物はみたことがなかった。