初恋の人2
平日の昼間でも王都は活気に溢れている。所狭しと露天が立ち並んでいる。
周囲に注意を払いつつ歩いていると、不意にある物が目に付いた。
「お、目敏いね。なかなか悪くないだろう?」
「髪飾りか。良い品だな」
俺の視線を追った殿下が褒めると店主が照れ臭そうに笑う。
顔を見上げると、実は息子の手作りなのだと教えてくれた。
再び目線を下ろして髪飾りを眺める。深緑の下地に白でかすみ草が描かれたバレッタだ。
「恋人なら贈り物をするのは当然だな」
無言でバレッタを手に取ると、殿下が揶揄うように顔を覗き込んでくる。
「恋人か。いいねえ」
「いや」
「そう照れるなって。あんたも隅に置けないな」
否定したが、店主に聞き入れて貰えない。
笑顔で差し出された紙袋を受け取って店を後にする。
中には綺麗な白い箱が入っており、中身が出ないように上から青いリボンが掛けられている。
「そろそろ行くか」
宰相の家は王都から少し離れた場所にある。歩くには少し距離がある。
どうしようかと考えあぐねていると遠くから声を掛けられた。
「ウィル!」
「ホフマンか。久しいな」
王都ではそれなりに名の知れた商人だ。
親しげな様子からして普段から交流があるのだろう。
それだけ城から抜け出していると考えると頭が痛い。
「乗せていってやろうか?」
「ああ、頼む」
あっさりと荷馬車を捕まえて宰相の屋敷付近まで無事に着いてしまった。
門の前で待機していると程なくして宰相が姿を見せる。
俺の隣に立つ殿下に気付くと呆れた顔をして笑った。
「あまり彼を困らせてはいけませんよ。……ご苦労さま」
気遣いが滲む労いの言葉に軽く頭を下げる。
宰相として仕事をしている時は厳格で隙が全く無いせいだろうか。
まるで別人と話しているような気分になる。
「相変わらず、外では別人だな」
殿下も全く同じ事を思っていたらしい。
「常に気を張っていると疲れますからね」
「こいつにも見習わせてやってくれ」
「主を危険から遠ざけるのは当然です」
「相変わらず表情が読めないな」
「よく言われます」
自分が裏でどう呼ばれているかは知っている。
朴念仁だとか鉄面皮だとか、まあ散々な言われようだ。
好きに言わせておけば良い。俺は自分の役目を全うするだけだ。
「しかし、君は来てくれるとは思わなかった」
「表向きは護衛任務だが、実際は有給休暇中だ」
気を遣わせたくないから護衛任務だと口裏を合わせるよう頼んだのに。
じとりと横目で見遣ると殿下が更に言い募る。
「お前は働き過ぎだ。少しは身体を休める事を覚えろ」
「心配いりませんよ。相手はクロエですからね」
足を止めた宰相が目を細めて遠くを見据える。
視線を追った先には庭先で花を愛でるクロエ嬢の姿があった。
「俺は宰相と話がある。ああ、その物騒な物は置いていけよ」
宰相と屋敷へ向かう殿下が振り返って手を出した。
どうやら剣を渡せという事らしい。
「それに、下手に警戒されると面倒だ」
確かに、殿下の言い分には一理ある。
今回の一件を長引かせるのは俺も本意ではない。
素直に剣を渡すと背中をぽんと押された。
「俺が行くと気が張るだろうからな。お前から説明しろ」
「承知しました」
屋敷へ入って行く背を見送り、クロエ嬢の元へ歩みを進める。
久々に見る彼女は以前と変わらない様子で密かに胸を撫で下ろした。




