パラノイアガールと牛丼
私、レブロン藤堂は自分が書いていた原稿を印刷して読んでいた。
「ふむ、ふむふむ 牛丼食って、時給800円の夢見たるかな」
なんとチープな詩だろうかと思ったけど、まあそういうものだから特に気にすることもないかとも思っていた。
すると私の隣で、先ほどからやたら跳ねているブルーが、そのふわふわのポニーテルを楽しそうに揺らす。
「見て見てレブロン、私まるで観覧車だよ」
はあとため息がこぼれそうになった。
私はブルーの頭を掴んで、高校時代に42キロだったその手に力を込めた。
「あ、痛っ 、あ……あれ全然いたくないよ」
「うるさい、俺だっていつまでも永遠の16じゃないんだよ 派遣とか、ブラックとかそういった薄汚れた連中の名残みたいなもんですよ」
俺はそういいながらブルーのでこっぱちにデコピンを浴びせた。
「あひゃっ!」
さて、作業に戻らねば。
大体なんのためにリサイクルショップでそれっぽい机を買って来たと思ってる。
すべてはシャレオツな小説を書くためだ。
決してこのポンコツの相手をするためじゃない。
そして私は文章をPCに向かってタイプした。
鯨のような巨体を揺らす、巨乳のアンドロイドが私の部屋に突如として現れた。
彼女は紫の髪と、感情に乏しい白い目をもっていた。
そして実際そのようになった。
まばゆい光と共に彼女は私のマンションの一室に姿を現したのだ。
当然狭いその部屋が彼女を受け止めることはできず。
天井は壊れ、床は抜けと……まあ散々だ。
「またこうなっちまったか」
私は内心もう諦めていた。
どうにも、自分の書いたキャラが出てくるようになってしまったからだ。
ここ数ヶ月、ほとんどマンションに籠っていたせいだろうか。
これは現実じゃない、どこかでそう思いながらも、もうこんな日を三日続けている。
寝て起きて、まだブルーがいた時のあの感覚といったら。
「おお、派手にやってるじゃないか」
オンボロのドアを開けて、赤髪のシャロンが言った。
メガネの奥の目が生き生きと輝く、カブトムシでも見つけた子供みたいだ。
「お前の時と対して変わんないだろ、もうどうにでもなれだよ」
「はは、私はもっと礼儀正しかっただろう 少なくとも床は壊さなかったし、パスタもつくってやったじゃないか」
「う〜ん、まあそうだな」
私はシャロンにそう言われて、少し落ち着いた。
そしてどう見ても巨人のその娘にいった。
「お前は今日からパープルだ、俺はお前の製作者のレブロン よろしくな」
彼女はしばらく私を見つめたあと、抽象絵画の人間がするように頷いた。