黄作戦②
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「『黄作戦』を中止しろとはどういうことかな少佐?陸軍総司令部が練りに練り上げた作戦案を君一人の異論で否定しようというのかね? 今更なにを根拠に我々の作戦案を否定するのか言ってみたまえ」
陸軍総司令官ブラウヒッチュが凄みのある顔でにらみつけてくる。
どうやら俺を論破して叩き潰す役はブラウヒッチュらしい。
総統官邸での二度目の発表会は一度目とは違い、事実上の討論会だ。
ここでOKHメンバーを言い負かし、ヒトラーを納得させなければ史実で得た勝利すらおぼつかなくなる。
さいわいグデーリアンやマンシュタインも参加を許されているので、援護はあるだろう。
「まことに失礼ながら小官の考えでは、陸軍総司令部の考案された『黄作戦』で得られる軍事的成果はあまりに限定的なものになると言わざるを得ません。現状の『黄作戦』は我が帝国が先の大戦で実施したシュリーフェン作戦の踏襲に過ぎず、英仏軍司令部も我々の侵攻経路を容易に読むことができます。我々が総力を挙げてベルギーを攻めれば、英仏軍はフランス北東部に主力を集めて効果的な地点で迎撃するでしょう。そうなれば、前大戦の二の舞。長期戦は避けられません」
「そこで私が提案させていただくのは機甲兵力を用いた奇襲作戦です。ベルギー方面の軍は囮に使い、主力である装甲部隊をアルデンヌの森から投入。英仏軍の防衛線を腹背から食い破り、機動力をいかして一気に英仏海峡へと到達するのです。成功すれば英仏軍主力をフランス北東部に孤立させ、一撃で勝負を決めることができるでしょう。」
「不可能だ。アルデンヌの森で装甲部隊は進撃できんよ」
「一般的に装甲車両の通過が不可能とされているアルデンヌの森だからこそ奇襲効果があるのです閣下。そして、快速部隊総監部の調査結果によるとアルデンヌ森林地帯における装甲車両の行軍は決して不可能ではありません」
「ならば制空権の問題はどうするつもりだ?装甲師団は航空支援なしでは進軍出来ないはずだ。英仏軍航空機三千に対して、我が軍の航空機は二千機。装甲師団の進撃に合わせて迅速に制空権を奪取する具体策を述べたまえ」
「一度目の攻勢に全ての航空戦力を投入します。一般的に一度目の作戦に投入する航空機の数は全体の25%~30%とされています。よって英仏軍の航空機は750機~1000機程度と予測され、我が軍は十分に航空優勢を維持できるでしょう」
ブラウヒッチュが我慢の限界とばかりに怒鳴り散らす。
「なにを馬鹿なことを言っている!?一度の作戦に全ての戦力を賭けるなど正気の沙汰ではないわ!失敗すれば後のない作戦など作戦ではない!」
「ええ。だからこそ成功するのです。英仏軍も閣下のように考え、航空戦力を後方に温存し、一度には投入しないでしょう。一撃目に全力投入すれば制空権の確保は容易です」
「な、ならば貴様のように英仏軍が最初から航空戦力を全力投入したらどうするつもりだ!」
「それはありえないかと。英仏軍は麾下将兵の全てが防衛線の内側に展開し、その配置も明らかに守勢を意識しています。守勢主体な作戦を採用している以上、英仏軍の戦略は長期戦が前提であり、一度の作戦に全ての航空戦力を投入する必要性が生じません」
ここで今まで話を聞いていたヒトラーが口を開いた。
「素晴らしい!予も参謀本部の考え方は間違っていると思っていた。あらゆる戦闘効果は奇襲によって生まれるのだ!すぐに作戦計画案を修正したまえハルダ―君」
「し、しかし『黄作戦』はすでに完成して・・・」
「少佐の話をきいてなかったのか?もしどうしてもOKHが拒むのなら、OKWに作戦立案を任せることになるが」
「「ははっー!すぐに取り掛からせていただきます」」
ブラウヒッチュもハルダ―もあわてて平伏するが、その顔は不満タラタラだ。
グデーリアンとマンシュタインも安堵の表情をうかべている。
どうやら俺達の勝ちだなと思った時、唐突にヒトラーの質問がとんできた。
「ところで少佐。一つ質問なのだが装甲師団は後続の歩兵師団と一緒でも迅速に進撃できるのかね?」
「いえ。装甲師団は単独で海峡まで進撃してもらいます。後続の歩兵を待っていては奇襲は成功しません。」
「なにっ!?少佐、それは危険すぎるのではないかね?」
なにをいまさらと思ったが、俺はある重要なことを思い出した。
史実でもヒトラーはアルデンヌからの奇襲には積極的だったが、装甲師団単独での進撃には最後まで懐疑的で、マンシュタインプランでも歩兵と装甲師団の顕密な連携が重視されていたのだ。
結局現場のグデーリアンやロンメルがプランを無視して海峡まで突っ走った結果、作戦は大成功をおさめている。
まずい!と思った矢先、OKHコンビが反撃を開始した。
「少佐はスペイン内戦を知らんのか?歩兵の支援を欠いた戦車ほどもろい物はない。歩兵を無視して進撃など自殺志願者と変わらんよ」
「その通りだ!アルデンヌからの奇襲案はともかく、装甲師団の運用については納得しかねる。装甲師団だけで英仏軍の防御陣地とどうやって戦うつもりかね?」
これはヤバいぞ。
ここで巻き返せなければ、一番大切な装甲師団の運用面でOKHが主導権を握ってしまう。
落ち着いて冷静になれ。
深呼吸した俺はゆっくりと反論を開始した。
OKH=陸軍総司令部
OKW=国防軍総司令部