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ポーランド侵攻

戦争勃発まであと二か月をきっている。

なんとか戦争を避けたい英仏と戦争などおこらないと高をくくっているヒトラー。

両者の勘違いと楽観論が世界大戦を引き起こしたのだ。


そして、いま両国はキャスティングボードを握るソ連に接近している。

戦争準備の整っていない英仏にとってソ連の軍事力は魅力的だ。

英仏軍が展開している間にソ連軍がポーランドを守ってくれる上に、大戦になっても二正面作戦を仕掛けられる。

一方帝国にとってはソ連さえ、味方にひきいれれば英仏軍が展開する前にポーランドを片付けられ、英仏と戦う際にも背後を突かれなくてすむ。


史実を知る俺はこの外交戦争でどちらが勝利するかを知っている。

ポーランド領内の通過権すら提供出来なかった英仏に対して、ヒトラーはバルト三国、フィンランド、東部ポーランド、ブルガリア、北部ルーマニアの広大なブロックをスターリンに差し出した。


1939年8月23日、独ソ不可侵条約の締結が発表された。

不倶戴天の敵同士である独ソの同盟は世界に衝撃を与えたが、軍内部への衝撃は少なかった。

誰もがいずれ起こる対ソ戦までの時間稼ぎだと知っていたからだ。

そして1939年9月1日、帝国はポーランドへの侵攻を開始。

対する英仏も帝国に宣戦を布告。

二度目の世界大戦が始まった。



【1939年9月1日 ポーランド共和国領 ワルシャワ 野戦病院】




壮絶な市街戦の末、ポーランド共和国の首都ワルシャワが陥落した。

東方ではソ連軍が参戦し、残存ポーランド軍はルーマニアやハンガリーに逃亡した。

これで主要な戦闘は終わった。


「体の方はどうハインツ?」


「軽傷だ。機関銃で砕かれた石片が当たっただけ。明日には退院できるってさ」


俺はポーランド作戦で第25歩兵連隊の作戦参謀を任せられた。楽勝だと思っていたポーランド戦だが、現場は中々に辛かった。

ワルシャワ市街戦では連隊長が負傷。

三人いた大隊長のうち二人は戦死し、参謀の俺も負傷した。負傷した時は戦死も覚悟したが、味方がなんとか機関銃陣地を占拠してことなきをえた。

今はワルシャワで設営された野戦病院にいる。


「お前の方こそ大丈夫なのか?連隊長が戦死したんだろう?」


「うん。でも連隊の皆が助けてくれたかたなんとかなったよ」


アリスの配属された連隊は列車砲の餌食となり、連隊長と全ての大隊長が戦死。

臨時でアリスが指揮をとったらしい。


「ライエンとシュミットは?」


「二人とも無事みたい。私たち幸運だね」


ドイツ軍は兵員300万、戦車3000両、航空機3000機を超える圧倒的な戦力で三方からポーランドへ侵攻。

機械化部隊と陸上部隊を支援する専門の航空部隊を組み合わせた空陸一体の突破戦術「電撃戦」をこの戦争で初めて試した。

新理論と新戦力を携えたドイツ軍に対してポーランド軍は騎兵と列車砲と塹壕で戦う旧世代の軍隊だった。

戦略的には帝国の圧倒的勝利に終わり、各地で国境を突破されたポーランド軍はワルシャワ近郊で包囲殲滅された。それでも、戦術レベルでのポーランド兵の勇敢な戦いぶりは時としてドイツ兵を圧倒した。

正確な数字はまだでてないが、司令部発表によるとドイツ軍の戦死者は二万、負傷者は三万に達するという。


「ところであなたの提出したレポートは採用されたの?」


「新米少尉の妄想を真に受けるほど司令部は暇じゃないさ」


俺は出征前に装甲師団の運用に対するレポートを陸軍総司令部に提出した。

装甲兵力は敵野戦軍の包囲殲滅ではなく、敵深の突破に集中運用するべきだ。

なぜなら、縦深を突破して前線を強引に押し上げれば、包囲殲滅しなくても前線に取り残された敵兵力や敵拠点は無力化されると。


陸軍は戦車・自走砲などの集中運用という点では一致しているが、運用法をめぐって二つの派閥に分かれている。

主流派なのは包囲殲滅派だ。

かつての騎兵のように敵前線を突破しつつ、敵野戦軍を包囲する。歩兵部隊が到着するまで包囲を維持する必要があるので、歩兵部隊との顕密な連携が求められる。



一方で機甲部隊創設の父と呼ばれたグデーリアンや機動防御で有名なマンシュタインなどの少数派は敵縦深の突破に重点を置いていた。

装甲部隊で前線を突破する→敵部隊は包囲を避けるために後方陣地に撤退する→敵よりもはやく後方陣地に突進する→敵は再び包囲を避けるために撤退する


敵軍は撤退のたびに装備を失い、拠点で立て直す暇もなくさらなる撤退を強いられる。

これを繰り返せば敵部隊は自然に無力化され、空中分解していく。

しかも、後方に防衛戦を敷かれる前に決着をつけられる。

敵野戦軍の包囲に重点を置いてしまうとその分自軍の足は止まり、敵に後方で立て直す時間的猶予を与えてしまうというのがグデーリアン達の自論だった。

前者の理論とは正反対で装甲部隊は独立した補給体系と指揮権を与えられ、必要に応じて自由な機動が許される。


厳密に「電撃戦」と呼べるのは後者だけだが、一般的には前者も「電撃戦」に含める。

史実でもポーランド戦では殲滅戦を採用。

フランス戦では無力化主義で結果を出したが、対ソ戦では再び殲滅戦が復活している。

ドイツ軍は戦争中に結論を出すことができなかった。

むしろ敵であるソ連軍が無力化を目指す「縦深作戦」を完成させてしまい、ドイツ軍はなすすべもなく分かいされていった。

できることなら後者の無力化主義をソ連戦の前に公式ドクトリンとして定着させたい。



「私はなかなかいいと思ったんだけどなあ」


「光栄だよアリス参謀総長殿」


「もうッ!本気だよ? あなたの論文ならおじさまも気に入ると思うし」


「おじ様?お前のおじさんも軍人なのか?」


「言ってなかった?」


アリスが口にした名前は転生前の日本でも有名な「機甲部隊の父」だった。



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