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アプヴェーア

【1940年8月15日 第三帝国 ベルリン 国防軍対外防諜局本部】



「西部から東部への兵力移動はイギリス空軍の空爆を避けるためだと逆情報を流して欲しいのです」


「つまり陸軍はソ連への奇襲を狙っているのかね?」


国防軍対外防諜局アプヴェーア

ナチス体制下では多くの情報機関が競合しているが、情報操作で彼らの右にでるものはいない。

アプヴェーアの情報操作を欠いては、奇襲作戦を成功させるのは不可能に近い。

陸軍総司令部の紹介でアプヴェーア本部を訪れた俺はフリードリヒ破壊工作課長に情報工作を依頼している。

アプヴェーアはOKW直属の組織だが、反ナチスという点でOKHと利害が一致しており、その縁は非常に深い。


「はい。大兵力の移動は対英戦のためだと誤認させて欲しいのです。1941年3月までに東部への兵力移動を完了させる予定ですが、それまでの間、ソ連情報機関の眼をどうにかして誤魔化す必要があります」


「なるほど。だが東部への兵力移動が完了した時点から作戦開始日までの期間はどうする?」


「対英作戦時の背面防御のために東部国境を固めると流してください。帝国内部でもソ連のポーランド侵入を臭わせるような流言があれば、正当化出来るはずです」


ソ連を騙すにはイギリスも騙す必要がある。

ポーランドの防衛強化はイギリスに対する最大の圧力になるはずだ。

イギリスに常に脅威を与え続けることで、自分達が最大の標的だと誤認させる。

そうすることで英ソ両国の接近も防げる。


「了解した。直ちに情報操作に取り掛かろう」


フリードリヒ大佐は三つの方針を支柱とする情報操作を約束してくれた。


・ソ連情報機関に対する専門の防諜部隊を東部国境に移動した部隊に配置する。その上で破壊工作などの活動を通じてソ連情報機関の活動を麻痺させる。


・ソ連情報機関の諜報員にたいして偽情報を流す。内容はイギリスに対する奇襲作戦やソ連に対する背面防御などの印象を与えるものとする。


・東部への兵力移動の秘匿に全力を尽くす。



これで東部への兵力輸送の工夫も機能しやすくなる。

東部に兵力が移動していることはわかっても、アプヴェーアの情報操作があればその詳細はつかめないはず。東部に終結した兵力は全兵力の半分未満だと誤認させれば、背面防御という帝国側の説明に説得力が増す。

完全に姿は消せなくてもその全貌をつかませなければいい。


これからはイギリスに対してもガンガン圧力をかけていく。

中東への派兵、バルカン侵攻、そして「アシカ作戦」に代わる新作戦等。

英独全面戦争に世界の注目を集める。

そうすることがソ連の警戒心を解くことにもつながるからだ。


一歩一歩だがソ連への奇襲計画は着実に進んでいる。



【1940年8月15日 第三帝国 ベルリン 国防軍対外防諜局本部】


ヴェステンハーゲン少佐が帰った後、ヴィルヘルム・カナリス海軍大将はフリードリヒ大佐から報告を受けた。

アプヴェーアの諜報員達はヒトラーではなくカナリス個人に忠誠を誓っている。


「あの戦争狂いの総統が対ソ戦を始めることはわかっていた。だが、まさかこんなにはやく始めるとは…」


カナリス大将は深々とため息をついた。

表面上総統に全面的な忠誠を誓っているアプヴェーアだが、その内実はヒトラー暗殺グループを支援している反体制派勢力だ。

情報操作で他国との戦争を勝利に導き、ヒトラーの博奕から帝国を救おうと努力を続けてきたが、とうとう来るべき時がきたらしい。

ソ連と開戦すれば間違いなく帝国は破滅する。


「貴官は陸軍の奇襲策で帝国が勝利出来ると思うかね?」


「奇襲が成功すれば一定期間の戦術的優位は確立出来るかもしれません。ですがそれで終わりです。ソビエト政府がその戦争遂行能力の総力を挙げて抵抗すれば、最終的に敗北するのは我々です」


陸軍や総統はソビエトの軍事力を過小評価しているが、かの国が本気になればその軍事力は帝国をはるかに凌駕するだろう。

現時点でも欧州に展開するソ連の地上戦力は兵士二百万人 航空機一万二千機、戦車二万両、火砲五万門に達している。

対する帝国の保有戦力は兵士五百万人 、戦車四千両、航空機四千機、火砲一万二千門に過ぎない。

兵士の数ならともかく銃火器の数ではまるで歯が立たない。

一年もすれば押し返され祖国はロシア人に蹂躙されてしまう。


「ヴェステンハーゲン少佐はどうかね?我々の側にひきこめそうか?」


「彼はOKH将校ですが総統閣下の引き立てで今の地位を築いています。OKWにも籍を持つので党員ではないとはいえ、白だとわかるまで直接的な接触は危険でしょう。ですが、幸いなことに彼の同期に『フクス』がいます」


「よし。ならば『フクス』に少佐の監視を命じるのだ。白だとわかり次第説得させろ」


反ヒトラー派将校グループ「黒いオーケストラ』をアプヴェーアは戦争前から親身になって支援してきた。

有事の際に彼らが実働兵力としてヒトラー政権を打倒するためだ。

『フクス』は陸軍総司令部の反ヒトラー派将校の一人でアプヴェーアとの連絡要員でもある。


ヴェステンハーゲン少佐は西方戦役の成功以来、その発言は参謀本部でも重いものになっている。

その彼を味方に引き込めば対ソ戦をアプヴェーアでコントロールすることも難しくはない。

だが、ヒトラーとの関係を見る限り親衛隊諜報部(SD)の諜報員である可能性は捨てきれない。

SDがスパイを陸軍中枢に送り込むためにヒトラーが力を貸したと考えれば筋は通る。


早急にヴェステンハーゲン少佐の身元を洗う必要がありそうだ…。


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