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輸送計画

【1940年 8月3日 第三帝国 フランス軍政府領 ファンテンブロー 陸軍総司令部】


1940年8月、陸軍総司令部はベルリンからフランスのファンテンブローに移された。

表面上は対英作戦を指導するためとされたが、本命は西部の兵力を対ソ戦に備えて東部に動かすことにある。

現在ドイツ軍は130個師団が西欧に、20個師団が本国に、36個師団が東部国境に展開している。

問題はこの巨大な兵力をどうやってソ連に警戒されずに、西から東に移動させるかだ。

対英戦を利用して警戒心を薄めるということだけでなく、移動した事自体を誤魔化す工夫も必要になる。

バルカンや中東での作戦が実施されるまで、対英戦という名目で東に部隊を動かせないからだ。


俺は陸軍総司令部から正式に輸送課長補佐に任命され、上司であるバーゼルト大佐と共に輸送計画の立案・実行を取り仕切ることになった。


「師団再編計画を利用出来ないでしょうか?」


1940年8月1日からドイツ軍は師団再編計画に取り掛かっている。

12個装甲師団が24個装甲師団に倍増することが決まり、さらに1941年4月までに36個師団に増強される。

6個自動車化師団は20個師団に増強される。

東部や西部に展開している師団は改編のため本国に呼び戻され、本国で新規編制された師団は東部や西部に送られる予定だ。

この師団再編計画に東部への兵力移動を紛れこませてしまえばいい。


「それは私も考えていた。だが短期間で東部の兵力が膨れ上がればソ連を警戒させることになるぞ」


「東部に展開している36個師団の中でいくつかの師団は一旦西部に移動させましょう。出来るだけ大部隊に見せかけるための工夫が必要になりますが。本国の予備師団も西部に送っておくといいかもしれません」


西から東に送ってばかりだと不自然だ。

東から西への移動も必要になる。

そして、移動を活発化させれば、師団再編計画の円滑な兵力移動を名目に対ソ用の補給路となる幹線道路や鉄道線を建設することもできる。


ソ連への大規模な欺瞞作戦は三段階に分かれている。

第一段階では師団再編計画に紛れて東部に兵力を送る。西部や本国の兵力との交代だとソ連情報機関に誤認させる。

第二段階では中東、バルカン方面での軍事作戦、イギリス空軍の空爆圏から陸軍を安全な東部へ退避させることを名目に東部へ兵力を送る。

第三段階では東部に集結させた膨大な兵力をいかに正当化するかが問題になる。イギリス本土上陸作戦実施時の背面防御だとソ連に思い込ませる情報工作を大規模に実施する。



第一段階はOKH主導で実施される。

バトルオブブリテンが失敗してヒトラーが『アシカ作戦』を諦めるまで、OKWは対英戦を完全な囮には出来ないからだ。

対英戦を諦めヒトラーの関心が対ソ戦にむくまでの間はOKHが単独で進める必要がある。

今の時点ではOKWもヒトラーも対英戦と対ソ戦を同時に進めている。


第二段階は『アシカ作戦』が中止された後に開始する。この時初めてOKHは欺瞞作戦をOKWと共有し、軍だけでなく親衛隊情報部や宣伝省、外務省との協力が可能になる。国をあげた芝居を行うのは第二段階からだ。


「ならば、国内予備軍の予備師団8個を東部に送ろう。その8個師団と東部からひきぬいた3個師団を合わせた11個師団を時期を見て西部に大々的に送る。そして、東部に送る兵力の一部は直接ポーランドのソ連国境に送るのではなく、オーストリアとボヘミアに一旦留めることにする」


「はっ」



西から東を行き来する将兵には悪いが、やってもらうしかない。

ソ連相手に主導権を確立するには奇襲しかないのだから。

国力戦力ともに帝国をはるかに上回るうえに、ソ連には革命以来積み上げてきた独自の軍事体系がある。

資源に乏しい第三帝国の数少ない優位性の一つが軍事理論の先進性だが、ソ連相手にはその優位性も通じない。

ソ連は真の意味での電撃戦ともいえる「縦深作戦」ドクトリンを大戦前の1936年に完成させているのだ。

電撃戦理論を最近ようやく導入した帝国よりもその理論完成度は遥かに上をいってるといってもいい。

物量だけが取り柄の米英軍よりもはるかに手強い相手だ。


しかし、1937年に開始されたスターリンの大粛清により、8万人の将校のうち3万人の将校が処刑もしくは投獄され、その影響で赤軍は粛清の被害から軍を立て直す再建の途上にある。

せっかくの「縦深作戦」も解体され、歩兵と装甲車の連携を重視する旧来の戦い方が復活した。

トハチェスキー、トリアンダフィ―ロフ、フルンゼら機械化戦争の信奉者が残した遺産は壊滅状態となっている。


対する国防軍は電撃戦理論を公式教義として採用し、装甲師団の大幅な増強を実施するなど、戦力の絶頂期にある。

幸運なことに自軍が最強の状態で弱りきった敵軍を叩けるのだ。



史実のように油断することなく万全の状態で奇襲を行えば、手負いの熊を仕留めることは出来るんじゃないだろうか?


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