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士官候補生ハインツ・ヴェステンハーゲン


転生して偉人になりかわり、ゲーム感覚で操作しながら、未来知識をいかして無双する。

歴史オタクならだれもが憧れるだろう。

史学科の大学生である俺こと三好士郎は18歳にして転生にでくわした。

転生先は1937年のドイツ。

しかし、転生した人物は貴族でも皇帝でも軍人でも某総統でもなかった。ハインツ=ヴェステンハーゲンという聞いたこともない士官候補生だったのだ。

歳は俺と同じ十八歳。

専攻は戦史課。

ユンカーの家系ではなく出自はごく平凡な中流家庭。

コネで一気に成り上がるということもできそうにない。

ドイツ軍人に比較的詳しい俺ですら聞いたことがない名前だ。

だれだよ!

転生後の俺の感想はこの一言に集約されていた。

「誰得なんだ?この転生…」


転生初日から俺のテンションは低くなる一方だった。

そして、翌日からは日本の大学などとは比にならないレベルの知識量を脳みそに叩きこまれた。

正直考えてる暇すらない。ひたすら予習、復習して授業についていくので精一杯だ。



はやく現実に帰ってダラダラしたい。

最初の一週間は転生したことを全力で後悔したが、一か月もするとなれてきた。

専攻が戦史課なこともあり、環境になれてくると授業内容も楽しめるようになってきたのだ。

とくに図上演習はゲーム感覚で、実際の戦略だの戦術だのを学べる、もっとも楽しい授業だ。授業が終わると図書館や資料室に籠り、転生前から興味のあった知識に埋もれて、時間を過ごす。

将来のことは余り考えたくなかった。

史実通りならば、あと二年で二度目の世界大戦が始まる。

俺の卒業は再来年なので卒業後すぐに戦場に叩きこまれることになるだろう。

俺の生まれた世代は成年男子のうち46%が世界大戦中に死んでいる。

つまり二人に一人は死ぬことになる。

士官なので徴兵されて戦場に行くよりはマシかもしれないが、ドイツ軍の士官戦死率は最大の戦死者を出したソ連軍よりも上というデータもある。

フィールドワークと指揮官率先の精神を重視するドイツ軍士官は優秀ではあるが、その分危険でもあり戦死率も高い。

高名なロンメル元帥も前線を視察中に重傷を負っている。

せっかく未来を知っているのだから、知識をいかしてなんとかしたいが、戦争まであと二年しかなく、俺は一介の士官候補生に過ぎない。

なにも出来ない自分がもどかしいが、士官学校での環境が心地いいので、いつしか未来のことは考えないようになっていた。



【1939年 6月中旬 第三帝国 ベルリン 陸軍士官学校】


「同じ本ばかり読んでて飽きない?またクラウゼヴィッツ?」


「外れ。今回はジョミニだ」


「ふーん」


俺に気安く話しかけてくる人間といえば二人しかいない。その一人が同じ班のアリス=ハーネ候補生。

戦史課志望で国防軍では珍しい女性だ。

しっとりとした金髪に宝石のように青い瞳が特徴的で、だれが見ても美人といえる外見をしている。


ハーネという名字には聞き覚えがある。

たしかハーネ大佐という師団長がソ連のバグラチオン作戦に巻き込まれて戦死しているはず。

年齢や性別を考えるとたぶん別人だろうが、なんとなく本人に会うとそのことを意識してしまう。


「私たちの班って見事にバラバラなのよね。あなたは図書館。シュミットは部活。私は研究会。ライエンはいつもどこにいるかわからないし」


「一年中ベタベタいる方が気持ち悪いだろ」


「他の班はみんな仲いいよ。休日に買い物行ったり旅行行ったり。」


「よそはよそ。うちはうち」


「なにそれ。あなた私のおかあさん?」


暇なのか知らないが最近、アリスはよく図書館にいる俺にからんでくる。

金髪碧眼という理想的なアーリア人的外見の彼女は士官の中でもよくモテる。親衛隊にスカウトされたとの噂もある。


「それでなんのようだ?」


「あくまで噂なんだけど総統閣下はポーランドへの侵攻を決めたそうよ。今、学校中がその話題で持ちっきり」


ヒトラーはダンツィヒ港の割譲を求め、ポーランド政府を武力で恫喝した。

それに対してヴェルサイユ体制の護持者である英仏連合は介入も辞さないと宣言。

世界戦争の再発を予期する不穏な空気が流れた。

未来人の俺は事の顛末を知っている。

英仏の介入もポーランド軍の展開も間に合わずポーランドの全てがナチの軍靴で踏みにじられた。

そして、それが人類史上最大最悪の世界戦争へと発展した。


「心配しなくてもポーランドには勝つ」


「どうして?ポーランドは東欧最大の軍事大国よ。総兵力は100万人に達する。侮っていい相手じゃないわ」


「その100万人はいつ動員される?」


「それは私たちの動員声明に呼応して…」


「そのとおり。相手国の動員に応じ始めて動員を開始する。それが前大戦で確立された動員システムのセオリーだ。だがそれでは間に合わない」


「どうして?」


「実をいうと我が軍はすでに動員の過半が完了している」


「え!?」


「参謀本部は二年も前から隠密裏に動員を進めてきた。予備役の補充も戦時編成への切り替えも含め全てが終わっている。あとは動員声明が発令され次第、即日攻撃開始地点に移動しポーランドに雪崩れこむだけだ。ポーランド軍が慌てて動員をかけた頃には全てが終わっている」


「…まるで参謀会議をみてきたかのようにいうのね」


実際に俺はみてきた。

ポーランドだけでなく英仏も旧式の動員システムに頼っている。鉄道による移動速度だけを考慮し、動員自体を隠匿するというある種当たり前の戦略に気付けなかった。

結果として英仏軍は目の前でポーランドが踏みにじられもなにも出来ず、自身の防衛すら間に合わず大敗北を喫する事になる。


第二次世界大戦の勃発まであと一年をきっていた。


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