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王族に嫌気がさした俺は万事屋を始めました  作者: 双葉
第一章 貧乏暇なし
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第一章6  『プリュヴィオーズ』




 検問所をパスすることが出来た俺達は水の都プリュヴィオーズ入る。普通なら身分証明出来るものとか必要なはずが、爺さんから頼まれていた手紙を警備兵がチェックする為に読むと、何故か国に入っていいと許しが下りた。


 手紙に何が書いてあるのか気になるけど、人様の物を勝手に見ていい気分にもならないし、今は素直に入れた事に感謝するしか無かった。


 水の都プリュヴィオーズは街の中にたくさんの水路が通っていて、他の国と比べて綺麗な水が流れている。ステレアが話すには、『プリュヴィオーズの天然水は有名』だとか『住みやすい街で人気』だとか言っていた。


 ステレアも実際に来たのは初めてだったのか、歩く脇に流れる水を見るたびに『美しいです』と呟いている。ただの水にしか見えない俺はその価値観がよく分からない、でもこうして歩いているだけでも色んな所から賑やかな会話、楽しそうな笑顔などが良く聞こえるし見えている。


 まだ一つ目の国ではあるけど一発目にしては上々だ、いきなり空気が悪い国とかだとさすがにどんな気持ちで居たらいいのかわからないし。



「なんかヴァンデミエールとはちょっと違う賑やかさだよな」


「そうでしょうか?」


「何となくそんな気がしただけだよ」



 ヴァンデミエールの人達は何だか忙しく動いてるイメージ、プリュヴィオーズの人達はのんびりと動いてる。物腰が軽いと言うか誰にでも優しく接してくれるような、とにかくいい空気だな。


 街の掃除も行き届いてるし、住みやすさナンバーワンと言うだけあるのかもしれない。俺達はひとまず手紙を届ける為に爺さんの息子を探さないといけない、もう一度手紙をポケットから取り出して確認をする。



「あ、名前書いてあるじゃん」


「何という方ですか?」



 手紙の封筒を裏返すとそこに綺麗な字で名前が書かれていた、『ウィード』と。


 名字は書かれていないようだが、名前無しで探すよりまだマシだ。届けるのに名前未記入とかさすがに無いだろうけど、どうやってウィードを見つけるかが問題だ。爺さんに特徴とか色々聞いておくべきだった、名前的には男だろうけど先入観だけで探していたら見つからないかもしれない。



「名前だけしか手掛かりが無い、どうする?」


「街のお役所に行くしかありませんね」


「教えてくれるのか?」


「お届け物ですし大丈夫かと」



 これだけの警備なんだし簡単には教えてくれないんじゃないか? 検問所の人も『自分で探してごらん』的な空気漂わせてたし、というか手紙の内容を読んだあと直ぐに手のひら返して通してくれたのも気になる。


 推理は得意じゃないしステレアに頼るしかなさそうだな、万能なメイドを持った俺は幸せ者だな。


 今思った事をステレアに話すと、『とりあえずお役所へ向かいましょう』と言いながら歩き出した、前払いして貰ってるし確実に届けないとな。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「ウィードって名前の方なら、この街に20人近くいらっしゃいます」


「マジかよ…………」



 役所に着いてお姉さんに聞いたところ、同じ名前だけでも結構な数の人が居るらしい。しかも住んでる場所がバラバラで一日で周れるレベルじゃない、どうすりゃいいのかわからねぇ…………。


 一度カウンターから離れてステレアと一緒に考える事にした。




「どうする? 俺達あんまり滞在できないんだろ?」


「警備兵の方々は特に申し上げていませんが、長くいてもよろしくはないですね」


「だよなぁ」



 いきなり足止めを喰らった俺達、何かいい方法は無いものか。うーん、とか、はぁ、と唸ったり溜息を吐いているとカウンターのお姉さんが話し掛けてきた。そりゃ負のオーラ撒き散らしてたら仕事の邪魔だよな、と思ったがそうじゃないようだ。


 お姉さんは、『よろしければもう一度お手紙を見させて頂きたいのです』と吹っかけてきた。断る理由は無いので手紙をお姉さんに渡すと封筒をマジマジと見つめている、一体何があるのか、特殊な仕掛けみたいなものがあるのか? 爺さんは特に何もしていないはず、そばで見ていたし。



「あ、なるほどです!」


「「はい?」」



 二人揃って気の抜けた声で返事をした、するとお姉さんはカウンターに戻り何かを羽筆で書き始める。5分と掛からないうちにこちらへ戻ってきて、何かを書いていたその紙を俺に渡してきた。


 4つ折りにされた紙を開くと役所からウィード宅までの地図が書かれていた、割と近い所に家がある事に驚いたがどうして封筒を見ただけでわかったのだろう。



「こちらの封筒はこの方か関係者しか使わないのです、貴方達は余程信頼のある運び屋さん見たいです」


「運び屋って俺達は万事屋なんだが」


「あら、申し訳ございません。でもこの封筒を届ける場合は特殊な運び屋さんじゃないと受付けていないのです」



 軽い返事で爺さんから受け取り、さっさと届けてしまおうと簡単な感じで仕事をしているけど、実は結構な依頼を受けてしまったのだろうか。


 悩んでいた人探しが一発で見つかり助かったけど、ウィードって奴はどんな人物なんだ? この封筒は一般人が使う奴じゃないとか、特殊な運び屋しか取り扱いが無いとか本当に謎だ。


 結果オーライではあるが、ちょっと気を引き締めてこの手紙を届けよう。渡された紙を開いて俺達はウィード宅へ向けて歩き出した、割と近くなので早く依頼を達成できそうだ。


 二人してキョロキョロしながら街を歩き回る、地図を見る限り本当に近くなのだがどれか分からない。細い路地を抜けた先に一件、大通りは言うまでもなく建物の数は果てしない、地図の見方が悪いのか? 一応ステレアにも確認してもらうと。



「ヴァルド様」


「何? やっぱ間違ってた?」


「いえ、こちらです」


「どれ?」



 ステレアは左手でウィード宅を指すがどれだ? このレンガの店か? それとも隣にある倉庫見たいな建物だろうか。俺はレンガの店に近づくとステレアに、『違います』と言われる。ならばと倉庫に近づくと『殴りますよ』と叱られる、他に建物なんか奥に見える城しかないだろ。


 するとステレアは俺の背後に立ち、俺の顔を両手で抑えてグイッと強制的に視線の先を変えられる。



「まひ(マジ)……?」


「マジです」


 頬を抑えられたまま答えたら、すぐに返ってきた。どうやらあの爺さんはとんでもない人間かもしれない、今視線の先に映っている建物は誰がどう見ても『プリュヴィオーズの城』と答えるだろう。


 本当に、とんでもない荷物だよ。

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