第一章5 『手紙の宛先』
アルゼファを出た俺達はプリュヴィオーズを目指して再び歩き出した、まさかジーグとヘヴリナが来るとは予想していなかった。捜査団が来るならまだ良い振り切る事なら出来たはずだった、だけど現れたのは軍隊で武装もしている集団。
国の跡継ぎが居なくなったらそんな感じになるのだろうか、それにしても普通じゃない気がする。俺があまりにもアホだからどういう事態か理解していないのがダメなのか?
だからって騎士まで出動させるまであるのか? 村を出てから俺はずっとそんな事を考えていた。
「ヴァルド様」
「ん、なんだ?」
「騎士団が探す程、今国同士の関係は危ないものかも知れません」
「今それを考えてたよ、確かに俺は身勝手が過ぎてるかもしれない。でもずっと国の中で居ても安全って訳じゃないし、やっぱ自由が無いのは辛いよ」
どうしてそこまでして自由になりたいのか、王族のルールや仕来りが嫌だからってのもある。でもそれは建前に過ぎない、俺はある日を境に『この家にいたら身が持たない』と確信した。その理由はこの目で見て、耳で聞いたのが発端だ。
それ以来王である父や母を信じる事ができなくなった、周りから見れば今の行動は反抗期のそれかもしれない、そう思うなら勝手にしてくれていい、とにかく戻る訳にはいかない。
「お気持ちはわかります、ですが私達だけでは何かと不便な事が多くなります」
「と言ってもどうするんだよ、アテなんてないぞ」
「信頼、信用のできる仲間を作るべきです」
「仲間、か」
「はい、それもとても心強い仲間が」
万事屋ヴァルド、色んな仕事をするなら手数は必要になってくるだろう。二人では限界があるだろうし仲間が一人でも増えればかなり楽になる、そうと決まれば最初は仲間を見つけながら依頼をこなすのを目標にやるしかない。
さっきまで少し沈んでた気持ちも徐々に持ち上がってくる、俺が単純なのは知ってるが仲間は何人居ても困ることは無いだろう。
顔付きが変わった俺の表情を見ながらステレアは微笑む、そうだ俺は一人じゃないんだ、頼れる仲間がずっと支えてくれてたじゃないか。
「じゃあ、プリュヴィオーズで仕事をしながら仲間を見つけよう」
「そうですね。しかしその前に問題がございます」
「なんだよいい感じに昂ってきたのに」
「申し訳ございません、しかし結構な難題です」
軽くため息を吐いた後ステレアは口を開いた、
「以前私は『商人として通行許可証を作ればいい』と話しました」
「だったな、それなら問題ないんだろ?」
「それがですね、どっちにしても身分証明書が必要になります」
「前言ってた事と全然違うじゃん……」
「宿に泊まった日にオーナーに聞いたのですが、今は商人でも身分証明書が必要になったそうです」
そういや宿に入ってからしばらく部屋に来ないと思ったら、そんな話をカウンターでしていた訳か。身分証明書が要るとするなら間違いなく今のままでは検問所を抜けられない、何とかしなきゃいけないけど抜け道とかあるのか?
ステレアは最新版の地図を広げ見てみるが当たり前の様に書かれてはいない、試しに古いので確認してみたがもちろん無いわけで。
「これは素直に話をするしかありません」
「だからって通してくれる訳じゃ無いだろ?」
「そこはヴァルド様の交渉術で」
「ねーよ、そんなもん」
こうしてお互いに意見を出し合うも何も思いつかず、国の目印である国旗などが見え始める。あと少しで着いてしまう、何かいい方法は無いのか? 唸りながら考えても何も出てこないまま、目的地へ着いてしまった。
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村から歩いて二時間前後くらいでプリュヴィオーズに到着したが、俺達は検問所より手前で立ち止まってしまった。警備兵達はこちらの様子を見ながら話している、そりゃ数分間も検問所を見つめていたら怪しまれるのも仕方ない。
結局何の提案も出てこない、ステレアは『正直に話しましょう、最悪は国を迂回するしかありません』と話す。地図を見る限り迂回する道はいくつかあるが山道でとてもじゃないが辛い、と言うか爺さんから頼まれた手紙を渡さないとダメだから迂回とか無理。
「手紙渡さなきゃいけないし、最悪は警備兵に渡すしかないな」
「そうなりますね」
「なんだかやり切れないけどな」
検問所に向かう俺達、話をしながらこちらを見ていた警備兵達は近づいてきた俺達に問いかけてきた。さすがは国の警備兵だな、村の警備兵とは違い全力で武装していていつでも撃ったり斬ったりできそうだ。
迫力もなんか違う、体格のいい男が数人居るし喧嘩したら確実に負けそう。
「身分証明書見せてくれる?」
「身分証明書が無いんだ、でも通りたい」
「残念だがそれは出来ない、何か渡したい物があるならこの場でチェックして預かるが?」
いきなり拒絶された上に最悪のパターンをオススメされた、上手く話をしても恐らく吐き捨てられて終わる。ここは大人しく手紙を渡して別の道を探すしかないか……。
「じゃあこれ、俺達万事屋やってんだけどそれを届けてくれって頼まれたんだ」
「手紙か、中身を見るぞ」
俺はポケットから爺さんから預かった手紙を取り出し、警備兵に渡すと封筒から内容が書かれた紙を出して目で読み始める。最初は適当に流し読みをしてるような視線だったが、眉をピクっと動かしたあとまた最初から最後まで目を通し、しばらくしてから手紙を封筒にしまって俺に返してきた。
「あれ、代わりに渡してくれないのか?」
「入っていい……」
「は? 身分証明書とかないとダメなんだろ?」
「お前達はついてるな、とにかくその手紙を早く届けてきなさい」
「はぁ?」
よく分からないまま検問所をパスできてしまった、あの手紙には何が書いてあるのか気になる。だが警備兵は『中を見てはいけない』と俺達に伝えてきた、逆に気になってしまう、一体どんな魔法が仕掛けられていたんだ?
何はともあれ何とか水の都プリュヴィオーズに入ることが出来た、この手紙を爺さんの息子に渡さないといけない、封筒の背面に書かれた名前を頼りに行動開始だ。