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王族に嫌気がさした俺は万事屋を始めました  作者: 双葉
第一章 貧乏暇なし
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第一章12  『突き動かすモノ』




 一通りの研磨作業を終えた俺達は、猫車に大量の石を載せて収集所へ持っていく。ただの石じゃないとは言え重さは当たり前の様にヤバい、腕も腰もプルプル震えてる。そんなのお構い無しに慣れた動きで猫車をさっさと動かすテミス、なんかコツでもあるんなら教えてもらうべきだろうか。


 ステレアは力仕事すら成し遂げていて、俺より早い段階でコツを掴みスムーズに作業を進めている。おかしいな俺男なのに女の子に力負けしてない? これが労働を先に始めていた奴との差なんだろうか、負けてらんない。


 俺は仕事をギクシャクしながら行っていく、ある事を考えながらだけど。そのある事とはテミスが話していた内容の事だ、そりゃビックリしたよ、まさかヴァンデミエール出身だとは思いもしなかったし。


 挙句の果てにはヴァンデミエール国王、つまり俺の父親をめちゃくちゃ嫌ってると来た。やり方が気に入らない点とか、酷いルールを行っている事については俺も反対だし、そんな事をしていたとはこれっぽっちも知らなかった。やっぱりあの国を出て正解だったんだな、でもテミスは国の中で戦う姿勢にある。


 そんな彼女は俺より遥かに強い心を持っている、だからこんな事を言うのは失礼だろうけど、彼女がこのまま一人頑張っても『王政』の前では指一本届かないはずだ。



「なんか、出来ることないのかな」


「なんやなんやー? 辛気臭い顔しよって!」


「痛っ!?」



 猫車の足を止めて少しだけ考えていると、後から背中をパンっ! と平手で叩いてくる人物。変な喋り方をしているしテンションも異常、サブリーダーを務めているレイヴンだ。研磨作業が終わってからやたらとステレアに意識していて、やたらと話しかけているようだが軽くあしらわれている。


 そこからはステレアでは無く俺に話しかけて来る度に、『ステレアちゃんは何が好きなんや?』とか『恋人とかおるんか!?』などぶっちゃけ鬱陶しい。



「なぁなぁ、ステレアちゃんは―――」


「知らないってば、本人に聞いたらいいじゃないか」


「ステレアちゃん冷たいんや、やからヴァルドの旦那に聞いてるんやで?」



 そりゃ付きまとっていたら冷たくもされるだろ、大体俺だってアイツが好きな物なんて詳しく知らないって。レイヴンの問いかけに対して、俺は適当に返事をしてみる事にした。



「確か、アイツは辛い物が好きだったかなー?」


「なんやて? どれくらい辛いもんが好きなんや!?」



 うわ、食い付いてきた。レイヴンはプリュヴィオーズで一番辛い物を用意すると意気込み、ルンルン気分で仕事へ戻って行った。ごめん、ステレアはこの世で一番辛い物が大嫌いなんだ。


 後で何言われるかわからないけど、とりあえずこれでステレアに強く拒絶されてレイヴンも諦めるだろう。俺は引き続き仕事を全うし、力仕事を無事終えることが出来た。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 調査現場から城に戻ってきた俺達、レイヴンの姿を見ないって事はそのまま辛い物を買いに行ったんだろう。俺は仕事の報告をするために国王ウィードの部屋へ向かう、だがウィードは別件で城には居ないと聞きそのまま自分の部屋へ戻った。


 疲れた身体を休める為にベットへダイブをかまし、二分後には夢の中へ吸い込まれていく。ステレアは城の掃除も兼任しているらしく、部屋には来ないままだった。


 がっつりと睡眠に浸る俺を一時間後くらいに、勢いよく部屋の扉を開け放ち叩き起す輩が一名出現した。言うまでもなくそいつはレイヴンだった、理由はすぐに分かる。



「ヴァルドぉお!! ワイを騙したなぁぁあ!!!」


「うっさ!! 胸ぐらを掴むなよ」


「ステレアちゃんに冷酷な眼差しで『最低です』とか言われたやんけっ!?」



 出たなステレアのたった一言で相手を潰すセリフ、いやぁ俺もあれ嫌なんだよね、まるで生ゴミを見てる様な目で言われるから心に来るんだよ。


 俺を解放し床に膝から崩れ落ちるレイヴン、相当ショックだったのだろう。一目惚れした相手からゴミを見る様な目をされたんだからな、俺もレイヴンならそうなってる。



「ここまで惚れた女の子は初めてだったんや…………」


「あー、いや。スマン」


「く、くふぅ……ううう……」


「いや、泣くなよ」



 なんかかなり落ち込ませてしまった、流石に悪い事をしちまったかも。と言うかいつまでも泣かれたままでは困るし、『悪かったよ、諦めんなって』と声を掛けた途端だった。



「そうやな! 諦めたら男が廃るっちゅーしな!」


「復活早!」


「ワイは諦めへんで! ワイはステレアちゃんをモノにしたる!!」


「あ、あぁがんばれ」



 コイツ簡単な奴なのか単純なのかわからん。レイヴンには自分を突き動かす何かを持っているんだろうか、それならちょっと羨ましい気もする。俺には自分を突き動かす何かを持っていない、そんなものがあれば俺は国を出てきたり逃げたりはしていないだろうし。


 だからか、ついレイヴンに聞いてしまった。




「あのさレイヴン、どうしてお前はそんな簡単に立ち直れるんだ?」



 我ながら変な事を聞いてるのは自覚してる、別に落ち込んでるわけじゃないけど、すぐに立ち直れたり何かで突き動かす力があるなら教えて欲しいと思った。もしかしたら何かが変わるきっかけになるかもしれないから、テミスの様に内側で戦えるかもしれないから。


 俺の質問にレイヴンは鼻で笑いながら答える、



「そこに目指してるもんがあるからや、消えない限りそこにはおるんや。それさえあればワイは何回でも立ち上がったる!」



 レイヴンの目は熱い、そして強い。

 俺は国で一度立ち上がってから何をしただろうか、逃げる為に立ち上がって嫌な事を遠ざけてるだけだ。これじゃ何も変わらないし進まない、俺は何を目指して国を出たんだ? 自由が欲しいから?


 自由を手に入れるためにはどうすればいい? それは誰にもわからない、その答えはずっと自分の中にあるはずなんだ。でも上手くいくか分からなくて不安になる、これじゃ国を出ても自由なんて手に入らない。


 今俺は何をやってる? 万事屋ヴァルドとしてしたことが無い仕事をやってみたり、こうして人と交流してる。俺が勉強出来ていなかった部分をこうやって経験してる、自由ってのは自分の考え方一つで変わるもんなのかも。


 じゃあ本当は自由を求めてる訳じゃないのか、俺は―――



「どうしたんや?」


「え、あ、いや。何でもない」



 俺は多分、まだ確信した訳じゃないけど。何となくだけど、―――生きてる意味を探してるんだ。




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