第一章9 『現場への道中』
今日も今日とて太陽は眩しい光を放ちながら空へ浮上する、その直視できない巨大な光線は部屋中を明るく照らし、朝が来た事を寝ている俺に教えようと身体に光を浴びせてくる。
昨日は夜遅くまで星探しをしていたせいか、寝るタイミングが中々無く時間を確認した時には日付が変わってから二時間オーバー。
おかげでベッドから起き上がる力が湧いてこない、このまま二度寝をしてしまいたい。だが今の世は無慈悲だ、廊下を歩いてこちらに向かってくる足音が聞こえてくる、間違いなくステレアだ。たまにはちょっと遊ぶのもいいかも知れない、あとが怖いけど。
俺は掛布を深く被りあたかもまだ寝ていますアピールをする、演技は得意じゃないけどステレアくらいなら黙せるかもしれん。もしかしたら甘く起こしてくれる可能性だってある、アイツは俺のメイドだし主には逆らえないはずだからだ。
「ぐー、ぐー」
ガチャ。
ノックをした後部屋の扉を開き中に入ってきた、『服を脱ぎっ放しですか、全く』とブツブツ文句を言いながらその時を迎える。
「ヴァルド様、もう朝です起きてください」
「すぴー…………」
「ヴァルド様、ほら起きてください」
「むにゃー……」
「チッ」
待って今この子舌打ちしなかった? いくら寝ているからって舌打ちはあかんでしょ。俺は寝返りをして顔を背けて若干距離を取る、あれ完璧じゃないか? もしかして演技うまいんじゃないか俺。
とか何とかしているとアクションが何も返ってこない、居なくなった訳じゃないのはわかる気配があるからな。なんだどうしたんだ、逆に気になるんだけど。
「はぁ、わかりました。なら私もご一緒します」
すると、シュルシュルっと何かが擦れる音のあと床に落ちる音まで聞こえてくる。待って、こいつ何するつもりなんだ? 擦れて落ちるって服脱いでるんじゃないのか!? バカバカ落ち着けこれは何かの罠に違いない、そうやって音を出すことによって俺からアクションを起こさせる作戦なんだろ。
「ヴァルド様の寝ている姿を見ると、身体が熱くなってきました…………」
コイツめっちゃエロい声だしちゃってんだけど!? 本当に脱いでるのか? 俺は男だし女の子の身体に興味が無い訳じゃない、ステレアはかなりの美人で巨乳だが俺達はそんなヤバい関係ではないぞ!
メイド服を着ているステレアの胸はいつもぱっつんぱっつん、街を歩いていればすれ違う度に男共はそのワガママボディに視線が行く。その気持ちは強く分かるし俺が他人ならステレアを口説くだろう、もう自分で何言ってんのかわからないけどちょっとくらいなら、ちょっとくらいなら見ても大丈夫だよな?
もう一度寝返りをして薄く目を開くと、
「やはり、狸寝入りだったんですね」
「いっ!?」
瞼を薄く開いて見えたのは裸のステレアじゃなく、銀色に光り輝く鋭利なナイフだった。ナイフケースから取り出しているから一応裸になった凶器、別にうまい事言った訳じゃないから。
てかどういう状況なの? なんてナイフを向けてるのこの子。
「まず、どうして下着を身につけていらっしゃらないのですか?」
「下着? あ、あぁ……暑かったら脱いだのかも……」
「言いたいことはそれだけでしょうか?」
しまった、いつもなら脱がないのに寝ている時に暑くて脱いじゃったのか。無意識って怖いよな自分が気が付かないうちに下半身無装備だもん、取り敢えず俺がやることはただ一つだ。
「すみませんでしたあああああッッッ!!!!」
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朝から大声での謝罪は静かな城中を駆け巡っていた、どこから聞こえたもので誰の叫びなのかまで特定され、王ウィードに笑われながら今回の依頼について説明を受ける。
こりゃしばらく後ろ指を向けられるに違いない、あと寝相の悪さも気をつけないといけないな。何とも言えない感情が渦巻く俺は依頼の話を半分聞いて流しての状態、大事な所はステレアがしっかり聞いてくれてるはずだし。
ここプリュヴィオーズの城では毎日朝礼を行い、昨日の報告や今日の仕事などの話し合いをやっているようだ。他の国はどうなのか知らないが、ヴァンデミエールでも似たような事をしていた。
「では万事屋の二人は魔石調査に向かってくれ、現場までは彼女に案内させる。テルッサ」
ウィードは『テルッサ』と声にすると横列から一歩足を踏み出して『はい』と返事をした。プリュヴィオーズの軍服に身を包んだ彼女が現場まで連れていってくれるようだ、真っ黒で長い髪をしたテルッサは凛とした姿。
周りの使い人達はテルッサが前に出ると、どこか張り詰めた空気へ変化させる。むしろ緊張しているような感じがする、そんなに怖い人なんだろうか。
「万事屋二人を頼むよ」
「わかりました」
「うむ、では今日もよろしく頼む」
王の号令を聞いた皆は各自の仕事へ向かって歩き出す、俺達もテルッサの背を見つめながら付いていく。なんかあんまり関わんないでください的なオーラが漂ってる、ステレアとは違った独特な雰囲気だな。
ステレアは来るものを拒んだりはしないが、テレッサは必要最低限さえあれば後は要らないって感じ。女ってわからんな、カルシウム足りてないからピリピリしてんじゃないのか? ミルクでも買って渡したら逆にキレたりすんのかな。
なんてくだらない事を考えながら彼女の背中をじーっと見ていると、
「何か?」
「あ、え?」
「何かありますか?」
「あー…………名前教えてください」
すっごい睨みが効いてる。思わず名前聞いちゃったよ俺、いきなりだったし質問投げるならまず名前は聞いておかないと失礼? かも知れないし。まぁ咄嗟に口から出たのがそれだったからだけど。
「テレッサ・アレフです」
「アレフさんですね、オッケーっす」
「フッ」
とてつもなく絡みづらいんだけど、すぐに視線逸らされたし冷血女の称号でもあげたいくらいだ。俺達は城から出てすぐの用意されてあった『魔車』に乗り込む、読んで字の通り魔石の力で走る乗り物。
最近は利用してる人も増えてきたがそれでもまだ馬車率の方が高い、魔石を動力に動く乗り物と言っても不安要素がまだまだ拭いきれないのが現状だ。
ゆっくりと進み始める魔車、景色がスライドショーの様に移り変わりを見ながらのんびりと…………
ガタン!!
「痛い! ケツ痛い!」
「ヴァルド様、そんな汚い言葉を言わないでください」
不安要素その1、舗装されていないところだと衝撃が直に来る。開発者はもっと乗ってる人のことを考えて欲しい、歩くよりは楽だけどお尻が持たない気がするんだよ。このまま似たようなダメージを負い続ければ、間違いなく痣が出来上がるだろう。
現場までどのくらいで着くのかもわからないし、不快しかないこの乗り物をしばらく嫌な意味で堪能しなきゃいけないとか。
「地獄だ…………」
「何かおっしゃいましたか?」
「なんでもない……」
到着する頃にはお尻が3つに割れてるんじゃない? とか思いながら、現場に着くまでの間魔車の改善策を勝手に考えていた。