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言質確保

 そう私が堂々と宣言すると「まぁ!」とおしとやかに口に手をもっていきつつ、目を丸くしたお上品なお母様の反応とは対照的に、お父様はその魔王面を歪めて、ガッタガッタと一人だけ超局地的な地震でもくらったのかっていうぐらい全身をわなわなと震わせた。

 食卓を彩っていた豪奢かつシンプルなテーブルクロスにびちゃびちゃとお父様の持っていたコーヒーカップから零れたコーヒーのシミが広がっていく。


「え、ちょ、お父様、大丈夫?!」


「は、ははは……。すまない、リリー。今何て言った?お父様、まだちょっと寝ぼけてたみたいで……。うちの可愛い可愛い天使がゴリラにジョブチェンジしたいとか言い出したような、なんかそんな感じの幻聴が聞こえたんだが……」


「まぁ、あなたったらリリーはそんなこと言ってませんよ。男の子になりたいんですって」


「うあああああああああ!やっぱり幻聴じゃなかったぁあああ!!なぜだ!なぜなんだ!リリー!!お前はちっちゃくてふわふわでお人形さんのように愛らしいのに!その愛らしさを捨ててまで、ゴツゴツした筋肉だるまになりたいというのか?!」


「お、お父様、どうどう……。私、別に筋肉ムキムキになる気はないから……」


「じゃあ、なんで男に?!女の子よりシックスパック作りやすいからじゃないのか?!」


「いや、どうしてそういう発想になったの??」


「あなた、とりあえず落ち着いて。それで、リリー。あなたは、どうして男の子になりたいの?……もしかして、跡継ぎの事?」


 まだ頭抱えてぶつぶつ唸ってるお父様も若干気にはなるけど、深刻そうな顔で俯くお母様にウッと息が詰まる。


 ごめん、お母様。全然そんな重いこと考えてなくて、めっちゃ思いつき発言だったんだけど……。


 確かに男になりたい!とか急にぶっ飛び発言かます娘に真っ当な理由を求めるとしたらそこにたどり着くのは当たり前である。お母様はあまり体が丈夫なほうじゃないし、私を産む時に生死の境を彷徨ってしまったらしくて、お医者様に「もう子供は産めませんよ」と言われてしまったらしい。


 つまり、モルガン公爵家の跡継ぎは実質私しかいないし、男女平等が根付いてるわけでもないこの世界では私の旦那が当主になるしかない。

 で、政治的問題とか貴族的な問題を考えると大体恋愛結婚ではなく義務的な婚約になる確率大だ。お母様とお父様は貴族内でも珍しく恋愛結婚したみたいだからそれを心苦しく思ってたのかも。


 そこに、私の発言である。

 お母様から見たら、そんな未来に辟易した娘が自由な未来を掴み取るための新たな手段を見つけて喜んでいるようにも見えるのかも……。


 って、ちっがーう!大体意味は一緒だけど、それ原因あいつらだから!!お母様たちのせいじゃないから!つーか、それどうしようもないことだし!

 それに私、6週目ではやんなかったけど2週目以降から生活力つけようとして領地改革とかやって女性領主としてバリバリ独立できてたから!そこは全然きにしてないからね?!


「あ、あのね、お母様……。こういっちゃあれなんだけど、全然そういことではなくてね?!私、あの、王子……、いや、勇者様にあこがれてるの!!」


「え……?」


「ほ、ほら!うちの地下に大きな書庫があるでしょう?そこに勇者様の物語もたくさんあってね!その中でも光の勇者様がかっこよくて!私もなってみたいなーって……!」


 確かに光の勇者の物語がかっこよくてお気に入りなのは事実であるが完全に今作った話である。出たとこ勝負もいいとこだ。

 だけど、王子様より憧れているのは本当だし、あんな風になってみたいと思っていなくもない。

 10歳近い子の発言にしてみたらちょっと夢見がちに聞こえない気もしないけど早めの厨二病かなにかだと思って納得してくれ、お母様!頼む!!


「まぁ!!そうなの?!あれよね、光の御子、シェイド様のお話?!」


「え、う、うん」


「まぁまぁ、そうなの!私もちっちゃい頃、あのお話大好きだったの。私はね、シェイド様みたいな人のお嫁さんになりたいなーって思ったけれど、リリーはシェイド様みたいになってみたいのね?!」


「う、うん!」


「そうなのー!まぁ、確かにリリーは頭もいいし、魔力も十分。今こんなに可愛らしいんだから男の子になっても絶対美少年になるわよね!うんうん、本当にシェイド様みたいになれるかもしれないわね!お母様、楽しみだわ」


「え、ちょ、レミリア?!いいのか!娘がむさ苦しい野郎になるっつってんだぞ?!」


「いやだわ、あなたったら。リリーはむさ苦しい野郎になんかなりませんわ。リリーが男の子になったら、絶対爽やかな香りをいつも身にまとっているキラキラとした麗しい美少年になるに違いありませんもの」


「いや、そういう問題じゃないだろ?!」


「……。」


 いや、そんなこと言いだした私がまずあれなわけだけど、お母様本気でそれでいいんすか?まぁ、納得してくれる分には好都合だしいいんだけどね?

 思ったよりお母様のくいつきがよすぎて、なんかちょっとあれなんだけど。なに、お母様って、こんな魔王面と結婚したわりに勇者様推しだったの??


「まぁまぁ、子供の夢を応援するのが親というものじゃない」


「いや、なんでだ?!いろいろとおかしいだろう!」


「あなたこそなんで?私達の娘が息子に変わるぐらいであなたはリリーをお嫌いになるというの?」


「う、いや、別にそんなことは……!リリーはリリーだし、まぁ、確かに美少年になるに違いはないが!!だがな、購入済みのドレスは?!娘の美しく成長していく姿を見守っていきたいという私のささやかな願いは?!」


「お父様、ごめんなさい。でも、私、決めたの!」


「ほら、リリーもこういってることですし……。それにデビュタントのドレスでしたら無駄になると決まったわけじゃないでしょう?禁呪はそうやすやすとできる魔術ではないのですから、いくらうちのリリーの出来がいいからって実際できるようになるまで何年かかることになるかわからないじゃありませんか」


「はっ!そうだよな!リリーには可哀そうだが失敗する可能性のほうが高……。

 ごほんっ!すまないな、リリー。取り乱して。……まぁ、なんだ。やるだけやってみてもいいんじゃないか。子供の純粋な憧れを真っ向から否定するのもあれだしな……。」


「ありがとう、お父様!そうだ、それでもし、もしなんだけど、デビュタント前に私が男の子になることができたら、もう男の子として私のことお披露目してくれない?」


「デビュタント前?あと1か月半だぞ?!そんな短期間で?!……あ、いや、そうじゃなくてだな。どうしてそうしたいんだい?」


「えーと、だってそのほうが格好いいもの!そういう女性騎士のお話だって、書庫にあったわ!それに、そのほうがお父様が言ってた婚約話だって来ないでしょ?」


「おのれ、インガード……。なぜ情操教育に悪そうな本を普通にリリーに読ませてるんだ……。あいつ、書庫番としてちゃんと働いてんのか?

 んー、まぁ、うちのリリーの虫よけには良いかもしれんが公的にそんなお披露目をしていいものかどうか……。」


「いいじゃない、あなた。リリーの好きにさせてあげましょうよ。そういう貴族家ごとの誤魔化しあいなんて、もはや黙認状態でしょ?それにシェイド様のお話にだってそういう貴族家のご令嬢がいたわ、大丈夫よ!」


「え、えー……、うーむ……。確かに、実際何代か前の王族のお転婆な王女様がそんなことしていたような……。

 じゃ、じゃあ、デビュタントに間に合ったらな。そうしたら、リリーを男の子としてお披露目してみるか。ただ、間に合ったら、だからな?」


「うん!頑張る!」


「リリーはお勉強熱心で偉いわね。リリーじゃ男の子の名前としては可愛らしすぎるから、あなたの男の子用の偽名も考えておきますからね」


「ちょ、レミリア!」


「ありがとう、お母様!ところで、魔術の先生はいついらっしゃるの?」


「ええ、シーナ先生っていう方なんだけれど来週の月曜のお昼ごろにいらっしゃるご予定よ。それまではインガードに魔術の本でも探してもらってお勉強してたらいいんじゃないかしら」


「わかったわ、じゃあ行ってくる!ごちそうさまー!」


「気を付けてねー」


「リリー!勉強はほどほどで!ほどほどでいいからな!」


「はーい!」


 若干悲鳴じみたお父様の忠告は聞かなかったことにして、さっさと地下にある大書庫へと向かった。


「インガード!いるー?」


「おや、お嬢様。いらっしゃい。何かご入用の本でも?」


 鼻の上の丸メガネの位置を直しながら、本の整理をしていたらしいインガードは私が入ってきたのに気づくとふっと表情を緩めてぺこりと軽く会釈してきた。


「うん、あのね、禁呪について知りたいの。それについての本か、なければ闇属性魔法についての本はある?」


「おや、禁呪ですか。ふーむ……、血は争えませんな。モルガン家は時折優れた禁呪の使い手を輩出なさるお家ですから参考資料でしたら、王立図書館なんぞよりここによっぽど揃っていらっしゃるかと。ただ、あまり引っ張り出すこともないもんですからかなり奥にあるかもしれないですね。私が探してまいりますから、少々お待ちください」


「わかったわ、お願いね」


 私に近くの椅子に座るように勧めるとインガードはそのまま書庫の奥の方へと消えてしまった。


 にしても、うちの家系って、禁呪についてそんな専門的な本所持してたの?

 もしかして、悪役だからと思ってたけど私の闇属性適性が高いのも血筋のせいだったのか?


 あーあ……、こんなことなら早々に禁呪に手を出しとけばよかった。

 っていうか、なんでお父様達教えてくれないの?私、7週目だよ?7週目で初めて知る実家の真実ってなんぞ?しかも、そのわりにインガードもあっさりバラしたぞ?


「お嬢様、お待たせいたしました」


 かるーく明かされた新たな我が家の歴史に首をひねっていると分厚い本を手に一冊持って、背後に大きさがバラバラの本達をふよふよと引き連れてインガードが戻ってきた。

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