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禁呪という名の突破口

「失礼いたします。お嬢様、お目覚めに……。おや、もう起きていらっしゃったのですね。朝食の席が整っておりますよ」


 かっちり執事服を着こんだロマンスグレーの男性がゆったりした動作で扉を開け、にこやかに声をかけてきた。


「本日はお嬢様のお好きな焼きたてのクロワッサンもたくさんご用意しておりますよ」


 なんだかずいぶん長い間考え込んだりしていたような気がしていたけれど、そんなに時間がたっていなかったのか、それとも私がかなり早起きをしていたのか、今から朝食らしい。


「あ、ストック。ありがとう、今行くわ。クロワッサン、楽しみ!」


 そう笑って返事を返したのだが、次の瞬間、ストックはカッと怖いぐらいに目を見開いて、私の肩をがっしり掴み、顔を覗き込んで、眉を吊り上げた。


「お嬢様……!目が赤くなっておられませんか?もしや泣いていらっしゃったのですか?どこか痛いところでも?お体の具合が悪いとか?それとも……、どこぞの誰かに悪さでもされましたか?」


「あ、あの、ちょっと、ストック、さん?顔が怖い……、んだけれど」


「おや、失敬。……で、どうなさったんですか?」


 ストックは私の肩を慌てて離すと、ひとつ咳ばらいをした。

 それからゆっくりしゃがみこんで穏やかに微笑みながら、再度私を覗き込んできた。……ただし、目が笑っていない。


 やばい、はじまった。祖父の代からこの家に仕えてくれてる執事のストック。基本まじめで物腰穏やかで優秀なんだけど、この人には地雷があるのだ。


 それは、モルガン家の人間が傷つくこと。以前のループではたまたま私が追い詰められた時その場にいなかったりするパターンが多かったけれど……。まぁ、要は過保護気味で暴走しやすい人なのである。


 っていうか、うちにいる人は大体そんな人ばかりだ。だからこそ、1週目の時に家族ぐるみでエレン排除に動いちゃったもんだから没落の一途をたどったわけだし。


 まぁ、でも、2週目から思い切り性格が変わっても変わらず私をそんな風に大事にしてくれてるっていうのはありがたいことだし、くすぐったくてうれしくもある。心から信頼できる人達が私を優しく待っていてくれる、そんな癒し空間は家だけだ。


 うん、だけど、こういっちゃ悪いけどちょっと気にしすぎじゃね?って気もする。

 ぶっちゃけ今はめんどくさ……。


「お嬢様?」


「ヒエッ、あ、えっと、あー!その!!おばけに追いかけられる怖い夢を見ちゃったの!だからね!ちょっと目が赤いのかもね!」


「さようですか?それならよろしいのですが……。あまり目をこすってはいけませんよ。目が悪くなってしまいますから」


 少し首をひねっていたけれどストックが納得してくれたみたいでホッと息を吐く。


「夢の中といえど、お嬢様に悪さをするようなお化けは退治せねばなりません。今夜は悪い夢を見ないように寝る前に香りのよいハーブティーをお持ちいたします。だから、もう安心なさってくださいね。……それでは、行きましょうか」


 やっと普通に笑ってくれたストックに手を引かれ、朝食の席へと向かった。


「お母様、お父様、おはようございます」


「ああ、おはよう。今日もリリーは可愛らしいね」


「ええ、本当に。おはよう、リリー。ほら、こっちに座って」


 守ってあげたい女性を絵にかいたような儚げな容貌のお母様に一見冷たそうで残忍な印象を与えるお父様。

 残念でしょうがない、なぜ私は、というかリリーはお父様に似てしまったんだ。


 美しい淡い金髪に淡い紫の瞳。ちょっぴり上品オーラが出すぎてるせいで気位が高そうに見えなくもないけどお母様似だったなら悪役令嬢と決めつけられるほどの容姿にはなってなかったと思う。

 もし私がお母様に似ていたら少しは攻略対象どもも私を目の敵にしなかった可能性もあったかもしれないんだけどなぁ。


「はーい!」


 内心ため息をつきつつ、お母様のもとへと駆け寄っていく。

 まぁ、そうはいってもしょうがないし、お父様に罪はないしね。


 それにしても何度見てもでこぼこ夫婦だな、うちの両親は。

 お母様が儚げなお姫様な見た目だから、よけいお父様の容姿が変に引き立っている気がする。

 私と同じ黒髪に血のように紅く鋭い瞳。

 うちのお父様、イケメンはイケメンだと思うんだけど……。

 普段無表情なことが多いし、何より目つきが悪いから魔王以外の何物にも見えない。


 二人がこんな見た目だから魔王と囚われの姫君カップルとか貴族社会で陰で噂されてしまっているのもめちゃくちゃ納得してしまう。

 まぁ、お父様がその魔王面をでれでれに溶かして、花をぽぽぽと周囲に散らしているこの姿を見れば誤解も解けそうなものだけど。

 まぁ、そうはいっても容姿からくる誤解は解きづらいよね……。

 一体今回はどういう風に立ち回ればループしないで済むんだろう……。


「ああ、そうだ、リリー。もうすぐお前の社交界デビューだろう?お父様張り切って、お母様と一緒にドレスを頼んだんだ。もうそろそろ出来上がる頃だろう、楽しみにしていておくれ」


「そうなの?ありがとう、お父様!お母様!」


 なるほど、もうそろそろなんだ。デビュタント。

 ファランドール王国の特権階級の子女は10歳になったら一人前として認められる。その時まで、貴族社会では一切その子供の情報は漏らさない。せいぜいデビュー前の子供についてほかの貴族が知れるのは

どこどこの家の何番目の子供かぐらいだ。


 なんかそういう感じにした方が後継ぎ問題とか、余りにも実子が不出来だった場合の替え玉を用意する際に都合がいいとか、それぞれの家の問題を処理したり、ごまかすのに丁度いいから皆暗黙の了解でそういうことにしてるってきな臭い話を聞いたことがある。

 んー……、もう、お父様たちには悪いけどデビュタントでなくていいかな?

 いっそのこと王子達の高校生活終わるまで私の存在自体隠蔽してくんないかな。


「ああ、でも心配だな……。リリーは天使のようにに可愛いし、男が砂糖に群がる蟻のように寄ってきそうだ。うう……、まだリリーに嫁にいってほしくない……。むしろずっと嫁にいかせたくない……」


「あなたったら今からそんな心配ですか?リリーの結婚だなんて、まだまだ先の話じゃありませんか。我が国の女性の結婚が許されるのは16歳からですよ?」


「いいや、先じゃない!一人前のレディとして認められるんだぞ?!うじゃうじゃ婚約話が上がってきてしまうんだぞ?!それにリリーが16歳になるまであと6年とちょっとしかないんだぞ?!」


「あなたは心配しすぎなのよ。ほら、今からうるうるしてるようじゃ本当にリリーが結婚するときなんか倒れちゃうんじゃないかしら?」


「そんなこと言ったってなぁ……!」


「お、お父様、落ち着いて。まだ私は結婚なんてしないし、婚約もしないから!」


「本当か?絶対だぞ?」


「うん、大丈夫だから」


「婚約するとしてもお父様は半端な男じゃ絶対に許さないからな?!仮に、万が一、お前を嫁に出すことになるんだとしたら、王子程度の相手でもないと……」


「いや、王子様は絶対嫌!」


「ん?」


「あら、そうなの?リリーはプリンセスとかに憧れないのかしら?」


「うん!やだ!王子様と結婚したら、私、将来お妃さまになっちゃうでしょ?そしたら、いろいろ大変だと思うし、お父様とお母様にもなかなか会えなくなっちゃいそうじゃない」


「だっ!だよなーーー!!リリーはお父様たちと一緒がいいもんな!!聞いたか、レミリア?!うちの大天使、可愛すぎないか?!」


「ふふ、本当ね。私も嬉しいわ。リリー、ありがとう」


 半分本音で半分建前なんだけど、毎回こう言って断ると面白いようにお父様がいい反応見せるな。

 よし!これで今回もとりあえず王子様との婚約フラグはたたき折れたかな。


「あ、そうだ、リリー。今度家に普通のお勉強の先生とはまた別に魔術の先生をお呼びしてるからよろしくね」


「え、そうなの、お母様。うん、わかった!」


 魔術か、前回は習ってないこと習おうかな。

 そう、シンレディの世界では魔術が発展している。中世ファンタジーな世界観なのだ。

 魔法には属性があって、それをどう伸ばすかによって攻略対象の好感度があがりやすくなったりするシステムだった。

 属性はオーソドックスに火・水・木・光・闇の5つからなっていて、それらを司る自然の精霊に呼び掛けることで魔法が使えるようになる。


 ちなみに私は全部の属性に対してかなり適性があるけど一番適性があるのは闇属性だ。

 そして、一番苦手な属性が光属性関連の魔法である。

 無念。光属性魔法の適性が高かったら、私、純心だからこそ、光を司る精霊様にご加護頂いてるんですけど?精霊様を疑うんですか?とか適当なこと言い張れたかもしれないのに。……まぁ、あんまり意味はなさそうだけど。


 さて、どうしよう。今までのループではそれぞれ1属性ずつ細かいところまで習っていったけど

今回は7回目だからぶっちゃけもう知りたいことがあんまりない。

 光と闇属性のみ派生の強力魔法があるから、前回一応聖魔法習ったし、今回は禁呪に手を出そうかな。禁呪、なんて名前の響きからして怖かったから避けてたけど大丈夫そうなら極めてみてもいいかも。


「お母様、そういえば魔術のことなんだけどね、禁呪って聞いたことあるんだけどどういう魔法なの?」


「え、リリーは物知りねぇ。禁呪っていうのは闇の派生魔法よ。でもね、凄く魔力を消費するから使える人はほんのちょっとしかいないの。それにね、あんまり使っていい魔法じゃないのよ」


「どうして?」


「んー、そうね、大人の怖い事情がある魔法が多いの。命とか魂が削られる、とかそんな怖いことはないんだけれどその魔法自体を邪魔に思ってる人が多くてね。リリーは頭がいいし、魔力も多いから使えるようになるかもしれないけど気を付けるのよ?」


「うん!例えば、どんなのがあるの?」


「ん?うーん……。そうね、闇属性の魔法は幻とか夢とか変身に関わるものが多いんだけど、それの強力なやつみたいな感じかしらね?」


 あー。変身か……。いっそ別人になったらどうかと思って試したことあったけど闇魔法だといくら適性が高くても最大で半日しか変身できなかったんだよなぁ。しかも、数日連続は無理だったし。

 禁呪使えば、効果もっと持続したりするのかな?そしたら、あいつらを回避することも可能?!


「それって、どんな感じなの?!」


「あらあら、困ったわね……。あなた、パス」


「え?!私か?!……ごほんっ!そうだな。自然の摂理に真っ向から逆らう、というか……。んー、例えばだが、リリーが男の子に変身したり、死んだ人をよみがえらせたりできるようになる感じかな」


「なん……?!私が、男の子?!」


 それだ!その手があった!あいつら、だって言ってたもんな!俺たちがかっこいいから取り入ろうとしただの、嫉妬しただの……。無駄に自信家だから、あいつら女の子全員自分に惚れてて当たり前ぐらい思ってそうだし!

 そうだよ!私が女だっていう大前提をぶっ壊してやりゃあいいんだよ!別にこの国、男色流行ってないし!そういう疑惑までかけられて糾弾された日にゃあ、こっちもどうしようもないけど流石にないだろ!!


「ありがとう、お父様!!」


「え、あ、ああ?」


「私、禁呪マスターして男の子になる!!」


『えええええ?!』


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