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風評被害

 入学式からちょうど一か月が過ぎた。今日は、待ちに待った席替えである。


「ねぇねぇ、ご覧になって。あれが、リラ様よ……」


「まぁ、あの方が……?」


「私、【不良】なんて、お話の中でしか見たことありませんわ」


「そうですわよね。まさか実在していらっしゃったとは……」


「授業を急にほったらかして、確か、そう、ふける、でしたっけ?おふけになったりするのかしら」


「きっとなさるのよ、それで隣国の学校まで行って、ライバルと殴り合ったりするんですわ」


「多分そうなんだろうな。ライバル同士で校舎裏でへとへとになるまで殴り合ったら、笑いながら二人で軽く拳をぶつけて友情を確かめるのだろう」


「でも、公爵家のご子息が不良、だなんて問題ないのかしら……」


「確かに。不良ってあれだろう?映像配達便のドラマで見たが、裏路地の悪ガキどもを纏めている影の支配者みたいな感じなんだろう?」


「お前達は何を言っているんだ!不良っていうのはな、案外情に厚い奴で、なんだかんだ言いながら、主人公のピンチに助けに来てくれるかっこいい奴じゃないか!」


「あ、私、知ってますわ!人目を忍んで、雨に震える子猫を救ったりするんですよね!」


「え、不良って恐ろしい方ではありませんの?」


「違う違う!不良っていうのは、ダークヒーローなんですよ!

 彼らは、時と場合によっては、主人公が霞んでしまうぐらいの活躍を魅せてくれるんです!セシル嬢、さては【僕らの夏】をご視聴になっていないのでは?!」


「ああ、そういえば、私、エリック王子様がリラ様のことをお話になられているのをお聞きしたことがありますわ。なんでも、か弱い子供を虐める領民に正義の鉄拳制裁を行ったとか……」


「まぁ!素敵ですわ!」


「だが、不思議だな。私はリラ様と、社交界でお話させていただいたこともあるが物凄く礼儀正しい方だったぞ?」


「はっ!裏の顔を隠して、表では何事もなかったかのように、秘密裏に領の平和を守る……!かんっぜんにヒーローじゃありませんか!!」


「かっこいい!!だとしたら、【精霊戦隊フェアリー5】みたいに必殺技とか持っていらっしゃるんだろうか!」


「もしかしたら、リラ様は武術、魔法行使、知力、すべてにおいて素晴らしく優れていらっしゃるとお聞きしますし、【サンダーマン】のように、時に、拳で悪を打ちのめし、時に悪の親玉を知略で追い詰め、高度な魔法行使で悪刺し貫く雷ジャッジメント・サンダーをお落としになるのでは?!」


「ええ?!雷を?!うわぁ、素敵ですね!」


「というか、リラ様は勉学も優秀でいらっしゃるのか?不良って大体頭が悪いんじゃ……」


「ばっか!リラ様はただの不良じゃないんだよ!不良ヒーローなんだから、完璧でいらっしゃって当然だろ?」


「それに、最近のドラマですと、実は頭がいい、だとか、やる気がないだけで、やろうと思えばそつなく何でもこなす、といった類のハイスペックな不良の方が増えましたわよね!」


 きゃっきゃっ、ともはや見慣れてしまった他クラスの生徒、先輩たちなどのギャラリーがわらわらとドアの窓から好奇心いっぱいでこちらを覗いているようだが、気にしたら負けだ。

 クラスメイトも、今日は授業を抜けたりはなさらないのかしら、とかちらちらとこちらを期待を込めた目で見ながら囁いているが知ったこっちゃない。

 なんで、そんな話になってるの?私、授業態度真面目だよ?

 一回もさぼったことなんてないし、今だって遅刻せずにちゃんと先生来るの待ってるでしょ?君たちは何を見てるの?


 ていうか、王子何喋ってんの?おかげで、どんどん変な設定が増えていくんだけど?ヒーローになっちゃってきてるんだけど?


 っ!だめだ!考えたら、負けだ。気にしない、私は何も見ていないし、聞こえていない。席替え、タノシミー。


「あ、あの、リラ様!!本日もご機嫌麗しく!!」

 

 現実逃避をしていたら、挨拶と共にクラスメイト女子に肩を軽くグーでぽふっと叩かれた。

 ……ナニコレ、痛くないけど、新手のいじめかな??


「えーと?」


「あ、ええと、そのっ!失礼、しました……」


 なぜかぎゅっと目をつむっていた女の子は、恐る恐る目を開けると残念そうな顔をして、頭を下げ、すごすごと友達の輪に返っていった。

 その反応は、なんなんだよ……。

 なんか友達に慰められてるみたいだけど、廊下の人らとは違ってぽそぽそ喋ってるから何言ってんのか全然聞こえない。

 なぜいきなり殴られたのか分からなくて、咄嗟に地獄耳を発動して聴力を強化してみた。


「元気をお出しになって。そう簡単に信頼を得られるものではない、ということですわよ」


「ええ……。私、いつかリラ様に拳をお返し頂いて、心の友と認められるように頑張りますわ!」


「その意気ですわ!不良は言葉ではなく、拳で語る生き物ですもの!

 もしかしたら、心苦しいですけれど、もう少し強めにパンチするといいかもしれませんわね!」


「私もオルジェ様に負けてられませんわ!後で、リラ様にアタックしてきます!」


「それがいいでしょう、私も後でお伺いしてみようかしら。私達、リラ様ファンクラブ一同、拳をお返し頂ける日が来ればいいですね」


 きゃいきゃいと盛り上がる令嬢達の発言内容に思わず頭を抱えたくなった。

 え、ええー。あの子ら、私のファンだったのかー。

 ……いや、そこじゃない!そこじゃないよ!どっからどう突っ込んでいいやら、もうわからないよ……!


 もうこの何とも言えない感情を抑えきれなくなって、どん!と乱暴に右手を机にたたきつけると、わあっ、と歓声があがった。


 ……おかしいな。入学初日から2、3日ぐらいまでは皆、普通にご機嫌取りに来てたのになぁ。どうしてこうなった……。


「おい、リラ、どうしたんだ?具合が悪そうじゃないか」


「……」


「人気者は大変だな?」


 ニヤニヤした王子がわざわざからかいにきたようだが、何も言い返す気力はない。早く先生が来て、授業が始まるのを切に望むばかりである。

 すると、またもや謎の歓声があがった。


「見ました?リラ様ったら、エリック王子の挨拶を無視なさったわよ!」


「不良ってすごいんですのね!」


「豪胆だ……!」


 あの……。いちいち、反応しないで、もらえませんか……。

 動物園のパンダにでもなった気分である。

 ごめん、パンダ。ちょっと笹食ったり、動くだけで、見た?!食べてる!動いた!とか当たり前のこと騒いで悪かったよ……。


 にしても、思ってたのと違う。「お前、不良と噂されてるぞ」と王子に教えてもらったとき、私の予想としては、みんな遠巻きに悪口言う感じになるかと思ってたんだけど、なんでこんなある意味面倒くさすぎる感じになったの??


「この私を無視するとは、いい度胸だな。狸寝入りもいい加減にしろ」


「……王子、察して。俺にはもうお前に何か言う気力すら残されていないんだ。そんなに誰かにかまってほしけりゃ、エドガーか、令嬢のとこにでも行ってろ」


「言うじゃないか。だがな、私は女は好かん。それに、エドガーはいい奴だが面白味に欠ける。目の前に暇つぶしに最適な奴がいるんだ。放っておくわけないだろう」


 このクソガキが……。いいご趣味してやがる……。

 ああぁ……、この好奇の目線地獄全然慣れない!誰か助けて!


「リラ!私のクラスにも噂が届いてきているぞ?今日こそ授業を休むんだって?!」


「来たな、元凶。早く失せろ。」


 お前はお呼びじゃねぇんだよ。


「レルク、今頃来たのか。今日は遅かったじゃないか。」


「ああ、王子、おはよう。今日は少し担任に引き留められてしまってな。不覚だ。

  で、だ。遅れてしまって悪かったな、リラ。さぁ、行こう!」


 こいつ、なんなの?悪意がないだけで、敵対時と同じぐらい鬱陶しいんだけど。決闘と、手合わせの違いしかないんだけど。結局バトルな!って押し切ろうとしてくるのなんでなの?それしか頭にない戦闘民族なの?


「あの、レルク様!どうやって、リラ様と、親友になれましたの?!」


「レルク様!不良であるリラ様とお近づきになられたきっかけは?!」


「え?いや、その、その話もいいが、私はリラと……」


「教えて下さい!」


「ずるいですよ、レルク様!!」


 わあわあと、押し寄せてくる群衆に飲み込まれて、あっという間にレルクが遠ざかっていく。レルクとついでに廊下にいたギャラリーが消えてくれて万々歳である。

 グッジョブ、レルク。お前は生贄になりに来てくれたのか、ありがとな。


 ただ一つ腑に落ちないのは、私がこれだけ変な扱いをされているにも関わらず暴力沙汰の相手であり、私と違って明らかに授業をちょくちょくさぼっているレルクが不良認定をくらっていないことだ。

 なぜだ。顔か?顔がイメージとかけ離れてるからか??ギャップというよりも脳と視覚が認識齟齬をきたすレベルで中身と外見が違うからか?


「レルクも懲りんな。普段はあそこまで暴走していないのだが……。お前がいるとどうも違うらしい。まぁ、あいつに強者と認められたことを不運だと割り切って、首をくくるしかないな」


「腹をくくる、じゃないのか。王子は俺に自害しろと?」


「ん?違ったか。悪いな」


「本当に悪いと思ってんなら、そのにやけ面をしまえ」


 ギロ、と王子を睨みつけていると、やっと先生が到着した。

 眠そうにガシガシと、腕で目をこすって、あくびを無理にかみころそうとしているのかいつも以上に顔が怖い。


「おはよう、諸君、席につきたまえ」


 ギル先生のその一言で、みんな一斉に静かになり、おとなしく席に戻った。 


「それでは、席替えを開始しよう。くじを作成した。名前順で教壇まで引きにきなさい」


 そう宣言したギル先生は教卓にくじ入れ、というには大きすぎる箱をどんと乗せた。


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