アクの強い人達
えっと、私の部屋の位置は……。ああ、2階の真ん中らへんね。
うん、なかなかいい位置の部屋じゃないかな。
教室のある本館に直通してる渡り廊下もあるし、移動距離が少なくて済む。
で、肝心のお隣さんは……。
ライナック=タラントと、リコル=コーデュロイ……。
っしゃああああああ!来た!!全然知らないやつ!!
誰かしら関係があるやつしか、隣に配属されないんじゃって思ってたけど、正直夢も希望も粉々に爆散する悲しい未来しか想像してなかったけど、杞憂だった!よかったーーー!!!
一応、それぞれ隣室の奴くらいにはよろしく、なんて皆声を掛け合っているし、私もそれに乗じて、部屋に入る前に軽く二人に挨拶ぐらいしとこうかな。
とりあえず、知り合いと話し込んでる様子のライナックは後回しにして、リコルに声をかけに行く。
「リコル、で合ってるか?俺はこの部屋なんだ。よろしく」
「あ、リ、ラ様……、ですよね?!こ、こここちらこそ、よろしくおお願いします!」
ガクガクと小刻みに震えながら、こちらを見あげてくる小柄な茶髪の男の子。
なんか小動物っぽい、ていうか、子リス?
とりあえず、苦手な部類の奴じゃなくて安心した。
「ん。あ、あと、そんなにかしこまらなくていい。俺達、同級生だろ」
「え、あ、その!でも、リラ様は、モルガン公爵家の息子さんですしっ!僕みたいな新興貴族風情がそんな気楽に話すなんて恐れ多いっていうか、そもそもこんな雲の上のお方とお話させて頂いてる時点で身に余る光栄といいますか……!」
ひゃー!と頭を抱えながら、もたもた話すリコルを見て、私は軽くカルチャーショックを受けていた。
え、ええ……。普通にこんな遠慮してくる奴とかっていたんだ……。
今までのループで覚えてる限り、私の周りにいたのは口調は丁寧だけど権力者に取り入る系のしたたかな感じの女の子ばかりだったし、男の子もそんな感じの奴が大半だった。
攻略対象達はほとんど同等の権力者とか、王族とか、そういうのもあるだろうけどこんな風に扱われたことないし……。
後輩である腹黒トマス、あいつも新興貴族の男爵家の出だけど……。
最初はコネが欲しいのか、「よろしくお願いしますね、先輩!」なんて百点満点の笑顔で言ってくるけど、利用する気満々な真っ黒な雰囲気がちらほらにじみ出てるし、一度もちゃんと仲良くなれたことなんてないぞ。
なんならあいつ、はっきり敵対すると私のことどうのこうの言う割にめちゃくちゃムカつく悪女感出してくるぞ?
正面切って、嫌みとか悪口とか言ってきたり、嫌がらせしたり、わっるい顔隠さないようになるし、ちょっと私がイラっとするとすぐ「先輩!そんな顔ばっかりしてると将来しわが増えます。」だの、「やだなぁ、先輩!怖ーい!鏡見てみたらどうです?ガーゴイルみたいなお顔になってますよ?」だの、笑いながら罵倒してくるからな。あんにゃろう……。
流石にトマスと比べるのはかわいそうだが、この子ちょっと純粋過ぎない?新興とはいえ、一応貴族なんだよね?汚い腹の探り合いとか、そういうのできる?大丈夫?貴族社会の荒波にもまれて、ぱたりと死んじゃったりしない?
なんだか絶滅天然危惧種を見つけちゃったような気持ちである。
「え、いや、俺自身気にしないし、まず、そのへん一応この学校では失礼にカウントされないだろ?そんなびくびくする必要ねーよ」
「も、もったいないお言葉!ありがとうございます!
でも、その、なんか、安心しました。僕みたいな貴族もどきと違って、皆さん、とっても威風堂々としてらっしゃるっていうか近寄れないオーラが出てるんですけど、なんかリラ様は領の子たちにどこか似てらっしゃるので話しやすいです……。
あ!こんなこと言って、失礼でしたでしょうか?!すみません!」
「いや、全然。むしろ誉め言葉だろ、それ。お前も早く周りになじめるといいな」
なんとなく、リコルの頭を撫でてみた。その瞬間、ぷしゅーっとリコルの頭から煙が出た。
「あ、あ、あの、リラ、様。改めて、よろしくお願いします……。で、あの、そろそろ……」
ちらっと、リコルが真っ赤な顔でこちらを見上げてくる。
長い前髪から覗いたその顔は女の子みたいな顔をしていた。
……男の娘?……攻略対象以外もキャラ濃い人多いなー、この世界。
「ああ。じゃあ、またな」
「はい!」
そそくさと、私から離れて、何度もぺコンペコンと深くお辞儀しながら部屋に入っていくリコルを見送った。
……何あれ、可愛い。
図らずも、お隣に癒し要員が配属された。ラッキー!
しっかし、盲点だったな。こんな逸材がいたとは。
今まで攻略対象以外のクラスの男子にはBADED回避に忙しかったり、女子の権力関係の均衡を保つとか、そんなことばかり気にかけていたから、ちゃんと目を向けたことがなかった。
「ああ!左隣のお部屋はリラ様でしたか!これは、光栄の至り!まさに神のお導き!私めに、天より与えられし行幸!
ああ、聞きしに勝るお美しいライラックの瞳、凛々しく神秘的なご尊顔。満月浮かぶ湖のほとりで、妖精達とお戯れになる様子がこの目に浮かぶようです。
おおっと、申し遅れました!私、不肖タラント家の長男、ライナックと申します。以後、お見知りおきを!」
そんなことを考えていたら、金髪碧眼のいいとこのお坊ちゃんオーラ全開の長身の男、ライナックがこちらに大げさな身振り手振りで笑顔を振りまきながら近寄ってきた。
「……ああ、よろしくな」
な、なんかこっちはこっちで濃いな……。
女子にこんな濃い人そうそういた記憶ないんだけど、この世界の男子って実はみんな、キャラ濃いのかな……。
取り入ろうって姿勢はその多大勢の貴族の子息達となんら大差ないんだけど、なんか挙動がやたら芝居がかってる。
今にも、おお、ジューリエット!!とか言い出しそうな感じである。
なんだ?こいつの前世は吟遊詩人かなにかだったのか?
「では、挨拶もこのへんで。私はそろそろ退場させていただきます。貴方様の、しいては私達の学生生活が、豊かで素晴らしきものとなりますよう心からお祈りいたしております!それでは!」
ぐるん、と大げさにマジシャンみたいなお辞儀をしたライナックは、そのままパチンとウィンクを一つ残して、颯爽と自室に消えた。
……濃いわー。だけど、嫌いなタイプでは、ないか、な。
よくいるごますり貴族が隣室になるよりかはましかも。
ああいう奴って、やたら行動を共にしたがるから、隣室がそんな奴だったら、ものすごい付きまとわれた挙句、終いには虎の威を借る狐状態になりそうだし。
その点、ライナックは変人っぽかったから大丈夫そう。部屋割りは、上々だ。
それなりに、高揚した気分で自室へと入る。
うん、部屋の広さは女子部屋と変わらない。
違いがあるとすれば、ちょっと間取りが違うぐらいか。
必要最低限の、といってもスイートルームぐらいの家具はすべて用意されているところも同じみたいだ。
あ、でも、少し女子部屋の家具よりシンプルな造形かな。
あとは個人で部屋の雰囲気を変えられるように壁と床のラナカイト石の色を変える為の魔導具。例えていうなら照明の色を変えるスイッチみたいなのもあるはずなんだけど……。
ああ、あったあった。これこれ。
なにげにこの床と壁の模様替えというのは、自室に友人を招く場合、一種のステータスとなりうる。
色を変えるのには、魔導具に魔法を流さなきゃいけない。
それぞれの属性の魔法を流すと、火は赤、水は青、黄は緑、光は白、闇は黒、と色が変わっていくのだが……。
もし、好きな柄とか絵を入れたい、だとか、自分好みの色合いを模索して演出したい、とかだったら、物凄い高度な魔法行使が必要になってくるのである。
そのため、自身の魔法能力の高さを見せつける為、ど派手な壁紙にしている生徒も案外と多いらしい。
そういえば、派生魔法は試したことなかったな。
ひょいと、水晶型の魔導具を手に取って、聖魔法の力を込めてみる。
すると、壁一面が黄金に変わった。
うわっ、けばい!
目にうるさいぐらいのギラギラした黄金色でなくて、うっすら光るような上品な黄金色ではあるけど、これはちょっと趣味に合わない。
ここは、黄金の茶室じゃねーんだよ。
今度は試しに禁呪の魔法を込めてみる。
すると、今度は壁一面が銀色にかわった。
うーん……。金より銀の方が好きだし、けばいというほどじゃないんだけど
全面はなんか落ち着かない……。
そこで、もう少し設定をいじってみることにした。
とりあえず、理想はなるべくシンプルイズベストだ。
見栄なんかの為に、毎日落ち着かない部屋で眠る気はさらさらないし、まずこの部屋に誰かを招くかすら分からないのに無駄なことはしたくない。
結局、自宅の自室にかなり近いけど、それを武骨にした感じのデザインに落ち着いた。
さて、と。いろいろやっていたらもうすっかり日が暮れてきた。
とりあえずまだ眠くないし、持ってきた魔術書でも読んで禁呪のレパートリー増やすか……。
ふぅ、と一息ついて、私が机に腰かけた瞬間に、コンコン、と少し強めに部屋をノックする音が響いた。
ん、なに?誰?
「はい?」
簡易な施錠魔法を解除して、扉を開けた。
「やぁ、リラ!!久しぶり!」
なんか、いたんですけど。
そっ、と扉を閉じた。と、思ったらガッ!と扉の間に足を挟んで阻止された。
やめろ!!お前は借金取りのヤクザか!
「ふふふ……、観念するんだな……!今日こそは、私と手合わせしてもらうぞ!!」
ああああああああああ!!!誰だ!!この馬鹿に、私の居場所教えたやつ!
ひくひく、と思い切りひきつる顔もそのままに目の前の馬鹿に問いかけた。
「レルク、さん……。どうして俺の部屋がここだとわかったんですか?ていうか、貴方は2年生なんですから寮は別館でしょ?わざわざ来たんですか?
そもそも2年は魔法行使の授業をまだやってるはずですよ。どうして、いるんですか」
「ふっ、簡単なことだ。1年が今日入学するのは知らされてたからな!逢魔が時が魔法行使しやすいだかなんだか知らないが、私はそんな授業を受けるよりも君を立派な騎士にする、という使命がある!ちなみに、この場所は、1年生の寮、すべての階をしらみつぶしに見て回って、たどり着いた!
まぁ、そんなことはどうでもいい。ほら、君の木剣も既に用意してある!さぁ!試合をしよう!!」
「お引き取りください!」
レルクの足を扉から外そうとゲシゲシと蹴っ飛ばして無理やり扉を閉めようとするも、ギギギ、と向こうもかなりの握力でこじ開けてくる。
これ、扉、普通の木材だったら壊れてるんじゃないか……?
「遠慮を、する、な!君が今日、この後暇だということはわかっているんだ!」
「暇、じゃ、ないです!勉強しようとしてました!!」
「また君は本の虫になっていたのか!体を動かせ!!健康に悪いぞ?!」
「そういう問題じゃない!」
「わかった!場所が心配なんだな?!それなら安心してくれ。剣術クラブで使用している開けた草原があってだな。完全に暗くなると流石に通してもらえなくなるが、今この時間なら普通に解放されている!」
「草原だか、なんだか知らんが、そんなに自然あふれるところで運動したいなら一人で山にでも帰れ!この野生児が!!」
絶対こいつ、貴族の教育なんて受けてないだろ!
実は公爵が拾ってきた、狼に育てられた子供とかそんなんだろ!!!
「ええい、往生際が悪いぞ……!」
「何度も言わせんな!!しつけぇって言ってんだよ!!!」
以前、やったように腹パンをぶちかまそうとしたが、レルクにひょいとよけられた。
「はっはっは!そう何度も同じ手が通用すると……!ごふぁっ!!!」
「……」
そこにすかさず、横っ腹をえぐるような強烈な蹴りをお見舞いして、廊下に押し出すとガチャリ、と施錠魔法を多重にかけ直した。
「…………」
ぽすり、とベットに倒れ伏す。
「疲れた……」
考えが甘かった。
隣室が誰だろうと、安寧なんて訪れるはずもなかったんだ。
結局、その日は勉強する気にもなれず、そのまま泥のように眠った。
……後日、レルクと私の攻防の目撃証言が広まってしまったせいで、私がおぼっちゃま、お嬢ちゃま、貴族の子女達が通うここ、ファランドール学園では存在しない幻の生き物【不良】という未確認生命体だと全校生徒から認定されてしまったのは余談である。




