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ファランドール学園入学

 チチチ、と目覚まし代わりに小鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 ばさりと、布団を押しのけ、麗らかな春の日差しもなんのそので勢いよく起き上がった。


 来て、しまったか……。

 今日は、ファランドール学園初等科の入学式。

 これから、すべての攻略対象どもと嫌でも毎日顔をつき合わせて、勉学に励む生活が始まる。しかも、寮生活。

 先行き不安なことしかないけど、今度こそ私が勝つ!!いざ、出陣!


「リリー、これ、あなたの制服。男の子用と女の子用と替えのが何着か―」


「え、わざわざ女の子用も用意してくれたの?ていうか、なくても大丈夫だよ?私、学生生活中はほぼずっと男でいるつもりだし。週末、部屋にこもってるときにたまにぐらいしか、戻んないつもりだから

そんなのいいのに……」


「何言ってるの!せっかくの学生生活なんですから、たまには女の子に戻らないと!それに、見て。お父様のあの目を」


「リリー……」


「あ……。わかった、着るし、後で見せるよ、大丈夫」


「そうか!じゃあ、あとで映像記録しなきゃな!」


 気楽にホームビデオ撮る感覚で発動される禁呪っていったい……。と、思わないでもないけど、結構私もぽいぽい使ってるし、今更か。


「でも、リリーがいないと寂しくなるなぁ。寮に入ってしまったら、大型連休ぐらいしかこっちに戻ってこれなくなるじゃないか。

 ……あっ?!寮?!リリー、お前、男子寮に入るのか?!そういえば?!」


 この世の終わりみたいな顔をするお父様に笑って、やだなぁ、私も男の子になって行くんだよ。変な心配しなくて大丈夫だよ。と、言おうとして言葉が喉につっかえた。

 笑みを浮かべようとした表情筋がガチリと固まり、そのまますっと真顔になる。


 あ、れ……。男子寮って、下手すると、攻略対象の誰かが隣室とかになる可能性あるんじゃ……。敵地ど真ん中……。

 お父様と同じように愕然とした様子で固まる私にお母様がころころと笑った。


「ふふふ、あなた、何を心配なさってるの?リリーは真面目だから、そんな不祥事起こさないって私は信じてますし、リリーがその気になれば、男の子の格好してなくったって、魔法や武術で返り討ちにできるじゃありませんか」


「そ、そうだ、な」


「ふふ、リリーも急にお父様が変なことを言い出すから、緊張してしまったわよね?」


 うふふ、と笑いながら、私の髪を撫でつけるお母様にだんだん気持ちが落ち着いてきた。

 そうだよ、そんな可能性、低いじゃん。

 だって、脳筋レルクとギル先生と腹黒野郎は年が違うから、同じ寮には入らないし、同学年の攻略対象っていったら、王子、エドガー、ナンパ野郎の3人でしょ。

 確率的に限りなく可能性は低いし、大丈夫だよね。

 今まで女子寮ばっかだったから、ここで運命の悪戯とか発動する可能性も否定できないけど……。


 プラス!プラス思考でいかなきゃ!

 入学式する前から、気持ちで負けてどうすんだ!!

 もはやあの学園は戦場なんだぞ、寮関係なく、気を抜いたら輪廻転生ループさせられるぐらいの気持ちで行かないと……!


「お母様、ありがとう!大丈夫!」


「ふふふ、リリーが元気になったみたいでうれしいわ。

 ……さっ!行きましょうか」


 キュッ、とネクタイを綺麗に締め直してもらって、軽く肩を押される。

 そのまま両親と一緒に馬車に乗り込んだ。


 ファランドール学園は基本外部の人間の立ち入りを禁止している。

 また、学園の人間も休日、大型休暇以外に学園の外に出る時は外出許可証が必要など、貴族の子女がうじゃうじゃいるからこそセキュリティチェックが厳しいのである。


 入学式などの行事の時は、学園外の人にも学校を開放しているけど、それすらもいちいち許可証がないとダメなぐらいの徹底ぶりだ。

 ちなみに聖夜祭は夜間の行事なので、闇に紛れて忍び込む賊が現れる可能性があるだとかで、唯一外部の人間が入ってこれない決まりになっているイベントごとだ。

 あれ、なんで、3週目の時、あのナンパ野郎、他校の聖夜祭に侵入できたんだ?

 …………武力行使かな。


 ぶっちゃけクラスメイトになったとしても、扱いに困るのは王子ぐらいなもので、腹黒後輩のトマス=ギュンターはこの時点じゃ学園に入学すらしてないし、おそらくヤンデレナンパ野郎ことライナー=ローランドは私が男、ということで著しく興味を失うだろうからあまり問題視してない。

 ギル先生も初等科から担任になったとしても、あんまり積極的に何かしてくる人じゃないから問題ないな。

 いや、先生はよくわかんないうちに退学EDにされたから、要注意しなきゃいけないか?それをいうなら、ライナーも……。


 あとは、デビュタント以来、話しかけてはこないのにやたらこっち見てくるエドガーが気になるぐらいかな。

 あれか。王子と仲良く?してるからか?あいつ、ちょっと姑じみてるもんな……。

 ああ、あとミリュエル嬢も要注意かな。


 馬車の外を流れていく景色をぼーっと見つめながら、学園内での敵について考察したり、お父様とお母様とお話ししていたら、あっという間に王都に着いて、そのまま流れるように学園に着いてしまった。


「うーん……」


 相変わらず、でかい。無駄ともいえるぐらい、でかくて豪奢なつくりの学校である。

 ど真ん中に時計塔が堂々と建っていて、端の方にチャペルが見える。

 目に優しい程度に、鈍く輝きを放つ白いレンガ造りの校舎を改めて見渡した。


 ラナカイト石、という魔法を流しやすく、丈夫で、熱や寒さに強く、透明で染色のしやすい、鈍く輝く美しい石がある。

 石、というより魔法行使の源、精霊たちの司る自然界に漂うエネルギーの結晶体だろうか。

 宝石の原石とされる高価なそれなのだが、それが全面床にも壁にも柱にも至る所に加工されて使われている。


 確かに、防音・断熱・防寒・耐震効果もあるうえに魔力を流せるから、結界も張りやすいし、魔力操作で染色できるからインテリア的にもばっちりだろう。

 だけれど、ラナカイト石は、とんでもなく高い。

 例えていうなら、握りこぶしぐらいの大きさのなんの加工もしていない原石のままのラナカイト石で貴族にしてみたら小ぶり程度だが、平民なら一生かかっても立てられないような立派な一軒家が建てられるのだ。貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんが通うなら妥当、と言い切れるのかもわからないゴージャスな設備である。


 まぁ、魔法を流しやすいからこそ空調も完璧だし、家でも使ってるところには使ってるけど。

 でも、全面はねぇよ。どっから金捻出してんだよ。血税じゃねぇだろうな。


 思わず胡乱げな目で見てしまうが、陛下はそんなことする人じゃないって信じよう……。

 陛下のおかげで、みんな、ここで気を遣わないで学生生活が送れるんだし。


 今までは流石に女の子ということで世間体があったが、男の子となった今、私がいくら粗野な言動をとったところで誰も咎めるものはいない。

 本当の貴族社会、とかだったら家格に応じた適切な礼節、とか、いろいろ考えなきゃいけないのかもしれないが、ここでの生活ではいち学生として、年齢などによる上下関係はあれど、家格は気にしなくてもいい、という陛下のお達しがあるのだ。

 なんでも、王子が入学した際に周りが気を遣ってびくびくしていたり、逆に取り入ろうとへこへこしてたら、王子の教育に悪い、というか、社会勉強にならん!ということらしい。

 それでも家格による優劣とかお家の事情とかそういったものはついてまわるものだけどね。

 それは、貴族社会の縮図だからしょうがないんだけど。


 まぁ、つまり、別に私が王子にため口聞こうが何しようが王子に許可をもらわなくても、この校内においてはぶっちゃけ何の問題もないのである。

 私が前回のループで皆に冷たい目で見られてしまったのは、貴族の子女達ばかりが通う学校でありえないぐらいの暴言を吐いたのと、ひとえに私が女だったからだ。

 なんと、本来、王子に「よぉ!」なんてため口聞くだけじゃなく、一発腹パンお見舞いするのすら許される。殺傷でなければ、喧嘩も青春の一ページだから好きにやりなさい、とは陛下もずいぶん寛大だ。


 ……でも、陛下。エリックの親だしなぁ。

 見栄っ張りで妄想癖強そうなところとか親子そろって似てなきゃいいけど。

 禁呪とかは使える人が限られてるし、実写は今のところ実現してないけど、この世界には光魔法を駆使して、主にドラマとか空想上の映像をお届けしてる映像配達便なんてものがある。

 届いたカードを開けると、光が浮かび上がって、それが景色や人の形になり、動き出すアニメーションのようなものが見れるサービスなのだが……。

 それで変な青春物語とか見て、影響されただけとかじゃないですよね、陛下?ちゃんと陛下は賢王やってますよね?大丈夫ですよね?


 学園での生活も心配だが、なんだかこの国自体が心配になってきてしまった。

 いや、人の心配もそうだけど、まずは自分が生き抜かないと!


「じゃあ、お父様、お母様、いってきます」


「気を付けてね」


「手紙を寄越してくれ。休暇は必ず帰ってくるんだぞ!」


「うん、ありがとう!」


 ふわりと、笑って送り出してくれるお母様と、心配そうにこちらを見やるお父様。

 二人の視線を背に受けながら、チャペルへと歩き出した。


 流石に全校生徒が入れるかといったら、また違うだろうが、一学年の生徒とその保護者、先生方が楽々全員入れるぐらいには広いチャペルの入口へと向かう。


 張り出されたクラス表を見て、並ぶ位置を確認するついでにクラスメイトの名前を確認した。

 初等科、高等科、と科が上がるごとにクラス替えはあるが、初等科1年から2年ではクラス替えはされない。

 つまり、このクラスで、私は少なくとも4年間はやっていかないといけないのである。

 できれば、全員と違うクラスがベストだけど……。

 恐る恐る名簿を目で追っていく。


担任 ギル=リベリオ


 おい……、いきなりかよ。幸先悪いな。


エドガー=キース

    :

エリック=ファランドール

    :

    :

    :

ライナー=ローランド

    

 ちょっ!そろい踏みじゃねーか。

 出だしは、あまりよくないけど、まぁ、しょうがないか……。

 今までのループで逆にこいつらと違うクラスになったことないしな。

 そう割り切って、おとなしく新入生の列に並びに行く。


「なんだ、お前も同じクラスだったのか」


「あ、王子」


「これからよろしく頼む」


「こちらこそ」


 王子にちょろっと声をかけられて、後ろの方に行こうとすると、じーっと視線を感じた。

 エドガー……、なんなの?怖いんだけど。


「なんか、わ、俺に用?」


 こんだけ雑な口調で私、っていうのもなんか変かな、と咄嗟に俺と言い換えて話しかけてみた。


「いえ、別に。こんなところでちんたらしていないで、さっさと列に並んだらどうですか。リラさん」


「まぁ、いいけど。じゃあ」


 ふいっと勢いよく顔をそらして、とっとと後ろ行けなんていうエドガーにため息をついて列に向かった。

 なにあの、煮え切らない態度。なんか文句あんならせめて5週目の時みたいに正面きって突っかかって来いよ。

 そんなことをもんもんと考えながら、列に並んだせいか前にいた人とぶつかってしまった。


「っとと、ごめ……」


「やぁ、初めまして、子猫ちゃん。俺はライナー=ローランド。よろしくね」


 ライナー=ローランド?!

 あ、そっか!リラ=モルガンとライナーって、名前順めちゃくちゃ近いじゃん!


 ひきつる顔で眼前のチャラ男を見返すと、そいつはとても不思議そうな顔で、あれ?と首をひねっていた。



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