ひび割れた友情
ええー、という顔を隠しもせず、荒事にそこまで耐性がないのか王子は大通りに繋がる道のど真ん中で呆然と固まっていた。
「なんだ今のは……。流れるように領民を殴り倒していたように見えたが……」
ちょっ、これ、大丈夫?やばくない?
5週目で仲良くなった時と、6週目の最後ぐらいにしか出さなかったボロがこんな形で?
え?後々素行が悪いからとか、そんな理由でループさせられないよね?
「いや、その……。なんていうか、ゴミを処分してました?」
こんな大きい証拠、もう見られちゃったし、いまさら闇魔法で隠しても意味はないかな、といっそのこと開き直ってみた。
「ゴミって、お前……。いや、そもそもどういう状況なんだ。その男は最終的にどう処分するんだ?説明しろ」
「ああ、王子様にこんなことお見せするつもりは一切なかったんですけど、この飲んだくれオヤジがうちのカフェの売り子をやってる男の子のお父様らしくて。子供から酒代を恐喝してたんですよね。で、こうなりました。ちなみにこいつは、懲役1年程度ということで監獄送りにします」
「いや、でも、親子だったのだろう?子はどうする?親がいなくて、不安ではないのか?収監される間の生活は?」
お?流石はまだ綺麗だったころのエリック。こっちの話も聞いてくれる気ありそう?
「ウィル君はまだ小さいですけど、もう生きていくだけの生活力が十分ありますし、教会の受け入れ態勢が整うまでは、母親もいないようなので私の家でしばらく預かります。親の不在が不安かどうかについては……。
むしろ、軽々しく子供に暴力をふるうような大きな大人がそばにいた方がよっぽど不安だと思いますけど……。王子だって陛下が酒におぼれる愚王でお会いするたびに殴られるとかだったら部屋から閉じこもって出てこないでしょ。それと同じですよ。
まぁ、あとで本人達の意思は確認します」
「……慣れてるんだな。そんなことが頻繁に起こっているのか?ここでは」
「頻繁って程じゃないですけど、あるにはありますね。最近はそういう犯罪の見回りも兼ねた警備兵を新体制で回してるので随分減りましたが……。王都でも、ざらにあると思います」
「そうか……。私はそういった民達の苦しみを把握できていなかったのだな。先ほど、教会の受け入れ態勢と言っていたが、浮浪児や孤児だけでなく、家庭環境が劣悪な子供も受け入れるのか?」
「はい、そうしようと思って着々と増築してます」
「なるほど。王都でもそういった子供の避難場所や刑法の見直しを考えなければいけないかもしれない。今回、お前の行った制裁は少々手荒でどうかと思うが……。
お前の方が民のことを見ているのかもしれないな。
ジパングスイーツも美味かったし、こうして民の生活を見直すきっかけも得られた。お前のところを訪ねてきてよかったよ。勉強になった」
「え、いや、もったいないお言葉です」
「ところでお前、絶対無理して敬語を使ってるだろう。どこか受け答えも淡白だし、さっきのが素だろう?私達は友達だというのに水臭いじゃないか。
特別に私に粗暴な口をきくことを許す。光栄に思えよ」
……友達、ね。ずっとそう思ってくれるんならいいんだけど。
ふと蘇ってきたのは、5週目の記憶。
あの時は、楽しかった。
腹黒な後輩とだけは仲良くなれなかったけど、偉そうだけどどこか可愛げのある王子としっかりしてるように見えて泣き虫なエドガーと仲良くお茶をして、レルクとだって、なんだかんだ楽しくやれていた。
担任の先生とだって、仲良くお話したりしていたし、ナンパ野郎にもたまに口説かれたりしつつ、軽口を交わして……。
皆が決定的に変わるきっかけは、エレンだ。
君が黒幕だ、君がエレンを虐めた、陥れた。
罪には罰を。悪には制裁を。エレンには祝福を。
知るかよ、そんなこと。私を利用して、愛を深めるための生贄にしようとするな。
逆の言葉も周りにあふれていた。
取り巻きの子達が、エレンをよく思っていない令嬢たちが、私に悪魔のように囁くのだ。
エレンが、王子達を誑かしている。
エレンがすべて悪い、エレンが貴女様を陥れた。
敵は潰してしまいましょう。消してしまいしょう。壊してしまいましょう。
何言ってんだ?都合のいい言葉ばっか並べやがって。
私を利用して、自分たちの邪魔者を排除したいだけじゃないか。
もし、エレンが本当に悪女だったなら。
私も彼女一人を恨んで、王子達と仲直りしてハッピーエンドなんてのもあったかもしれない。
でも、違うんだ、違うんだよ。
1週目は、ゲームで見た通りのエレンだった。
2週目で仲良くなって接触する時間が増えると、分かった。エレンは聡明な心優しい女の子だった。ただの普通の女の子だったのだ。
3週目は知らないが、4週目ではいちクラスメイトとして、なんとか私と仲良くなろうと努力していた。
5週目でもそれなりに関係は良好だった。
6週目でも、私が王子に難癖をつけられる度、エレンは私を心配そうに見ていた。
エリック王子、知ってる?エレンだけなんだよ?
今までのループで、あのクライマックスで、一度も私のことを怒りや軽蔑、嘲笑の目で見なかったのは。
彼女はいつだって、その瞬間が来るたびに、驚愕、嘆き、戸惑いに瞳を震わせていた。
ああ、そういえば先生も、担任のギル先生も、いつも戸惑った目をしていたかも。
……でも、ギル先生の目からも嫌悪がにじみ出ていることがあったなぁ。
ほら、やっぱり最初から最後まで普通で、自然体で、ありのままで私に接してくれたのはエレンなんだよ。
私が知りうる限り、彼女は悪女なんかじゃない。
彼女も私も愛憎の渦に巻き込まれた被害者でしかない。
男女の友情なんて成立しないって、言い出したのは誰だっけ。
今週は私は男になったから、王子達がいい友達のままでいてくれるかもって、ダメもとでほんの少しだけ期待しておくよ。
「ありがたき幸せ。じゃあ、これからは素で喋らせてもらうとするか。これでいいんだろ、王子さん?」
「ああ、その方が君らしいよ」
ふにゃりと、崩れたその笑みに昔が重なって、いつか壊れるんだろうなって、渇いた笑みを浮かべて、なんだかツキリと胸が痛んだ。
「ところで、さっきの教会の児童受け入れについてもう少し詳しく話さないか」
「ん?いいよ」
「それって、大体何歳ぐらいまでを保護する予定なんだ?」
「んー、そうだな。赤子から、12歳程度までかな。13歳にもなれば普通に手に職持てると思うし、それで問題あるようなら16から18歳程度までの受け入れを行おうかと思ってる」
「なるほど。ならば、王都でもそういった制度を作るようにお父様に進言するとするか。そうすれば……」
「そうすれば?」
「いや、私の女神も見つかるのではと……。これだけ探して見つからないんだ。もしかすると、親に虐げられ、監禁されてるのやも、と思ってな」
「あー、ソウダネ」
恋は人を狂わせるとは言うけど、こんだけ脳内お花畑のアッパラパー恋愛中毒患者なら、またああゆう結末になるだろうな。
今まで散々親友親友言ってたのに、彼女や彼氏ができたとたんに付き合いが悪くなっていちゃいちゃしだす奴、それと同じだよ、こいつは。いや、それの悪化版だ、この色ボケ野郎は。
感傷に浸って、少しセンチメンタルな気持ちになった自分に脳内でアッパーを食らわした。




