路地裏ファイト
「ほう、これがジパングスイーツか。変わった菓子だな」
「ええ、王子のお気に召すといいんですけれど……」
おのれ、エリック……!毎度、私の平穏をぶち壊すのはお前なんだな……!!
私がつかの間の平和を感じているときに、いつもいつも絶妙なタイミングでやってくるこいつに辟易してしまう。
本来、婚約者という立ち位置だからって、無意味に絡んでこなくていいんだよ。
基本関わりたくなんてないんだから、皆勤賞なんて目指さなくていいんだよ!!
まぁ、今の段階ではまだ好意から絡んできているのが唯一の救いか……。
でも、ここで心を許すと、後々酷く嫌な気持ちになるのは5週目に学んだ。
つまり、これは時間差トラップなのである。失礼にならない程度に、しかし、フレンドリーになりすぎても、後々あまりの掌返しにショックを受けること必至である。
ここは、塩対応で乗り切るしかないな!
「この白いのが泥まみれで刺さってるのはなんなんだ?」
「あ、それ、泥じゃないです。餡子です。豆を甘く煮て、潰したものをお団子にかけた菓子ですね」
「じゃあ、こっちの薄くて丸いフリスビーみたいな菓子は?」
「それはせんべいと言って、米を潰して、伸ばして、焼いた……。スナックのようなものです」
「じゃあ、このバラと小鳥を模した美しいものは?食べれるのか?」
「ああ、練り切りですね。それも餡子です」
「じゃあ、これは?いろいろな色が混じった宝玉のように見えるが……。」
「飴玉ですね。ほかの種類ですと、のど飴、塩飴、飴細工にリンゴ飴なんかもありますよ」
「ふむ……。興味深いな……!」
以前の社交界で分かったことだが、エリック誘拐事件は既に起こったらしく、デビュタントの時よりも隙が無い感じになり始めているエリックだが甘党なのは変わっていないらしく、お菓子を見るたびにキラキラと瞳を輝かせている。一応、その様子は私から見ても微笑ましいものだ。
つくづく、時の流れって残酷だなぁ……。
いや、エリックはシンレディのイベントストーリーでもこういう一面があって可愛いって言われてたんだっけ。
じゃあ、あれだ。恋は盲目。いき過ぎた愛は人を狂わせるってやつ?
はぁ……。勇者になるには、敵対する悪が必要かもしれないけど、恋を成就するための必要悪なんてねぇだろ。
惚れた腫れただの、身分違いの恋だの、ドラマチックな青春は結構なことだが、人をはた迷惑な色恋沙汰に巻き込まないでほしいものである。
「よし、決めたぞ!まずは、このカラフルな星屑を食してみようではないか!早く寄越せ」
「金平糖ですね、わかりました。あ、ちなみにそれ、砂糖菓子です」
ザラザラザー、と適量を黒塗りのお皿に盛りつけて、軽い光魔法を金平糖にかける。黒い皿を夜空に見立てた即席のミニ星空の完成である。
「どうぞ」
「おお……!では、早速!」
ぱぁぁっ、と顔を輝かせた王子はテーブルの端に置いてあったカトラリー入れから、よりにもよってフォークを取り出した。
おい、なぜそれを選んだ。
案の定、がちっ!と音を立てて、フォークは皿を傷つけていくだけで肝心の金平糖はころころと、逃げていく。
「……ぐ、ぬ!おい、フォークに刺さらんぞ……」
「いや、王子。せめて、スプーン選んでくださいよ。というか、それ、手づかみで食べるんですけどね」
「手づかみ?」
「直接手で食べてくださいってことです。ほら、こうやって」
ひょい、と金平糖を一粒手に取って、あーん、とそのまま口に放り込む。
「こうか?」
私の真似をして、エリックも自らの金平糖に口を放り込むと、ふにゃっとした笑顔で「甘いな」とか呟いて、ころころほっぺで金平糖を転がしている。
よかったな、食ったらさっさと帰れよ。
前世でゲームやってた時は可愛い、可愛い言って攻略対象の中でも2番目に好きだったエリックにも、もはやプラスの感情がわいてこない。
必死に帰れコールを念として送りつけながら、この見た目で王子なんて肩書持ってるから、あそこまで毎度毎度増長するんじゃないの?貧困層の小汚いおっさんかなんかとなんらかの事故で入れ替わりを果たして現実の厳しさを知らねーかな、こいつ、とかろくでもないことを考える。
けど、どうやらエリックには一切伝わらなかったらしい。
足を崩して、椅子の背もたれに寄りかかり、完全にくつろぎモード全開である。
「ところで、リラ。お前のところの領でも見かけたことはないか。栗色のふんわりしたショートカットの妖精みたいな女の子なんだが……」
「ああ、王子の初恋の君ですか。残念ですけど、それらしき女の子は見かけてませんね」
「そうか……。あ、まさか貴様!彼女の可憐さに惚れこんで私に隠し立てなどしようとしてるわけではないだろうな!」
「いや、ほんとに知りませんって」
めんどくさー。エレンと接触したせいか、将来の片鱗がチラ見えしてる……。
「本当か?」
「はい」
「なら、いいんだが……。本当に彼女は素晴らしい女性なんだ。思いやりにあふれ、凛々しく、可憐で、聡明で……。まさに理想の女性だ。見かけたら、絶対報告してくれ。そして、何度も言っているが、惚れるなよ」
「はい」
人ん家急に押しかけて、色ボケかまして、変な詮索する暇あるんだったら、シンデレラの王子みたいに国中しらみつぶしにしてでも、エレン探せよ。
「ああ、もしかしたら情報が足りないのかもしれないな。
もう一度聞かせてやろう。第一章、私が卑劣な賊に攫われたとき――」
「あ、いいです。それ、もう何回も聞いたので」
「うるさい、黙って聞いてろ。
見目麗しい女神が幸か不幸か私と共に捕らえられ――」
長いんだよなぁ、この話。ていうか、第一章ってなんだ。進化してないか。大長編語る気か。いつ帰るんだ、こいつ。
もう面倒になったので、ひたすら、「はい」「そうですね」「すごいですね」の3パターンで適当に返す。
最初は「ちゃんと聞いてるのか?」とか聞いてきたけど聞いてますよと返したらご機嫌が治ったみたいで延々エレンとの出会いから、そもそもの発端、陰謀、現在王子の胸を焦がす思い、エレンの王子への思い〈妄想による捏造〉、だのを語り続けている。
そもそも思いのたけを誰かに語りたいだけだろ、お前。もう帰れ。
げんなりした気持ちで王子越しにぼんやり窓の外を眺めていたら、先日雇った売り子のウィル君がなんだか変な奴に絡まれてるのを目撃してしまった。
「あ、ちょっと、王子。すみません。用事が出来ました。すぐ終わるので、これでも食べて待っててください」
「む?話はまだ終わってな――」
ささっ、と抹茶パフェを出して、王子の制止の声をガン無視して、ウィル君を追う。
見失ってしまったので、透視と遠視、地獄耳の禁呪を重ねがけした。
お父様が得意だというこの軽いお役立ち禁呪は魔法陣や供物も必要ないから手軽でいい。
索敵範囲を広げると、結構先の薄汚い路地裏にウィル君が連れ込まれるのが見えた。
ガッと、ウィル君を突き飛ばして、ニタニタと笑う大柄な男。
ウィル君は完全に怯え切った眼をしている。
「おい、ウィル!お前、最近リラ様んとこの店で働いてるらしいじゃねぇか。かなり稼いでるんだって?」
「やめてよ、父さん!これはエルの治療費だよ!リラ様に借りたお金なんだ!」
「うるせぇんだよ!てめぇら、ガキはおとなしく親孝行してりゃいいんだ!!」
「ああっ!!ぐっ!!」
「あの――」
やっと追いついて、とんとんとその男の肩を指でつついた。
「ああん?!」
「あなた、ウィル君の親御さんですか?」
「ああ、俺はこいつのオヤジだとも。こりゃ家族の問題だぜ?他人がなんか文句でもあんのか?!」
「毒親かよ……。つーかさ、私、その子の雇い主なんだけど」
「は?なんだ、リラ様ってこんなガキだったんだな!ありがとよ、この金でありがたく、たらふく酒を飲ませてもらうぜ」
ふーん?ウィル君が頑張って働いた分のお金も皆が頑張って出した店の利益もてめぇの酒代なんぞに消えると?ていうか、これ、家族同士とはいえやってること立派な犯罪だよね?
グッ、と思わず振りかざしそうになった拳を固く握りこむ。
いやいや、落ち着け……。こいつがくそなのには、変わりないけど、こういう風に歪んだ民が出てきてしまうのも、上がちゃんとした政策とってないから……。
つまりは、私達の領地改革が滞ってるからである。
これだから、嫌なんだ。こういうのが湧かないように私達は努力しなきゃいけない。
たまたま自身で働くすべがなく、子供にたかるしかなかった、だとかだったら仕事を斡旋しようじゃないか。
酒を飲まなきゃアル中で手が震えて何もできなくて、働ける場所がない、とかゆえの暴挙かもしれないしね?
にこり、と引きつる笑顔を浮かべながら再度ウィル君のオヤジさんに問いかけた。
「ウィル君の妹さんが病気って聞いたんだけど、それはどうなってんの?そもそもあんたは働く気ある?」
「エル?確かにあいつは、肺炎だ。でも、もうくたばりかけだぜ?そんなの知ったこっちゃねぇよ!
ああ、そういやリラ様が言い出したとかで今度保険ってのが出来るらしいな。あいつぁ、いいよな!死亡保険っての。これでエルも死んで役に立つってもんだぜ!」
あ、これ元から屑な奴だ、救いようない奴だ。テンプレゲス野郎だ。
「保険はそんなために作る制度じゃねぇよ。つーか、まず、お前は身を粉にしてでも、娘を助ける努力をしろよ。息子の爪の垢でも煎じて飲んでろ!どぶ野郎!!」
「げはっ?!ごほっ、ごがっ……」
「え?え?」
「ウィル君、はい、お金。気を付けて、持って帰るんだよ」
「え、あの、でも、なんか父さんが……」
「大丈夫だよー、こんな屑でも殺してはないから。引き付け起こしてるけど、全然問題ないよ。後ね、ウィル君とエルちゃんは後で家においで」
「え?は、はいっ!」
一回空中に殴り上げて、かかと落としして、とどめに踏みつけるなんて、格ゲーみたいなコンボ決めたら変なところに入ったらしく陸にあげられた魚みたいになって白目向いてるけど全然大丈夫だから。死んでないから。
あー、こりゃああれだな。ただの浮浪児とか、孤児の受け入れだけじゃなくてDV親とかから子供を非難させるためにも教会の増築急がないとな、なんて思って、うんうん一人でうなずいていると、どこからか声がした。
「お前……、実は養子で元チンピラかマフィアかなにかだったのか?」
いつのまにかドン引きした顔の王子様が後ろに立っていた。




