むなしい右ストレート
ファランドール王国の教育機関というものは、前世の日本と似て非なるものだ。
まず、幼稚園・小学校、ついでにいうと中学校というものがない。
あるのは、12歳から貴族の子女が通うことになる初等科。
そして、16歳から通うこととなる高等科。
さらに学問に興味を示し、試験に合格した者が通うことを許可される魔法・武術・政治それぞれの専門に分かれた学院。
貴族としての教養を身に着けるため、子供同士でコネを作るため、貴族社会の縮図を学ぶため……。
そういった目的が中心の為、まず平民が通うことはできない。
そもそも入学費が平民にはおよそ払えないような大金だったりと、通えるようなシステムになっていない。
ただし、それの救済措置、というか、生まれは貧しくても能力は高いものはいるかもしれないと、人材発掘のために国民の間で全国模試のようなものを行い、一位をとったものだけ特待生として特別に教育を受けることが許されている。
つまり、入学を許可された平民であるエレンは入学できた、というだけで、かなりの傑物なのだ。
逆をいえば、金さえ積めば誰でも入れる。だから、まだ成りあがったばかりの新興貴族だっているし、レルクのような脳筋でも入ることが出来るのだ。
さらにいえば、貴族のくせにどこの学校にも入学を拒否するような奴は、よっぽどその領地が財政難に陥っているか、本人に問題があるとみなされ、貴族社会から白い目で見られ、晒し者になること間違いなしなので、まず入学拒否なんてできないわけで……。
というか、別の学園に入学したら、何が起こったのかもわからずにあれよあれよとヤンデレナンパ野郎に追い詰められた記憶があるので、奴らの行動を監視するためにも私はファランドール学園に入学する必要がある。
でも、それは12歳からである。
確かにこいつの言う通り、まだ2年は自由に過ごせる猶予がある。
……だからって、なんでてめぇの遊び相手しなくちゃいけねぇんだ?ああ??
「お褒めに預かり光栄ですが、ご遠慮します。大変恐縮ですが、私、魔法の勉強なども行っておりますし、まず手合わせをする前に基礎を固めないといけませんので。
第一、素人同然の者同士がいくら延々と試合をしても互いに大した上達は見込めないと思いますよ。ましてや、毎日などと……」
思いっきりレルクに対して、冷めた視線を送った。
意訳すると、スポ根やりてぇんなら勝手に一人でやってろ、馬鹿。である。
ただでさえ、人の言葉を解さないバーサーカーには、これぐらいはっきり言ってやらないと……。
「む、何を言ってるんだ、君は!!技能とは、一日でも鍛錬を怠ると錆びついていくものだと聞いたことがないのか?君はそれでも騎士を志す者か?!」
「いや、だから、私も自主的な鍛錬は欠かさないつもりですが、毎日取っ組み合う必要はないでしょう、と言っているのですが……。それに第一、私は騎士を目指しているわけではありませんし」
「何を恥じることがあるんだ!貴族の長子だからと、口外することを恐れているのか?!貴族だからと、騎士にあこがれることはなんら恥ではないぞ?!」
「いや、全然そういうことじゃなくて……」
「安心したまえ。照れることはない!私たちは同志なんだからな!」
「あの、聞いてます?私はそういうことを言ってるんじゃなくて……。えーと、ひとまず、騎士どうこうは置いておくにしても、ほかの学業だってあるんですから……」
「ほかの学業?そんなものどうだっていいじゃないか!
魔法はまだ役に立つかもしれないが、政治や算数、そういったものを勉強して一体何になるというんだ?それで何が守れるんだ?そんなことよりも鍛錬をしたほうが断然いい!愛する家族も、友人も、己自身も、いざというときに守るために必要なのは力なのだからな!」
「いや、政治学を学べば領が発展して、領民を守れますし、算数だって商売には必須ですよ。って、そういうことじゃなくてですね、ともかく……」
「おいおい、レルク。あんまり無理強いはするもんじゃねぇよ」
「無理強い?なにを仰るのですか、レオンハルト殿!リラは武芸の才能を持ちながら、己の才能をないがしろにしようとしているのですよ!それを正さずして、何が騎士でしょうか!?」
おい、レオンハルト様にまで突っかかんなよ!
まじで人の話聞かねぇな、こいつ……。
この思い込んだら猪突猛進、というか、押しが強い感じ、マジでいくらループしようと変わる気配がない。
ここでちゃんと断れないと、嫌でも毎日家に突撃してきそうだから嫌なんだ、こいつは。
ていうか、実際あった。
何度か、「出てこい、勝負から逃げるとはどういうことだ!卑怯者め!」とか無茶苦茶なこと言って、家におしかけてきたのだ。こいつには、前科がある。
お嬢様の家にだよ?非常識もすぎるだろ。
男と公言している今、まず間違いなく絶対に押しかけてくる。
「レルクさん、もうこの際はっきり言いますね。私は、私のペースで鍛錬がしたいので、貴方と切磋琢磨して修行する気はありません。」
「何を言うか!そんなわがままなことでは、将来騎士団に入団した時、団の秩序を乱しかねないぞ?!」
ぶちっ。
流石に、イライラが限界を迎えた。
「人の話を聞け!!しつっけぇんだよ!あと、そのセリフは鏡見て言え馬鹿野郎!」
「ごふっ!!」
「あっちゃー……」
口から暴言が漏れ出た。ついでに、手も出た。
レルクのみぞおちを抉るような渾身の右ストレートである。
ずるずるずる、と体を崩してうずくまるレルク。
「ぐっ、流石だ、リラ……。的確なボディブロー……。やはり、君は私が見込んだ男……」
なぜかいい笑顔で、グッジョブと片手をあげて、地に倒れ伏したレルクに戦慄が走る。
馬鹿だ……。死んでも治らないタイプの馬鹿だ……。
今まで女だったこともあり、一度も殴ることが出来なかったレルクに渾身の一発を叩き込めてさぞやすっきりするだろうと思ったのに、結果はこれである。
恐ろしい奴……、メンタルどうなってんだ。やっぱ、只者じゃないな……。
「あー……。なんだ、リラ。今のは確かにレルクがしつこすぎたな。まぁ……、しょうがないんじゃないか?……とりあえず、軽く手当てしてやろう」
ぽんぽんと、若干困ったような、同情するような目で軽く私の肩をたたいたレオンハルト様はよっこいしょ、とレルクの様子を観察している。
「おー……。だいぶ、いいのが決まったな……。
んー、ところで、リラ。お前らの相性…、つーか、レルクが思ってたより暴走しがちだな。お前もこんな調子じゃずっと二人で訓練ってのも辛いだろ。俺も見回りとか、警護があるから、余計に教える機会が減っちまうんだが……。2週間ごとに交代でお前らのところに指導に行くってことで、ほぼ一か月一回になっちまうが個人授業に変えっか?」
「レオンハルト様…………!!」
あなたが、神か……!
その救いの言葉に、涙目になった私はもちろん一もなく二もなく、ぶんぶんと首を縦に振ったのだった。
ブクマ&評価ありがとうございます!!
レルクの標準装備を「木刀」から「木剣」に変更いたしました。
また、12話の文章にシンレディはそもそも「ギャップ持ちイケメンを攻略するゲーム」といった一文を追加いたしました。




