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手合わせ

「リラ、腕をしゃんと伸ばせ!剣に力が乗り切ってない!

 レルクは、もう少し素早く動け!そんな大振りで、ぼさっと突っ立ってたら、すぐ相手に間合いに入られちまうぞ!」


『はい!!』


「よーし!それじゃあ、二人とも、もう一回!!」


 体を慣らすために軽く走り込みなどを済ませるといよいよレオンハルト様の剣術基礎講座が始まった。

 お腹に響くようなよく通る大声で指示を飛ばすレオンハルト様。

 いつもは無理して、威厳ある口調を意識してるようだが訓練が進むごとにボロボロと口調が崩れていき、今では傭兵のおっさんのような口調が丸出しである。


 そんな彼は、言葉とは裏腹に終始ニコニコ顔だ。

 どうやら私、そしてレルクが思っていたよりも体力があったらしくて、嬉しくてしょうがないらしい。


 さっき水分補給のために小休憩をはさんだ時に「お前ら、筋がいいじゃねぇか!もう少し難しい型もやってみっか?」と、二人そろって頭をわしゃわしゃされたのは記憶に新しい。レオンハルト様が楽しそうで何よりである。


 私も、なんだかんだで楽しく剣術を学ぶことができた。

 教官にああもにこやかに指導されるといくら飛んでくる言葉が厳しいものでも不思議と楽しめてしまうものだ、ということがわかった。これだから、この人は部下に慕われてるのかもしれない。


「……よしっ!そこまで!リラもレルクもよく頑張ったな。お疲れ!」


『ありがとうございました!!』


 レルクと二人そろって、レオンハルト様にきっちり敬礼を返す。

 結構長い間、訓練していたせいか、私もレルクも少し息があがっていた。


「ところで、お前ら、手合わせするとか言ってたが……。どうするんだ?

ちっと俺も調子に乗っちまったからな。疲れてんだろ。今度にするか?」


「いえ!大丈夫です、レオンハルト殿!!私はまだやれます!さぁ、リラ!早速構えてくれたまえ!!」


「……わかりました」


私の体調は聞く気ないのな、というのはこいつに言っても無駄なので、おとなしく構えをとった。


「お、二人ともまだスタミナ余ってるか。たいしたもんだ!じゃあ、私の合図で始めるぞ、いいな?」


『はい、お願いします!』


「それじゃあ、そうだな……。魔法行使は禁止で、相手の喉、心臓に木剣を軽く当てた方の勝利としようか。

 ……では、はじめ!!」


 掛け声がかかり、二人同時に地面を踏み込み、相手へ向かってひた走る。

 踏みしめられた芝がサクサクと音を奏でるが、カン!コン!カン!とぶつかり合う木剣の音に塗りつぶされた。


 レルクが踏み込み、力任せに剣を叩き込んできて、私はそれを数歩素早く下がって身をそらすことでよける。できた隙をついて私が踏み込み、レルクに対して、切りかかる。レルクはそれを剣を横に構えて防御する。そういった応酬の繰り返し。


 しばらくそんな、地味ともいえる打ち合いをして、お互い再度距離をとった。

 すると、真正面から馬鹿正直に直線的に剣を振りかざし、レルクが突進してきた。どうやら一度薙ぎ払って、私を転ばせようかなにかしようとしているらしい。


 レルクは基本大振りでその完成された筋肉によって生み出されるパワーを存分に剣にのせて叩きつけてくる。

 しかし、こっちは今のところそこまで筋肉もついていないし、力のみではおし負けてしまう。

 でも、スピード、技量だったら、こっちに分がある!


「はああああっ!」


「よっ……、と!」


「ぅぐっ!!」


 こちらは斜めに剣を構えて、あえてそこから動かずレルクが突っ込んできた瞬間に、レルクの剣に私の剣を滑らして、方向をそらした。

 ついでに保険としてややしゃがんでいたので、その体制のまま相手の足元を払う。

 目論見通り、倒れこんだレルクの心臓に向かって剣を――。


 ぞわりと、悪寒が走った。

 待てよ……。ここで、私が勝っちゃったら、一体どうなるんだ?

 何度も何度も今までのループで決闘!決闘!!としつこく食い下がってきたレルクの姿が脳裏によみがえる。

 こいつの性格からして、下手すると超えるべき壁、だとか強敵しんゆう認定受けるんじゃないのか?


 ツーッ、と冷や汗が頬をつたった。

 レルクに剣を振りかぶりつつ、そっと足首を変な方向に曲げながら考える。


 もし、負けたら?

 「いい戦いだったな」とさっぱり告げて、レルクは私に興味をなくすだろう。

 だがしかし、もしわざと負けたなんてことが感づかれたら、それはもうめんどくさく絡まれること必至のリスキーな選択である。


 じゃあ、このまま一度わざと転んだうえで、うまい具合に引き分けに持っていったら?

 「決着は持ち越しだな!」となり、勝敗が白黒つくまで試合が繰り返されるある意味決闘ループエンドしか見えない……。


 選択肢が逃げられない!しか、ないんだけど。

 なにこいつ、ボスモンスターだったの?


 待て待て、落ち着け……。

 ベストな選択肢はないかもしれないけど、ベターな選択肢なら残っている。


 ……よし、負けよう!


 そもそも私も大人げなかった。冷静に考えてみると、それが最善なのに、こいつに負けるの癪!とか叩きのめす気満々だったのがいけないのだ。


 でも、前向きに考えるなら、今、負けようとするのはいいタイミングかもしれない。


 最初から、いきなり子供との怪獣ごっこに興じる大人のように、ぐわー!やられたー!なんて倒れようものなら、いくらあいつでも不正に気付くだろう。


 しかし、拮抗して、押し倒した今なら、わざと負けても、慢心して油断しちゃいました感が出て自然じゃない??というか、あいつがそう思ってくれることに賭けるしか安寧の道はない。


「チッ!」


 不覚!といった具合に大きめの舌打ちをし、あー、シマッター!疲れから足がもつれてシマッター!という体でバランスを崩す。狙いをそらした木剣がザグリと庭の土を抉った。


 その隙に体を半分起こしたレルクが私の首を狙って剣を振るう。

 とす、と軽く私の首にレルクの木剣が当てられた。


「勝負あり!レルクの勝ち!!」


「はぁ、はぁ、はぁっ……。勝てた、のか?」


「……」


 一度距離を取り、剣を胸の前に掲げ、お互いに礼の構えをとる。

 とりあえず悔しそうな感じの顔でもしとくか。


「リラ…………」


 ザッザッザッ、と草を踏みしめ、レルクがこちらへとやってきた。


「私の、負けだ……」


「え?」


 予想していたものとはまったく違う言葉をかけられて思わずきょとんとしてしまう。少し、声が裏返った。


「君のスピード、相手の出方を見極める技術……。素晴らしいものだった。

 もし、君が万全の状態だったならば、私はなすすべなく完敗していただろう……。

 正直、年下に負けるっていうのは悔しいものだが、私は君みたいな奴がいることが素直にうれしいよ!レオンハルト殿は職務もあるだろうが、君はまだ10歳だ。学園に入学するまで、まだ2年は猶予がある。

 これからは、毎日でも模擬試合をして共に高めあおうじゃないか!!」


 あ、そうくるの?

 

 私は今度こそ、演技ではなく、苦虫をかみつぶしたような顔になった。

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