騎士団長と面倒な奴の来訪
「はい、そこまで!!本日は、この後、騎士団長殿もいらっしゃるようですし、そろそろ休憩いたしましょう。
本日の紅茶は、何にいたします?ローズヒップ?カモミール?アップルティー?ああ、ジャムとスコーンもございますよ!」
「師匠、ありがとうございます。アップルティー頂いてもよろしいですか?あと、お聞きしたいことがあるんですけど……」
「はい、どうぞ。ええ、ええ!!なんなりとお答えしますよ!いかがいたしましたか?」
「あ、いただきます。それであのー、なんか、即効性があって、相手が死なない程度にかるーく体調不良になる呪いとかってないですかね?」
アップルティーに口をつけて、ほうっ、と息をつく。
適度に甘く芳醇な味わいと香りが、喉を潤し、鼻を通り抜けた。
うまっ、師匠、いい茶葉出してくれたんだな。
「死なない程度の呪いですか?んー……、残念ながらありませんね。リリー様は、ただでさえ闇魔法の適性が高いので、その効果も余分にでやすいですし……。
そもそも相手を殺さないのでしたら、魔法を使わなくても下剤や軽い毒薬程度で事足りますしね。そんな悪戯じみた魔法は禁呪や闇魔法にはないです。
やるとしたら、催眠や暗示で具合が悪いと思い込ませるぐらいでしょうか?」
「え、そんなことできるんですか?!」
「できますよ?まぁ、相手を視界に入れて数分見つめながら呪文を唱え続けないといけないのですごく面倒な魔法ではありますけど。
それに、禁呪においても、いや、すべての魔法においてですが、催眠や暗示、人の意思に干渉するような魔法は人の世が乱れると仰って、神様が人間に使用を基本禁じられておりますからほぼタブー扱いで精霊達もその魔法補助を禁じられていると言い伝えにあります。
だからか知らないですけど、成功率も持続時間もかなり低い魔法ですから、わざわざ使っても意味ない気もしますよ。
あ!そうです、そうです!!今日騎士団長と一緒に来るっていう、公爵家の三男のことを気になさってるのでしたらもっと別のことで追い出してやればいいじゃないですか!!火魔法で狙撃して、髪を全部燃やし尽くして、家から出られなくしてやるとか、木魔法で適当に遠めの見えづらい木の影なんかに拘束しとくとか、武力行使もありじゃないですか?」
「師匠、結構過激派ですよね。でも、それ、力加減間違えると火魔法じゃ人体発火までいきそうですし、そんな風に、こっそりかつあからさまに危害加えるのはちょっと……」
ぶっちゃけ、そんなことするぐらいだったら、出会い頭に問答無用でみぞおちを狙って、拳をねじ込み、昏倒させたい。
あの脳筋馬鹿にはそれぐらいしても罰は当たらないんじゃないか?
まぁ、それで目をつけられるのも嫌だからやれないんだけど。
私は私で物騒なことを考えていると、スノク師匠は口を三日月にして、からからと笑った。
「ははは、嫌ですね、リリー様ったら!!バレなきゃいいんですよ、バレなきゃ!
ちょうどいいじゃないですか!彼には、リリー様の魔法訓練の成果を確かめる実験台になってもらいましょう!口も聞けぬカエルなんかに彼の体の構造を変えてしまってもいいですし、それとも、彼の生気をカラカラになるまで吸い上げます?
あ、それ、いいですね!吸い上げた分、リリー様の魔力が一時的に増加しますし、死にはしませんが彼は数週間、あるいは数か月寝込むことになります!!
魔法行使に準備はかかりますが無理やり生気を奪う反動で、その時の記憶もぶっ飛びますよ!まさに完璧!!
そうすれば、リリー様の心配事は消えますし、私も貴方の魔法行使を直に見て、その練度を確かめることが出来る!
まぁるく収まって、私達二人とも大満足!!我ながら、名案じゃありません?!」
「師匠……、人体実験とかやばい発言は控えてくださーい……」
師匠、興奮するとすぐこういう話する……。
こんなんだから、シーナ先生が会わせるの渋ってたんだな。
それにしても、あー、スコーンも美味い。
バターがたっぷり使われてるせいか、作り方にコツでもあるのか、パサパサというよりは、さっくりほろほろした口当たりだし、紅茶の茶葉も練りこまれてるみたいでアップルティーによく合ってる。
でも、和菓子も食べたいな。せんべいとか、お団子とか……。
今度それっぽいもの材料集めて作ってみるか?
もうあと数十分程度でレルクがついてしまうだろうという事実に最後の抵抗で現実逃避に走ってみる。
幸い、今の私は男状態である。淑女だなんだ、と注意する人もいない。
イチゴジャムをたっぷりつけたスコーンをふごふごと口に押し込んで、咀嚼しながら、だらーんと簡易テーブルに突っ伏した。
「……おや、本格的にお疲れのご様子。そんなに気乗りしませんか?」
「いやー、正直言うとですね、剣術の授業自体はそれなりに楽しみなんですよ。そんなのちゃんとやったことないですしね。
でも、師匠の仰る通り、あんまりレルクさんに会いたくないんですよね。なんか苦手意識があって……。
まぁ、もうすぐ約束の時間になっちゃいますし、いい加減腹をくくらざるをえないんですけ、ど!」
流石にそろそろ観念して、気持ちを入れ替えなきゃいけない。
ぐっと、背筋を伸ばして、首を回し、手を思いっきり前に突き出して伸びをする。パキパキ、と小気味よく骨が鳴った。
「おや、スノク様、お嬢様。こちらにいらっしゃったのですね。騎士団長レオンハルト様ならびにレイナード公爵家のレルク様がご到着なさいましたよ」
タイミングがいいというか、なんというか、ちょうどこちらに歩いてきたストックがそう声をかけてきた。
えー、もうちょっと時間あると思ったのに。
ちらりと庭の隅に建てられた時計塔を模したオブジェを見てみると、その針は約束の時間、20分前を指し示している。
さすがは、実際に騎士団に所属なさっている方と、所属希望の奴なだけはあるな。
それにしてもちょっと早くない?
もしかしたら、レオンハルト様もレルクも今日の訓練を心待ちにしてたのかな。
とりあえず客人をずっとお待たせしておくわけにもいかない。
すくっと椅子から立ち上がると、小走りで玄関へと向かった。
「おお!君がリラか!ちと早く来てしまったようですまないな。私はファランドール王国騎士団長レオンハルトだ。よろしくな!!」
「はい、こちらこそ!レオンハルト様に体術を教えて頂けるなんて光栄です。どうぞご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
ニカッと人のいい豪快な笑みを浮かべて、獅子のように逆立った髪をガシガシと片手で掻きながら握手を求めてきたレオンハルト様にこちらもにこりと手を差し出した。
彼は豪胆で快活なその性格、またその武勇から、部下に慕われ、この国の兵士と呼べる職業についている者、みんなのあこがれの的である。
魔法抜きのただの腕力によるごり押し勝負において、この国最強の戦士といっても過言ではない。
そんな人に特訓してもらって、あわよくば互角に近いぐらい身体能力を上げることができれば、私を毎回ループ前にひっとらえていた学園に配備されている衛兵の数人程度なら簡単に薙ぎ払うことだって可能のはずだ。
そんなことになったら、ますます私が乙女として死に、お父様の言うところのゴリラになる気もするが、かまわない!ともかく、あのトラウマの夜を突破さえできればいいのである!!
「ああ、それと途中で会ったんだがな、こいつがレイナード公爵のとこの坊主だ。まぁ、仲良くしてやってくれ」
レオンハルト様に紹介され、ずいと前に出てきたふんわりとした銀髪を肩まで伸ばした一見女の子のようにも見える少年がその長いまつ毛に縁どられた夜空色の瞳をキラキラと輝かせ、騎士団長の後に続くようにこちらに手を差し出してきた。
「リラ君、よろしく!私はレルク=レイナード!君もレオンハルト殿に師事するということは、騎士団に憧れが?!ぜひ後程手合わせをしてみよう!」
「あ、はい……。よろしくお願いします」
なんでこいつ、いきなり手合わせとか言い出してんの?
変に絡むのやめろ、頼むから。
ていうか、普通に今日は顔合わせと、体慣らし、軽い基礎を教えてくださる予定だって連絡いってないの?
一発、マジで重たいの打ち込んでやろうか?
「お、レルク、やる気じゃねぇか!いいぞ、練習の最後、二人で模擬試合やってみるといい!
でも、お前らはまだ基本ってもんが全然なってないはずだし、まずは体を慣らさないと、変な所を壊しちまう。つーことで、よーし、お前ら!早速、駆け足!続けー!!」
『はい!』
レオンハルト様、笑って快諾しそうとは思ってたけど、まさか、本当に許可が下りるとは……。
出来るだけ関わらないようにできないかなと思ってたのに王子とは別ベクトルでガンガン来るな……、こいつ。
横目でちらりとレルクを伺う。
その麗しい顔立ち、神秘的な出で立ちからすぐに連想されるのは窓辺から光が漏れる図書館などで静かに詩歌を嗜む深窓の美少年である。
そんな少年が、瞳に熱い闘志を燃やし、汗を迸らせている。走った時に風で捲れたそのシャツから覗いたのは岩のような、とまではいかないものの既に完成された筋肉だった。
この風貌で、知性ではなく、筋力に極振りした単純筋肉馬鹿とか、世も末だ。とんだ見た目詐欺野郎である。
そもそもシンレディの攻略キャラ達は見た目にしろ、性格にしろ、なにか一つギャップを持っている。
レルクは、憧れの近寄りがたい先輩が、話してみると、全然お堅いところもない無邪気な少年みたいな人で案外たくましいところもある?!そのギャップにドキドキ!みたいなキャラ紹介だったが、ここまでくると、ギャップ萌えじゃなくて、なんか違う、なにか別の名状しがたい……。
確かにシンレディにおいて、レルクのファンは一定数いたが、大多数からの扱いはネタキャラ枠、出オチ要員というものだった。今更ながら、その扱われ方に深く深く納得するほかない。
にしても、手合わせかぁ。めんどくさいことになってしまった。
こいつ、勝っても負けても、変なことになる気しかしないんだけど。




