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嫌なことは立て続けに起こるもの

 子供のわりに冷たい無表情を張り付けた男の子が、そのエメラルドグリーンの瞳を僅かに歪めて、こちらを睨みつけていた。


「……はい。失礼ですが、貴方は?」


「失敬。僕はエドガー。エドガー=キースと申します。

 ところで失礼ですが、リラ様はモルガン家の一人息子でいらっしゃるとか?」


「え?はい。そうですが……」


「……そうですか。貴方のような方が長子でしたら、モルガン家もさぞ誇らしいでしょうね。……では、失礼しました」


 一瞬、確かに皮肉気に顔をぐしゃっと歪めると、何事もなかったかのように無表情に戻ったエドガーは一度軽く礼をすると、踵を返して、ツカツカとどこかへ行ってしまった。


 ん?なんであんな睨んでくるの?意味わかんないんだけど。今週は初対面だよね?


 ていうか、なんか確認ぽかった?

 どっかからモルガン家の長子は実は女の子だとか漏れてる?

 でも、うちの使用人さん、そんなに口軽くないし……。外出も、領内ぐらいで王都になんか今回が初めてのはずだから、バレないと思うんだけど……。

 ええー……?なんかやだな、怖いんだけど……。

 なに?私の計画すでに崩れ始めてる??考えすぎ?


 それと……、エドガーもしかして過去イベもう進行してる状態っぽい?

 シンレディにおけるエドガーの幼少期イベントというのは、別にヒロインは関わってこないシナリオとなっている。

 ただ、単にエドガーがどうして常に無表情な冷血人間のような人格になってしまったのか振り返るという説明じみた過去回想だ。


 その内容は、それなりにシリアスなもので、エドガーは宰相の次男坊であるがゆえに周囲から期待され、その期待に応えるたびにかなりゲスな性格をした兄に虐められ、元々気が弱く優しかったエドガーは周囲に心を閉ざしてしまうという内容になっている。


 エドガーは、兄にも、誰にも文句を言われない強い人間になるために、自身の才覚を磨き、舐められないようにと、周囲の人間に時に厳しく対処し、自身も他人に心をなかなか開かないため、孤立して、孤高のインテリとして学園に君臨するのである。


 唯一、幼いころから交流を持ち、また、方向性は違えど、似たような信念を持っているエリックとは大の仲良しで、エリックに媚びる平民と警戒して、ヒロインに最初冷たい態度をとるのは攻略対象どもの中だけでもこいつだけだ。

 ちなみに、周囲に冷たい態度をとりつつも、心の弱さは幼いころから変わっておらず、こいつのルートに行くと明るいヒロインに徐々に心を開いていき、ヒロインに弱音を吐いたり、素を見せるような感じになっていく、そんなキャラである。


 エリックは王位継承権争いしなきゃいけないかもしれない義母弟がいるにも関わらず、前向きな俺様野郎なので、うじうじ悩むような性格をしていないし、ほかの攻略対象達も暗い過去設定は特にない。

 エドガーは、影のあるイケメンって素敵よね枠なのだ。


 にしても、さっきのことも少し気にかかるけど、幼少期イベントって同時期に発生したりしないんだ?

 6週目の時は特に気にしてなかったから何とも言えないけど、5週目の時は私のデビュタント時点では、王子は甘党バカだったし、エドガーはおどおどした感じの男の子だった。

 キャラによってイベント発生時期のズレとかもあるのか……。

 新しく発見したことを踏まえて、これから起こるイベントにも対処しなきゃいけないな。

と、決意を固めた。


 そのあと、やっとお母様達との合流を果たして、家族一緒に適当に貴族間の挨拶を流していく。


 その中には、やはり攻略対象のほかの奴らも混じっていたが、向こうも特に接触してこなかったし、なんとかスルーすることに成功した。


 王子がやたらフレンドリーだったことと、エドガーが変な反応してたことなど気になることは多いものの、やっとデビュタントを乗り切ることが出来た。

 これで、私は社会的に男として認知されたはずである。

 BADEDループ脱出の最初の一手は、まず成功したといっていいいだろう。

 帰りの馬車で、やっと肩の力を抜くことが出来て、私は安堵のため息を吐いた。



 デビュタントが終わった翌日の昼食時。

 その爆弾はあまりにも唐突にお母様から私へと、たたき落とされた。


「ああ、そうそう。リリー。グッドニュースよ。

 剣術、護身術とかの先生なんだけど、騎士団長であるレオンハルト様が直々に教えてくださるって仰ってくれたの。財力ばかり誇示して、頑張るとしても、勉強や魔法の鍛錬だけ、そんな軟弱な貴族が多い中で、その気概は素晴らしいって、随分乗り気になってくださっててね。再来週、稽古をつけにいらしてくださるって仰ってたわ」


「へぇ、あのレオンハルト様が?それじゃ、そんじょそこらの兵士にも負けないくらいに鍛え上げてくれそうだね」


「ほどほどにな……」


 蚊の鳴くような声でお父様が主張するが、お母様はそれを気にせず話を続ける。


「ただ一つ、頼まれごとをしちゃって、デビュタントでレオンハルト様にそのお話をしてた時に、それを聞いてたレイナード公爵がうちの息子もぜひ!って食いついちゃってね。隣にいた息子さんもすっごくやる気満々なの。

 でも、レオンハルト様もそんなにお暇じゃないでしょう?だから、二人一緒に稽古をつけるっていうことになっちゃったから、よろしくね」


「なん、ですと、…………」


 デビュタントを乗り切れたことで、いまだほくほくしていた気持ちが急速に萎びていく。


「……。ちなみに、何番目のお子さん……?」


「3番目のご子息よ。名前はレルク君だったかしら。リリーの一つ上のお兄さんね」


「あ……、あ……」


 あいつぅううううう!やっぱりあいつかよ!!

 麗しの3年の先輩こと、攻略対象レルク=レイナード!

 奴は、公爵家の息子のくせに、さらには貴公子面のくせに、その実、脳筋の熱血馬鹿なのである。

 レイナード公爵様自身も脳筋の気があり、公爵領を継ぐのも長子ということで、家公認で騎士団入団を目指しているという体育会系貴公子だ。


 あいつと直接対決したのは1週目なので、完全にこちらに非があった。

 それは言い逃れのできない真実だし、体が動かなかった、なんて信じてもらえるわけもない。

 だから、あの時のことは、別に恨んでもいないし、怒ってもいない。


 だけど、その後の週で全ルートにおいてちょっかい出してくるエリックほどのウザさはないものの


「君は、なぜそうやってエレンを目の敵にするんだ?恥ずかしいとは思わないのか!」


と、ちょくちょく登場しては、熱血教師のような暑苦しさで私の言い分をガン無視して、時には木剣まで携えて、更生させようと追いかけまわしてきた非常に迷惑極まりない人なのだ。


 流石乙女ゲーの最終決戦相手、いわゆるRPGのラスボス、という立場とでもいえばいいのか、リリーの容姿は美しいし、魔法適正だって高いうえに、何より運動神経もいい。性格以外完璧超人である。


 だからか知らないが、


「私と決闘しろ!私が勝ったら、エレンを虐めるのをやめると誓うんだ!」


と、お前、レディには優しく、とかそういう紳士的思考回路を全部宇宙の彼方にぶん投げてきたのか、もしくは私のこと、最初から女だと思ってないだろ!という勢いで、正々堂々決闘しろ!とうるさくわめいていたのだ。


 一応、貴族の子女として、というかまず一般的に考えて、いろいろダメだが、裏でこそこそ私を追い詰めたり、権力を問答無用で振りかざしたり、女の子を多勢に無勢で負かそうとする輩よりかはまだいくぶんかマシではある。


 だから、一度聞いてみたことがある。

 もし、私が勝ったら、私を変に追い回すのをやめて、こちらの言い分をちゃんと聞いてくださいますか?と。


 その答えは、まさかのNO。


「私は卑劣な者に屈するつもりはない。もちろん女性だろうと容赦なしに、全力で勝ちに行くつもりだし、例え敗北を喫することがあっても、あきらめたりはしない!」


 ようは、俺が勝つまで決闘する。お前の言い分は勝とうが何しようが聞かない。

 そう堂々と宣言したのだ。


 何言ってんだ、こいつ……。ジャイ〇ンかよ。

 ただでさえ、私の決闘やる意味ゼロなのに、その理屈でいくとマイナスじゃねぇか!!


 こいつ、理不尽タイプの馬鹿だ……!!

と、片頭痛でズキズキと痛む頭を押さえながら全力で再度逃げ出した記憶が走馬灯のようによみがえる。


 本音を言うと、絶対関わりたくねぇ……。

 怒りとか、復讐とかそんなものより先にそんな感情が湧き出てくる奴だ。

 ほかの奴らも大概人の話聞かないけど、流石に追い回してきたりはしない。たまたま遭遇したら、難癖付けてくる程度である。

 やだ、会いたくない、めんどくさすぎる……。


「お、お母様……。私、やっぱり、残念だけど、レオンハルト様にわざわざ鍛えてもらわなくてもいいか、な……。軽い鍛錬でいいと思うし……」


「ええ?そうなの?でも、あちらはそれはもう乗り気よ?

 それにリリー、さっきは喜んでくれたじゃない。」


「いや、それはその、気が変わったというか……」


「そうか!いやぁ、残念だなぁ、仕方ないなぁ。レオンハルト殿には、断りの連絡を入れなくちゃなぁ」


「あなた、でも、こちらからお願いをしておきながら、やっぱりやめます、だなんて失礼だと思わない?リリー、せめて、一回だけでもやってみたら?」


「ぐっ……!」


 確かに……。レオンハルト様はなにも悪くない……。

 だがしかし、隣で一緒に鍛錬して、あまり関わらずに済むなんてことができるのか?


「う、う……。とりあえず一回だけ、なら……」


「そう言ってくれて、よかったわ。楽しみね、リリー!」


「うん……」


 レオンハルト様に免じて、一回ぐらいの遭遇はしょうがない、と割り切ろう。

 どうせ高校入ったら、嫌でも遭遇するんだし、今はエレンと出会っていない時期だ。

 それなら、こっちにも変に突っかかってこない……、はずだ。


 再来週様子見して、お互いに鍛錬に集中して、あまり関わらなくて済むようだったら、そのまま鍛錬を継続させてもらって、どうしても無理そうなら、私には辛すぎました、申し訳ありませんが辞退します。とでも言えばいいだけの話だ。


 せっかく来てくれるレオンハルト様に根性なしと思われてしまうかもしれないが、もう、それはしょうがない。


 ……まったく、なんなんだろう。

 高校からだったら、まだ全力スルーもできたのに幼少期スタートの時は多かれ少なかれ必ず攻略対象と接触する機会が出てきてしまう。

 呪われてんのか?いや、貴族社会が狭いだけか……。


 遭遇回避方法として、先輩に呪いをかけ、無理やり欠席させるという手も考えたが残念ながら、人を対象にした呪い関連はもはや死に至らしめるレベルの怖いものしか出来ないから、おいそれと呪うこともできない。

 無駄だと知りつつも、偶然にも再来週、あの馬鹿、急にお腹でも壊さないかな?と、願うばかりだった。

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