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プロローグ ~6回目~

こちらが初投稿の作品となります。

色々と文章、設定などに粗が目立つとは思いますが

生暖かい目でご覧いただければうれしいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

 キラキラと美しく装飾が施され、輝きであふれる学園。

 軽快なクリスマスソングと共に盛り上がる聖夜祭。

 興奮冷めやらぬ生徒達の見つめる先には、今年のプリンセスコンテストの最終決戦の場に勝ち残った女生徒二名がいた。


「それでは!今年の我が校のベストプリンセスを発表いたします!」


 司会者のその言葉にごくりと息をのむ観衆。

 緊張からか祈るように手を組み両目をつぶる平民出身の女生徒、エレン。

 そんな彼女を安心させるように見目麗しいパートナーの男性が彼女の肩をそっと抱き寄せる。

 その様を眼前で見せつけられたもう一人の優勝候補の公爵令嬢ココットはひくひくと口元をゆがませた。


 何を隠そう、エレンのパートナーは我らがファランドール王国の第一王子エリック様なのだ。

 嫉妬に顔がゆがむのもいち令嬢としてなんらおかしなことではないでしょう。

 ああ、いい調子!そのままそのまま!お願いよ!!

 自分の口角が緩み始めたのが分かったが無理になんでもないかのような顔を取り繕って、固唾をのんでその場を見守った。


「今年の……、ベストプリンセスは……!!」


 ドラムロールが鳴り響き、先ほどまでクリスマスソングを弾き続けていた音楽隊が場を盛り上げるように音楽をかき鳴らす。

 

「なんとなんとーー!!まさかまさかの快進撃!エレナ嬢に決定いたしましたーー!!」


 その瞬間、割れんばかりの拍手が巻き起こった。祝福を叫ぶ声があちこちから上がる。


 しかし、このままフィナーレ、なんてそうは問屋が卸さない。

 案の定、しばらくの間愕然として固まっていたココット嬢が、その美しいかんばせを憤怒に染め上げるとヒステリックにエレン嬢に怒鳴り散らした。


「なぜ?!なぜですの?!貴方のような……!貴方のような平民にこの私が!私が負けたと!?私は貴方に何一つ劣るものなどないはずですわ!それなのに、どうして……?!

 ……皆さん、皆さんはこんな小娘が私より素晴らしい女性だと、そうおっしゃるの?!」


 今度は会場をその血走った眼でにらみつけるが、ココット嬢のその剣幕に会場は冷ややかな態度だ。

 ちらほらと「ひゅー!おっかねー……」などとはやし立てるような声すら聞こえる。


「なぜなぜなぜ……!?」


 震えを抑えるかのように自らの両肩を抱き、悔し涙を流して膝をつくココット嬢のその姿は痛ましさすら感じるものだった。


 ああ、可哀そうなココット嬢……。でも、ごめんなさい。これはとってもいい流れなの。だから、どうかそのままそのまま……!


「なぜ、だって?」


 エリック王子の厳しい声がココット嬢へと向けられた。


「当たり前の結果だ。貴様はたしかに美しいし、家格だって高いし、才もある。

 だが、それだけだ。人を惹きつけるには人望がなくては。

 思いやりあふれる心で皆と接し続け、信頼を勝ち得たエレンと権力を振りかざし、周りを貶め、見下し続けた貴様とどちらに人がついていくかなどわかりきったことだろう。」


「そんな、そんな、エリック王子様、私は……!」


「……貴様はずいぶんとエレンに対して卑劣な行為を働いていたそうだな。お前が家ぐるみで行っていたエレンへの嫌がらせを洗っていく過程でリーズ公爵家の不正なども全て白日の下に晒された。

 ココット・リーズ。貴様は公爵家の称号を剥奪したうえで罪を償うために修道院に入ってもらうことに正式に決定した。貴様の家族にもおって王より沙汰が下されるだろう。また、エレンへ嫌がらせを行っていた他の者に対してもその罪をつまびらかにし、対処する。覚悟しておくように」


 その宣言に驚愕の声に交じり、何人かの令嬢の引きつったようなうめき声が聞こえた。


「ああ、あああああ!そんな、どうか……、王子!私は、私はただ……!!」


「私にはエレンはふさわしくないと、私を思って行動したことだと、そう申し開きでもするつもりか?

 ……全てお前の欲故にだろう。散々公爵家の権力を振りかざして、私との婚約をもぎとったようだが残念だったな」


 王子のサファイアの瞳が意地悪そうに細められる。


「貴様との婚約はもちろん破棄だ」


 そして、次にエレンへと視線を移し、エリック王子は花も恥じらうかのような笑みをこぼした。そのままエレンの手を取り、その手の甲にうやうやしく唇を落とす。


「私の心は、もうすでに一人の女性に囚われている。エレン、君さえよければどうか。どうかこの私の側で生涯この国を見守っていってはくれないだろうか」


 そう真摯にエレンに問いかけるエリック王子。


「あの……、はい。わ、私でよければ……!」


 りんごのように真っ赤になったエレンがはにかみながら、そういった瞬間、再度学園内は盛大な拍手と歓声に包まれた。どこからか二人の門出を祝うようにハトが飛び出し、きらびやかな紙テープが幾重にも宙を舞う。聖夜祭の終わりを告げるチャペルの鐘がまるでエレンとエリック王子を祝うかのように高らかに鳴り響く。


 っしゃああああああああ!!!!!乗り切ったぞ!おい見たか!私は!ついに!!

 この瞬間を乗り切ったぞおおお!!!

 私は人の隅に隠れて小さくガッツポーズを決めながら、内心狂喜乱舞していた。

 誰か私が雄たけびをあげなかったことをほめてほしい。

 なんたるおしとやかさ、自分で自分が恐ろしい。


 ああ、やったわ!ついにやったわ!!

 ココット嬢、貴方の分まで私は前を向いて生きていきます!

 ここから!ここからなのよ!!私の人生は!

 ああ、もう、ほんと、なにをしようかしら。

 とりあえず帰ったらお父様とお母様に思いっきり抱き着いて

執事長のストックに優しい目で「お嬢様、はしたないですよ」って苦笑されるの。

 それからそれから、皆で素敵なクリスマスディナーを囲って

プレゼントを交換して。来年にはちゃんとしたお友達をたくさん作って…。


 そんな私の幸福な妄想にいきなり割り込んできたのは、お隣にたたずんでいたミリュエル嬢だった。


「あの、エリック王子様!私、私……!このおめでたい場で水を差すようで申し訳ないのですけれど、お伝えしたいことが……!」


 彼女の切羽詰まったような言葉は思いのほか会場内に響いて、一気に辺りが静かになった。


「……なんだ?申してみよ」


 エレンと熱く見つめあっていたのを邪魔されたのが心外だったのか、軽くにらみつけてくる王子のその視線にミリュエル嬢はびくりと震えた。


「お、恐れながら申し上げます。わ、私、その、実は、エレン様に以前ひどいことを……」


「ああ、もちろん調べにあがっている。以前、エレンが薔薇園で落ち込んでいたのは貴様を含めた数名が

エレンに悪質な嫌がらせを行ったせいらしいな」


 まじかよ。そんなことしちゃってたの、ミリュエル嬢。

 っていうか、王子、怖くない?そんな細かく罪状調べ上げてんの?

 どっから情報とってきてんの?


「ひ、は、はい!エレン様。その節は、大変申し訳ございませんでした……」


「え?あ、その、そんな、もう全然気にしてませんので……。私にも悪いところがあったのだと思いますし……!こちらこそ、その節は申し訳ありませんでした」


「そ、そのようなことをおっしゃって頂けるなんて!エレン様はなんとお優しいのでしょう!」


「え、いや、そんな……」


「やはり、そんなお優しいエレン様のためにも後顧の憂いを絶たねばなりません!勇気をもってお話いたします。

 実は私たち、あるお方の密命をもって動いていたのですわ。それでエレン様にあのような卑劣なことを……。たとえ、立場上あのお方に逆らえなかったとしても、私の罪は許されるべきものではありません。これより、誠心誠意をもって償わせていただきます。

 その証として、ここで貴女様を苦しめる膿を全て潰すためにも、その方の名を告げさせて頂きます!」


 涙を湛えた両目をキッと細めたかと思うとリミュエル嬢はなぜかこちらを向いた。


「え、ちょっと、なに……」


 まてまてまて、何を言おうとしてるのかしら、リミュエル嬢。

 やめて、ちょ、ほんとやめて。なんだかよろしくない流れな気がすごくするのだけど…!


「ここにいらっしゃるモルガン公爵家令嬢、リリー・モルガン様ですわ!」


「え、ちょ、ええ?!な、なにをおっしゃいますの?!リミュエル様!」


「私は真実を述べたまでですわ」


「な、そんなはずありませんわ!そんな事実ございませんもの!エリック王子様、信じてくださいますよね?!」


 あんだけの情報網、持ってんだろ!王子さんよぉ!

 私の無実だって承知の上でしょ?!

 ほら、あなたの横の可憐なお嬢さんは唐突な告発に頭が付いていかないって顔、

思い切りしてますけど?!

 ほんとなんでこんな唐突に罪を擦り付けられなきゃいけないのよ?!


「ふん、しらばっくれる気か。モルガン嬢。貴様の悪事にこの私が気づいていないとでも?」


「……あ゛?」


 せせら笑うような表情の王子を見た瞬間に、すとんと自分の表情が抜け落ちたのを感じた。それと共に物凄くどすのきいた声が出た。


「よく勇気をもって告げてくれたな、リミュエル嬢。モルガン嬢のことは私も前々から怪しんでいたんだ。もしかすると、ココット嬢すらもこいつの手足の末端にすぎなかったのでは……、とな。トカゲのしっぽ切りとはまさにこのことだ。なかなかしっぽが掴めず、苦労していたが……。リミュエル嬢のおかげで証言がとれた」


 唖然として、間抜けにも口を開けたままわなわな震えている私に向かって、王子は冷たい視線を投げかける。


「ふっ、貴様の熱視線には気づいていたとも。大方貴様も私の地位、外見…、そんなものに目がくらんだのだろう。

 だがしかし、万一のことがある。いざというときに自身が告発されぬように、自身の手を汚さないように。ココット嬢をそそのかし、エレンという我が最愛の人を押しのけさせたうえでココット嬢から私をかすめ取る算段だったのだろうが計算違いだったな。……まったくこざかしい女だ」


「はぁーー?!なんだこの自意識過剰野郎!きもい!!なんだよその迷推理は?!完全にこじつけだろうが!王子様の脳みそには一体なにが詰まってんだ?!ゼリーかなにかか?!ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ、勘違い野郎がぁ!

 つか、てめぇの優秀な情報部隊はどうしたんだよ!!肝心なところでポンコツかよ!」


 苛立ちがピークに達し、片頭痛で痛む頭を押さえながらぎろりと王子を睨みつけ、さながらヤクザのような勢いで言い募る。

 あ…っと、いけない。淑女がこんな口調では…。と、言い切った後でふと我に返ったものの時すでに遅し。


 私の啖呵を聞いて完全に静寂に包まれる会場。王子の顔が汚いものを見るかのようにぐしゃりとゆがんだ。ちなみにお隣のエレン嬢はただただびっくりしすぎて固まってぱちぱち瞬きを繰り返している。


「……これが本当に公爵家の娘の吐く言葉か?低劣にもほどがある。こんな娘を輩出する公爵家など我が国において何の価値もないな。ありがとう、これで心置きなくモルガン公爵家を潰しにかかれる。

 貴様もココット嬢と同じ修道院に送ってやろうじゃないか。せいぜい同じ穴のムジナ同士慎ましく達者で暮らせよ。

 ……衛兵、この者をひっとらえよ!」


 う、確かに言葉遣いの件は言い逃れできない。

だけど!こんな言いがかりでこの先の人生お先真っ暗にされて、おとなしくできるわけねぇだろ!


 ああ、でも、文字通り目の前が暗くなってきた。

 ちっ!どうやら今回も失敗したみたい…。次こそは、次こそは…!

 衛兵に急き立てられるようにせっつかれながら私の意識は沈んでいった。

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