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フリークの認識

2010年3月



彼女が心を壊してしまった。自殺未遂をして、やることがなく、毎日ぼーっと過ごす日々を繰り返している。そんな彼女に、彼はどうにかフリーク封印に力を貸してもらえることを約束した。


ただいま深夜2時。天候はくもり。昨日と一昨日の温度湿度紫外線、風向き。中ボスフリークが現れる条件は揃っている。


「昨日の復習。俺が今使う魔術は、中ボスフリークを無理矢理引きずり出す物だ。使い魔が前触れもなくフリークになった事件からヒントに編み出された有難い魔術だ。いや、そんなことはどうでもいい。そもそも中ボスと雑魚は根本から違うと言われてる。雑魚フリークがどれだけ強くても、永遠に攻撃に耐えられるわけではないんだ。だけど中ボスは、間違ったやり方だと、それこそ永遠に戦うことになる。ごり押しは町とか国を滅ぼす規模でようやく通用するレベル。だから、俺の指示を聞いてほしい」


「うん」


彼は応えてくれたことに安心しつつも、魔法を発動させた。真夜中の住宅街で、静かに現れた。真っ白というより、どこか青白い大きな狼が屋根の上に居たのだ。


「今回はキツネか。中ボスのなかでも厄介な奴だ。因みに奴は生物じゃない。現象って言った方がいい。行動が命を感じさせない、眷属をうみだす、活動範囲が広くてもだいたい三キロくらいで大きな移動を行わない。これが中ボスの特徴。それと、今、周囲を囲んでる結界は特級魔術。俺は弱体化結界っていってる。これがないと中ボスはたちどころに雑魚フリークをうみ出し続ける。というか、この弱体化結界があって、初めて人が戦える環境ができあがると言ってもいい。自然発生でもされて、10分も放置してたら地獄と化す。というか中ボスは、人が対処できる最高難易度だからな」


そう説明しながら、青白い狼から目をそらすことなく彼は必死に魔術を編んでいた。勿論一つや二つ等ではない。おそらく五十くらいは溜め込んでいるのだろう。彼の説明は続く。


「キツネの対処の仕方だけど、とにかく時間が掛かる。二段階の封印が必要になるんだ。奴は一回封印したあと、内側から壊せないと理解すると、封印を外側から壊そうとしてくる。これが長い。完全に弱体化するまで、キツネを守らなくちゃいけなくなるんだ。完全にエネルギーを放出してもらって、ようやくちゃんとした封印ができるんだ。ちゃんとした封印も10分は掛かるけどな」


彼女の役割は、一回目の封印を成功させる為の隙を作るというものだ。キツネは素早く、かつ分裂する。本体を弱らして捕まえればいいのだが、弱らすにも本体と分裂体と区別するにも、強力な魔術が必要であるのだ。



彼らがそのフリークを完全封印するまで、50分程の時間がかかった。彼の手元には、白いハムスターのような物が入った水晶があった。随分小さくなったが、これが中ボスの核なのである。


2010年3月~4月


彼らは何体も中ボスフリークを封印していた。今日も一匹封印した帰りである。もう日は暮れていて、辺りは暗かった。そんな時、彼はある人を見つけた。


「あ。ヤタ君だ」


八幡という学生だ。彼の生前の友達で、リーダー的存在だった。彼女は心を壊す前、彼が随分尊敬している人ということもあり、話しかけた事があった。だが、性格が合わず、今では完全に苦手な人間に含まれている。


彼が嬉しそうに八幡を語る姿を見ては、彼女はその度に複雑な思いになっていた。格好いい顔なのかも知れないが、そんなのは関係が無いほどに彼女は八幡という人間が大嫌いなのだ。


そんな嫌いな八幡が、いきなり情けない声をあげていた。


「フリークだ」彼女が呟く。


「雑魚フリークだね。弱体化結界から漏れたんかな?」


大きいだけの愚鈍の存在。ファンタジーの挿し絵にある汚ないオーガみたいな奴だ。


「結界から漏れたなら、ある意味私たちのせいだよね。二体いるし。消してきたら?」


彼は、言われなくても、と言いたげに、すぐに駆け出した。


その時、彼女は見た。三体目のフリークに、大嫌いな八幡が壁に追い詰められていたのだ。


彼女は内心、どうでもいいと思った。しかし、何故彼女はこんなフリーク退治みたいなことをしているのか。それは、彼の願いである。失ってしまった人達を失うことなく、それでいて幸せであってほしい。


今、八幡が死んだなら、本末転倒なのだ。彼には未練を晴らしてほしい。そう思えば、彼女の行動は早かった。


彼女は魔術で一瞬で駆け寄り、攻撃されかけている八幡を押し退けたのだ。まさに間一髪といったところである。


「ごめんなさい、突き飛ばしてしまって。怪我は無いですか?」


彼女は八幡に言う。声をかけている時には、既に彼がフリークを消していた。


しかし八幡という男子学生は、彼女に言葉を返さずにいた。無礼な奴である。


そんな二人に駆け寄る彼。彼女は八幡から彼に目を移して言う。


「右腕、二の腕から先が無くなっちゃった。凄く痛い。明日から学校だけど、どうにかなる?」


それから、彼らは八幡と話すことなく家に帰ったのだ。


因みに彼は、八幡という男に随分失望してしまったようだった。


「世界がやっぱり違うのよ。さっきの八幡さんみたいに『ふああおおお』って声あげながら腰を抜かすのが、この世界の普通なんだって。多分」


「お前、次はねえぞ」


「ただの事実なのに」



2010年5月~6月


魔物の目撃情報、被害が増大している。そういった話が上がった。それが原因で今年の体を動かす授業では、未だに遊びのような球技はなかった。代わりに、エアガン魔法道具剣などの武器の扱いや魔術の講習ばかりになったのだ。


どうやらフリークは多く出現しているようで、学生でも相手をしている者も居た。


彼女は心を壊してしまって以来、何にたいしても自信を喪失していた。そんな中、あるチャンスが舞い込んだ。


学年一つが講習を受けるなか、本物の魔物と戦うつもりでいるのだ。彼女は初めて封印した魔物を、お守りであるかのように持ち歩いていた。何せ、手におさまる小さい水晶なのだ。


先生は、封印を解けばいつでもすぐに復活する事を知っていた。そこで、その封印された魔物を使わせてほしいと言ってきたのだ。


彼女はそれについて正直に答える。


この封印されている魔物はDランクで、本来ならば手に終えずに友達の手を借りた、と。


先生はなんとも躍起になっていた。国から正式に登録されたランクDの魔物。弱い魔物をわざわざ封印している奴は少なく、これ以上に無いのだ。それに魔物の専門家、優れた有名な護衛、テレビ局、がこの学校に来るのだ。とても大きな話題となるものだった。


彼女は、自分も戦うことで、周りから認めてもらえるのでは無いかと思えて同意した。


彼女の他に、先生が選んだ男子学生が一緒に戦ってくれることになった。


彼は、せっかく封印したのを解くことが不満に思っているようだったが、護衛がいるならば、と同意した。




その日になったが、小さな被害で済んだ。校舎が壊れたのと、遠い山の一部が消えたくらいだ。護衛は役に立たずむしろ足を引っ張り、彼女は足を失うし、テレビでは大袈裟に報道された。

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