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彼女のクラスでの立ち位置

2009年4月~5月




「長田さん一緒に次の教室行きましょ!」


「長田さん、視聴覚室ってどこの階だっけ?」


「この授業って何が必要になるんだろ? 長田さん、わかる?」


彼女は入学してから、多くの人に声をよくかけてもらえた。彼女にとっては不思議でならない。そんな疑問に彼はこう答えた。


「お前がしっかりものに見えたからだよ。皆も慣れない学校で不安なんだ。優秀な奴に皆はついてきたがるもんさ」


「優秀? 誰の事を言ってんの?」


「お前だよ。あと、優秀じゃない。優秀に見えたから」


「どっちもおんなじじゃん。で、どういう事?」


「だってほら。お前、行動に迷いがないし、行動が的確じゃん。振る舞いが人を引き付けてんだよ」


そんな風には思えなかったが、これ以上の答えが返ってくるとは思えず、話を終わるのだった。


しかし、彼女は学校でも、バイト先でも、他の人と比べて頭一つ抜けていた。




2009年6月



授業の中に、自衛手段の講習というものがあった。どういう授業なのか彼女はわからない。


「中学校における、男子の柔道や剣道の授業とおんなじ。すたれゆく風習みたいな? ほら、発達した魔力で人を傷付けるニュース、たまーにあるだろ。魔力による事件や事故や犯罪や、全部が異質じゃないか。この授業では、魔力をもって暴れる気狂いに遭遇した場合、どう行動すればいいのでしょう、って授業。男子が女子の目の前だからって、途端に張り切り出す授業だ」


適当にしとけば問題無いよ、と彼は言ったのだ。なんと面白味の無い反応だ。


「そういえば、あなたの存在も、魔力における異能のによるものよね」


「そうだな。というか、俺がいるということは、お前は既に魔力門を開いてんだな。俺が魔力門こじ開けたのは夏休みくらいだ」


魔力門、もしくは魔力紋は、魔法における力の開き口である。これを開けないことには魔術は使えないのだ。つまりは異能もほとんど発動しない。


「いや、開けたこと無いし、検査で引っ掛かった事もないですけど」


彼はそれを聞いた瞬間、特訓だ、と言った。彼は、彼女にどういった分野でも優れていてほしいらしい。とんだ迷惑だ。しかし、彼からの言葉ということもあり、渋々特訓するのである。


魔術というのは、誰しも憧れる訳ではない。バック転や逆立ち、玉乗りや実銃による射撃訓練、とにかくなんでもいい。見ている分には少なからずカッコイイと思えても、絶対になりたいと誰もが思うわけではないように、不要と考える者だっているのだ。


彼女は何故彼が魔法にもこだわるのかわからなかった。


自衛手段の講習の何回目かの授業だ。どうやら今回は、実際に人と戦うらしい。


そんな授業の最中、女の子の声援を受けてる男子生徒がいる。そんな男子生徒を見て、彼が驚きのような声をあげた。


「うおおお! ザキザキ君だ。一組だったのか!」


彼の生前の友達みたいであった。彼女は彼には何も返さない。なのに、彼はひたすらザキザキ君についてしゃべる。


「ザキザキ君は、中学生のころ、魔術も使用可能な武術大会に全国で準優勝した経験があるんだ。確か父親はフリーク対策の偉い人だったはず。エリートの存在だ」


彼は随分仲が良かったのか、自分の事のようにザキザキ君とやらの栄光を話していた。


彼の話を適当に聞いていたのだが、有ることに気が付いた。


「あれ。もしかしたら。うん。ザキザキ君と一番最初に手合わせすることになるのか。いいないいな」


どういう事か、自衛手段の講習の先生は「おい笹崎。魔術になれてるし、ちょっと試しに闘ってくれ。相手はむしろ弱い、魔術に慣れてない奴がいいかな。魔術無しと有りの差を知ってもらうのと、手加減もしやすそうだし。んーと今日は18日。出席番号18の長田! いるか?」と言っているのだ。


気付けばグラウンドに彼女とザキザキは立たされていた。


「構え」と先生の声が響く。


「何これ、誰か変わって」と周りに聞こえないようにぼやく彼女に、彼が言った。


「マジで? いいの?」


笹崎とやらの声ではない。彼の声だ。



少し、頭が言うことを聞かなくなり、ぼんやりした。遠くでさっきから誰かが叫んでいる。




「ひひひひ!」


気付けば誰かの笑い声が聞こえた。頭のおかしい奴の笑い声。


「やめろ! 殺し合いをしてるんじゃないぞ!」


制止が入って、ようやく笑い声が自分のものだと彼女は理解した。


「ひひひ......。え?」


途端に、痛みが彼女を襲った。


「ああああ! 痛い! 痛い! 何これ! 何で! どうして!」


目の前に立っている、彼女にしか見えない彼が言った。


「悪い。やり過ぎちった」


彼女は痛みで意識を失った。


意識を失って気が付けば、そこは保健室である。消毒液の臭いがした。


「で、どういう事?」


開口一番。勿論彼女の台詞である。隣で立つ彼に説明を求めているのだ。


「本当に申し訳ありません。俺があなたの体を乗っとり、勝手に無茶な行動を行い、怪我をおいました。大変申し訳ありませんでした」と彼は正直に答えた。


今日はそれで一日が終わったのであった。因みに、結構大事な扱いになったみたいで、笹崎家の親が怒鳴りこむわ、先生は処罰されるわで、大騒動だった。


余談だが、彼女は次の日には何事もなかったかのように、何一つ怪我も残さず登校する一方、笹崎は一週間の入院となる。勿論彼女は詫びるために毎日訪れたのだったが、本当に自分の体が負わせた傷かと疑う程ひどい有り様だった。



それ以来、彼女に手合わせを挑もうとする学生はいないのであった。



戦闘について詳しく説明すると、彼女の肉体を乗っ取った彼が本気で笹崎君と殴り合い、ぶちギレた笹崎が武器召還して迎え撃った。しかしそれでも彼女を乗っ取った彼には敵わず、笹崎は二級魔術を使用する。先生もあまりのひどさに制止もできず、制止ができたのは笹崎が立ち上がれなくなるまで素手でボコボコにした後だった。


あまりの怪我で笹崎の家の者も黙ってはいなかったが、勿論彼もやられるだけではなく火の魔術やら斬撃の魔術で彼女もボロボロだった。しかも映像記録があったのだが、彼女は最後くらいに空を飛ぶ魔術を使っているだけで、先生の制止を聞かなかったのはむしろ笹崎の方であり、さらに笹崎においては禁止されてる二級攻撃魔術や武器などを使用しており、下手すりゃ殺人罪等にも持っていける状態だった。


因みに彼女の傷は、彼が魔術で一日で治した。それもあって、訴訟もなにもなく、お互い様ということで話がついたのだ。

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