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受験生、異世界で英雄となる  作者: 漆原 ともみ
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青い空


どこまでも続く青い空。巧は身体を起こす。風に芝がなびいている。風が髪をとかすようにすり抜けてゆく。


「あなたは、誰?」


気が付くと、明るく艶のある金かベージュの長い髪をなびかせながら女性は立っていた。服装は質素な白のワンピース。顔は日本人のようではないが、とても整っていると巧は思った。肌は白く輝くようだ。

そして、なによりも目を引くのはその耳だろう。それは人間のものよりも切れ長であった。巧の脳裏には、ある種族の名が思い浮かばれる。それは『エルフ』であった。ファンタジーの定番である。

彼女の突然の登場に腰を抜かしそうになると同時に胸が踊るのもわかる。異変が起きてから始めて生徒たち以外の人に出会ったのである。


「君は…?」


「私?私は、アリエルよ」


この子は俺が怖くないのだろうか?と巧は不思議に思う。巧はアリエルに少なからず警戒心を覚えていたからだ。


「俺は…巧。梅木巧」


「タクミ…。タクミって言うのね?」


巧が頷く。


「ここは…どこなんだい?」


「それは、私にもわからないわ」


アリエルが続ける。


「こんな場所は初めて見たわ。綺麗なところね」


「そう…だね」


周りの景色を見渡す。どこまでも続く平原。青い空はどこまでも高そうだ。そんな空間に2人だけ、ということに巧は不安感を覚える。何かが起こるのだろうか?と心配しているからだ。その、何かというのは主に凶暴な猛獣などが現れたりしないか、などという命に関わることだ。


「私、他の男の人なんて初めて見たわ」


「え?」


「私は、森の中でお父さんとお母さんと3人で暮らしているの。そこ以外には行ったことがないの」


アリエルは少し淋しそうに言う。


「そうだったんだ…」


巧はそれ意外にかける言葉が見つからなかった。


「タクミは?」


アリエルの問いかけに巧は言葉が詰まった。なんと言えばいいのかわからなかったからだ。巧はひとまず、現在の状況だけを言う。


「俺も、森の中にいるんだ」


「あら?同じなのね」


アリエルは少し嬉しそうに笑った。その笑顔には華がある。汚れのない無邪気な笑顔だった。


「うん。訳あってね…」


「訳?」


アリエルは不思議そうに首を傾げた。

巧は、しまった、と思う。つい口を滑らせてしまった。アリエルの笑顔を見て、もっと話したいと思ってしまったのだ。


「なんて言うのかな…。命が、危ないかもしれないんだ」


「命?」


「そう、俺たちの命がね」


「魔獣でも出たのかしら?」


アリエルの言葉は巧に言いようのない恐怖を与えた。


「魔獣…」


それは、巧が恐れていたことだ。森の中には狼などの肉食動物がいるかもしれないと思ってはいた。だが、どこかでそれを信じようとしない自分もいたのだ。その危険性に気が付いたのが森に入ってからだったためだ。暗いので闇雲に動けない。なので、どうすることも出来ず、危険ではない可能性にすがりたかったのかもしれない。


「魔獣ではないんだ。人が人を殺すんだ」


巧の脳裏には、先生の死体が思い浮かんだ。


「人?」


アリエルが尋ねる。


「ああ。人間が人間を殺していたんだ」


アリエルから、予想だにしていない言葉が飛び出す。


「あなた、人間なの?」


「え?うん。そうだよ」


「私は、エルフというらしいわ」


「エルフ。やっぱりか」


「タクミは、私を捕まえに来たの?」


「え?」


巧はなにを言われたのか理解できなかった。

アリエルは、少し悲しそうに言った。


「捕まえるの?」


「え?いやいやいや!捕まえたりしないよ」


巧は首を大きく横に振る。


「でも、人間はエルフのことを捕まえるって、お父さんが言っていたわ」


…この世界ではエルフは奴隷などとして有名なのだろうか?他のエルフは知らないけど、彼女は顔も整っているし。


「他の人はどうだか知らないけど、俺はそんなことしないよ」


「本当?」


アリエルは不安そうに聞く。というのも、アリエルは巧からとてつもない力を感じたからだ。


「ああ。そんなことはしない」


信用されていないのかな、と巧は思い悩む。


「わかったわ。タクミは嘘をついていないし」


「なんで、わかるの?」


「エルフの能力よ」


アリエルはどこか誇らしげに言った。


「心が読めるの?」


「そんなことは出来ないわ。嘘がわかるのよ」


「それはすごい…」


巧は素直にそう思った。本当なら、人に騙されないな、と思ったからである。


「お父さんが、嘘をついているとその人から黒くモヤモヤとしたものを感じるって言ってたの」


アリエルがそう言う刹那、空間がねじれるように、目の前の風景がゆがむ。


「え?」


「タクミ!?」


「アリエル…」


次の瞬間、木々の隙間からこぼれる朝日に、巧は目を細めた。












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