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フェチ×フェチ  作者: 兼平
第1章 僕ともこもこ
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「あー。それじゃ、本題に入りましょうかねー。あー、そこに隠れているのは分かっている。無駄な抵抗はやめてでてきなさーい。悪いようにはしないからねー出てこいってー」


・・・


「あれ、なーんで出てこないのかなーあれかな、踊りがたりないのかなー岩戸を開けるには踊りが必要だったねーよーし、得意のカバディを踊っちゃうよーそれ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ・・・・」


やたら発音のいいカバディという声がエンドレスで続いている。


というか、カバディは踊りでもない。


よくわからないが、関わってはいけない類のものだと思い、そのまま無視して路地を進もうとした。


「カバディでもダメかー・・・残念だなー、とても残念だよー無視なんてひどいなー」


山田(・・) 太一(・・)君」


僕は最後に聞いた一言で、背筋にぞくっとしたものを感じた。


僕の名前を知っている?

どういうことだ?


こんな声で喋る知り合いなんて僕にはいない。

その疑問が先に進もうとする僕の足を引きとめた。


「山田太一君、17歳。高校二年生。アパートに母親と妹と3人暮らし。父親は幼い頃に事故で他界。学校での成績は中の上。特に素行で目立つようなものも無い。部活動には入っておらず、帰宅部」


僕の個人情報が漏れている。

こいつ一体何ものなんだ。


「そして、ここ一週間、遅刻が増えている。ほぼ毎日の遅刻。原因は自分にしか見えない未知の生物によるもの。さらに、昨日はビルの工事現場から落ちてくる鉄骨に危うく下敷きにされそうになった。こんなところかなー?」


監視されている。

ずっと監視されていたのだ、僕の行動を。


「そうだなー君、さっきから逃げているし、このまま逃げちゃおーとか思ったりしてるでしょー逃げても、むーだだよーそれよりさー教えてあげてもいいーんだけどねー」


そしてその声は、こう続ける。


「この世界の秘密を」


「知りたくないかなー知りたいよねーそれに、そっちの女の子だって知りたいでしょー?なんで自分がここにいるのかー?とか。気になるよねー」


僕はその言葉にハッとする。

知りたくないのか、この世界の秘密を、と声の主は言っている。


そして、もこ美が出現した理由も。


僕は一瞬迷う。


知りたくない訳があるはずがない。


いきなりこんな意味のわからない状況に巻き込まれ、そして、いきなり謎のもこもこが僕の目の前に現れた理由を教えてくれるというのなら、それは聞きたいに決まっている。


だが、落ち着け。


さっきいきなり襲ってきたじゃないか。


今だって僕達が曲がってきた路地へと続く交差点にはレーザーが一定の間隔で浴びせられている。


この話が僕達をおびき出す罠だっていうことは当然考えられる。

僕はもこ美の顔をうかがう。

すると彼女も同様な考えをしているようだった。


「とりあえずさー顔だけでもだしてくれないかなー聞いてるか聞いてないかわからない相手に話すのってさー結構辛いもんなんだよねーなーんにもしないからさー」

声の主は続ける。


その声に対して僕は、

「何もしないって、そんな保証どこにあるんだよ!!」

と声を張る。


「あ!やっぱりまだいたんだねーよかった、よかったー何もしない証明だってー?そりゃむずかしーい話だねー無いことを証明するのってさー、ものすごーく難しいんだよねーどうしよっかなー?」


「そうだーとりあえず、レーザーを止めるよーでさー、もし何か怪しい気配がしたらさーいつでも路地に逃げればいいよーそれならいいでしょー?」


そう言うと、それまで降り注いでいたレーザーがピタッと止まった。


「これでどうかなー?」


そんな声を聞きながら、僕は考える。

確かにレーザーは止まった。だからと言って、何もしない保証なんてどこにもない。


しかし、今この世界についての疑問を解決できる手段が無いのも事実。


僕は再びもこ美の顔を見る。

彼女はこちらを向き、真剣な眼差しで話す。


「私は、私は知りたい。なぜここに私がいるのか。どうして、あなたにしか私が見えないのか。これは私の存在に関わる話だから」


そういうと唇をかみ締め、俯く。


彼女は知りたがっている。だが、恐らく僕と同様に声の主を疑っている。

そのためにどうすればよいのか悩んでいるのだ。


よし、僕は心の中で呟くと、

「本当に何もしないな?何かおかしな素振りをしたら、すぐに僕達は逃げる。わざわざ僕達を引き止めているということは、僕達に用事があるんだろう?逃げたらその目的を叶えるのは難しくなる、少なくとも手間はかかるはずだ。それでもいいのか」

そう叫ぶ。


「だから何もしないって、言ってるじゃないかー大丈夫、だいじょーぶ。とりあえずでてきなさーい」


相変わらず飄々とした調子で響く声。


僕はもこ美を見つめ頷くと、視線で商店街の大通り、つまり声の主の方向を視線で促す。


もこ美は、こくんと頷くと僕の後についてくるのだった。


路地から大通りを細心の注意を払い覗き込む。

一瞬でも違和感があれば、路地に戻れるように重心を後ろに残しておく。

とりあえず、大丈夫そうだった。


覗き込んだ先には、さきほどまで僕達にレーザーの雨を降らしていた眼鏡美人と、もう一人スーツを着た若い男の姿が見えた。


その男が右手に拡声器を持ちぶらぶらさせているのを見ると、さきほどまでの声の主はどうやらこの男のものだということが分かる。


僕ともこ美が大通りから出てくると、スーツ姿の男は拡声器を口元にあて、

「いいねーいいねー子供は素直がいちばんだよー」と言う。


「あんた誰なんだよ。なんで僕のことを知ってるんだよ?」


僕はさっき並べられた個人情報の数々について言及する。


すると、パチンっと指を鳴らすスーツ男。


その隣では眼鏡美人がどこから取り出したのか白い布地を手に持ち、スーツ男へと近づいてく。


そして、バッとその布地を広げると、スーツ男の背中からかけるのだった。


そう、それは白衣。


その白衣の袖に腕を通すと男はこう言った。


「こうすればわかるかなー?山田太一君?僕はね君をずっと観察させてもらっていたんだよー」


なっ、僕は顔が引きつる。


こいつ、まさか昨日の工事現場で僕が見た。


「ま、まさか昨日の・・・」


「お、その顔はこいつ見たことあるって顔だねー君の推理どおりだよワトソンくーん。頭のいい子はきらいじゃないよーそうだよ、昨日の工事現場の鉄骨落下はねー僕のしわざだったりするんだねー」


あっさりと自白する白衣男。


「なんであんなことしたんだよ。それに今だって、いきなり襲ってきたりして」

僕は白衣男の隣に立つ眼鏡美人に視線を動かし言う。


眼鏡美人はさきほどから一言も喋らず、じっとこちらを見つめるだけだ。


「なんて言えばいいのかなー実験?そんな感じかなー」


「実験?」


何を言っているんだろうか?


昨日も今日も、その実験とやらで危うく僕は死にかけているんだぞ。


冗談じゃない、こんなイカレ野郎には付き合っていられない。


僕はさっさとこの場を切り上げようと思い、本題に入る。

「ところで、言われたとおりこうしてあんたの前まで出てきたぞ。だから教えてくれるんだろうな、この世界のことと、あと、もこ美のことを」


「あーさっきの話ねーいやー確かにねー知りたくないかーい?とは言ったけどー教えるーとは言ってないんだよねー」


こいつなんて屁理屈を言いやがるんだ。


確かに日本語として間違っちゃいないが、あの流れなら教えてくれるとおもうだろう?


「ふざけんな!教えてくれると思ったからこうして出てきたんだぞ!」


僕は怒りをこめて言う。


「おおー怖い、こわいねー何も教えない、とは言ってないでしょーがー教えてもいいーんだけどねー」


「ただ、ちょっと一つ条件をつけさせて欲しくてねー」


「条件?その条件ってなんだ?」


僕はスーツ男に質問する。


「そうだねー僕たちと戦って“まいった”と言わせること。これが条件だよー」


なんだそれ?


なんで僕が見ず知らずの人間と戦わなくちゃいけないんだって言うんだ。


僕は白衣男の言っていることが飲み込めず、

「なんでだよ?」

と聞いていた。


「え、なんでかって?なんでだろうねー?まあ、君たちにはそうする以外の選択ないんだけどねー」


いや、そんなことはないはずだ。


たしかに情報は得られないかもしれないが、戦わないって選択もできるだろう。


このまま逃げてしまえばいい。


そんな僕の思考を見越してか、

「あ、とりえず逃げても無駄だからねーもう気づいているかもしれないけど、ここは君がいつも暮らしていた世界とは別の世界というと分かりやすいかなー違う世界なんだよねーそして、君たちが元の世界に戻るにはね、私を倒さないといけないんだねーだから、君たちはにげれないーんだよー、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だーってねーカッカッカ」

と先手を打たれてしまう。


この世界から抜け出る方法、それはこの白衣男を倒す他ないとのことだ。

僕は考える。が、考えても仕方がない。


方法が一つで、それをやらなければいけないのであれば、やるしかないのだ。

僕は腹を決める。


「やれるか?もこ美?」


「私を誰と思っているのかしら?」


それだけで通じる。


「分かったよ。あんたの言うとおりにしよう。僕はあんたに“まいった”と言わせる。そうしたら、この世界のこと、もこ美のこと、詳しく教えてもらうからな」


「そうそう、それでいーんだよーそれじゃあ、お手並み拝見とさせていただきましょー」


その声にあわせ、僕は今までの人生で一度も構えたことがなかったファイティングポーズというものを構えてみるのだった。

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