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フェチ×フェチ  作者: 兼平
第1章 僕ともこもこ
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迫り来る驚異

そんな他愛もないやり取りをしている時だった。


彼女は突然サッと身体を捻ると、周囲を探る。


そのいきなりの変容に僕は何事かと身構え、同じように周りの景色をぐるぐると見回してみる。


が、特に変わったところは無いように見える。


普段どおりの商店街の景色。


何も異様なものは見えないし、何か異音が聞こえてくるわけでもない。


だが、神経をとがらせ、いまだ警戒をとかないもこ美。


「どうしたって言うんだ?突然」


「何かおかしいわ・・・」


「そうか、別に何かおかしいものなんて特に見えないけど・・・」


僕は再度あたりの様子を伺うが、やはりこれと言って何かおかしいものは見当たらない。


そして、再度もこ美にそのことを伝えようとした時だった。


「あ・・・」


と思わず声を漏らしてしまう。


僕も気づいてしまったのである。


その圧倒的な違和感に。


そうだ、これは明らかに異常だ、異常な状況だ。


何もおかしなものが見えない、おかしな音が聞こえない。


それは確かに正しかった。


だが、それこそが問題だった。


なぜなら、さっきまで僕らの周りで見えていた人々の姿が、飛び交う会話が、全く聞こえなくなっていたのだから・・・


おかしなものが見えることが異常なら、見えなければいけないものが見えないのもまた異常だと言えるはずだから。


無人の商店街のアーケード、そこに二人で突っ立っている僕ともこ美。


一体何が起きたというのだろうか?


何がなんだか分からずに、混乱している僕と、その隣で相変わらず警戒して身構えているもこ美。


「何だよこれ?一体何がどうなっているって言うんだ・・・人が、消えた?」


「そうね。さっきまでいた人々が消えているわ。いなくなったとか、そういう感じではないようね。何といえば言いのかしらね。ただ、消えた、という表現がしっくりくるような光景ね」


もこ美は僕の質問にそう答えながらも、左右のみならず上方にも注意を走らせている。


「もこ美はなぜこんなことになったのか分かるのか?」


「私?私だってわからないわ。ただ、注意して、危険が迫っているのかもしれない。凄く嫌な予感がするもの」


「そうは言っても・・・」


僕が次の言葉をつなごうとした瞬間。


バッともこ美が僕に飛びついてくる。


一瞬何事かと思い、頭の中が真っ白になる。


そして、その時にはもう僕は体の重心の位置を崩し、アスファルトの道路へと転がっているのだった。


「痛っ!って、いきなり何するんだよ!」


僕はもこ美にたいして、息を荒げて抗議する。


こいつ一体何考えているんだ。


思考の混乱に痛みが加わり正常な判断なんてできやしない。


しかし、そんな中でも僕はもこ美に抱きかかえられている中で触れている、彼女の両腕のもこもこもこをしっかりと堪能していた。


やっぱり、気持ちいいー


はふー、っとなった。


しかし、それも、


「早く立ちなさい!走るわよ!」


と素早くもこ美が立ち上がったため、一瞬のものとなってしまった。


残念、残念と心の中で呟きながらも、僕はもこ美が指示するように立ち上がりはした。


だが、走ることはできなかった。


なぜなら、目の前に飛び込んできた状況に唖然としてしまったから。


そう、さっきまで僕達がいた場所、つまりおもちゃ屋の前の道路においてあった立て看板。


その立て看板の上半分が砕け、炎上しているのだった。


煙を上げて炎上する立て看板に意識を持っていかれ、僕はぼーっと立ち尽くしていた。


が、「このバカ、早く走りなさい!」ともこ美に手を引かれたため、停止した思考は引き戻され、引きずられるように僕はその場から駆け出す。


と、駆け出す僕はその時、遠くで何かがチカッと光ったのが見えた気がした。


その輝きが見えたかと思った次の瞬間、僕達がさきほどまで倒れていた場所へとその光源から一筋の光が伸びていく。


僕はすっと伸びるその光を走りながら見ていた。


そして、その光の筋が地面に触れたかと思うと、ジュッとアスファルトが焦げ付く音が聞こえ、地面には黒い跡が残る。


何だかよく分からないが、とりあえずあれに触れてはいけないことだけは、混乱している僕の頭でも直感的に理解することはできた。


一体あの光はなんなのだろうか?


咄嗟にあたまに浮かんだのは、アニメや漫画で出てくる、レーザー光線。

そんなイメージだった。


そして、これが重要なのだが、さっきのおもちゃ屋の前の立て看板、そして今僕が見ていた光景。


それらを総合してみると、考えるまでもなく分かる。


どうやらそのレーザーはどうも僕ともこ美を狙っているようなのだった。


僕は地面の焼け焦げた跡から再びレーザーが放たれた方向を見る。


するとそこには誰もいない商店街にもかかわらず一人の女性が立っているのだった。

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