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フェチ×フェチ  作者: 兼平
第1章 僕ともこもこ
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一緒に

僕ともこ美は二人で学校に向かっていた。


やはり、というか、予想通りというか、もこ美は僕以外の人には見えないらしく、異常なもこもこ少女が家の中を徘徊しているにも関わらず、妹はいつもと変わらず朝食を食べていた。


もこ美が人型になったことも、危ないと言われていることも、いまいち僕にはぴんときていなかった。


既に謎のもこもこと遭遇して一週間。


不思議体験に頭が多少慣れてしまっているのかもしれない。


あまり良い傾向ではないと感じる。


そんな考えもあってか、僕は危険だと言われたが、何が危険なのか分からない以上とりあえずは普段どおりの生活をするという選択をとることにした。


対処方法はいつもより周りに意識を集中させることくらいしか考えていなけど。


まあ、いざとなったら昨日みたいにもこ美が教えてくれるだろうと、楽観的に考えることにした。


学校に通う道すがら、他人からみたら普通に歩いている高校生男子が一人。

どこにでもある光景に見えているはずだ。


しかし、僕にしか見えないのだが、横の隣にはてくてくと歩く、もこ美がいる。


つまり、通学途中の僕の隣には半裸の女の子が歩いているということになる。


そんなシチュエーションに、よくエッチな漫画である、一日パンツをはかないで登校させるプレイなんていうのを想像したりして、一人どきどきとしたりしていた。


ただし、

「あなた、何を考えているの?汚物みたいな表情をしているわよ?」

と心をえぐるような忠告をしっかりとされたのだけれど。


ただ登校中、特段危ないようなこともなく、授業開始前にはしっかりと学校につくことができ、先生から白い眼で見られることもなく、ちょっとほっとしたりした。


教室に入ると、昨日一緒に帰ったアゲハがこちらに気づき、軽く手を振り、

「太一、おはよ!」

と、朝から気持ちいい挨拶をしてくれる。


「ああ、おはよ」


僕もつられて挨拶を返す。


「おっ、今日はしっかりと時間通りに学校来たね。感心、感心~」


そういって親指を立てるアゲハ。


「まあな」


僕は返事をしながら自分の席へと向かう。


席に座って、カバンを机の上に置く。と、もこ美の姿が見えなかったため、一瞬あせった。


もこもこ形態の時はいつも足下にいたのだが、どこに行ったのだろうか?


さらにあたりをキョロキョロと見回すと、教室後ろのロッカーの上にそれらしき姿を見つけることができた。


僕の教室の後ろには腰より少し高いくらいのロッカーが並んでいる。


そのロッカーの上にちょこんと腰をかけているもこ美の姿があったのだ。


どうやら人型のときはその場所が落ち着くらしい。


視線を机の上のカバンに戻し、荷物を机の中に入れていると、朝のホームルーム開始を告げるチャイムの音が鳴るのだった。


その日の学校はというと、取り立てて特別なことがあるわけではなかった。


昨日と同じように、普通に授業を受け、アゲハの不思議な虫トークを聞き、お昼を食べて、午後はまた普通に授業を受けた。


そして、気づけば学校の終わりを告げるキーンコーンという音が響いているのだった。


僕は散々朝に言われていた“危ない”という言葉を思い出しながら、あまりにもいつも通りの日常に若干拍子抜けしてしまっていた。


まあ、何もないのにこしたことは無いわけで、決して悪いことではない。


僕は机の中から教科書を取り出すとカバンの中に詰め込んでいく。


そうして帰り支度を整えると、カバンを肩にかけ教室を後にすることにした。


後ろを振り返ると、ロッカーの上でうつらうつらしていたもこ美がピクッと動き、目を開けるとすっとロッカーから飛び降りて、僕の後をついてくるのだった。


玄関へと向かい、外履きに履き替えるため、靴箱を覗きに行く。


もしかしたら、アゲハがいるかも、なんて考えたが、靴箱にはアゲハの姿は無く、そのまま僕は一人で帰ることにする。


正確には二人?なんだけど。


学校を背にして、校門を抜ける僕ともこ美。


周りに人がいないことを確かめてから僕はもこ美に話しかける。


「結局何も無かったな」


「そうね。特に危険な気配も感じなかったわ」


もこ美は答える。


「だからと言って危険が去ったわけではないのよ。まだまだ気を引き締めておきなさい」


「分かったよ」


僕は答えると、帰り道をてくてくと歩いていく。

下校途中の通学路で通る商店街のアーケードは今日も夕食の準備で買い物に来ている、子供連れの母親、スーパーのビニール袋を両手につっているお婆さんやらで賑わっていた。


そして、通り過ぎる店々からは、食欲をそそるなんともいえない匂いが漂ってくるのだった。


そんな匂いにつられて、僕のお腹はグーッと音を立てる。


腹減ったなー今日の夕食は何かな?なんて考えていると、僕の後ろからぺたぺたと聞こえていた足音が、いつの間にやら消えていることに、ふと気づく。


不振に思い後ろを振り返ると、もこ美の姿が無い。


またか、と思いながらも、僕は左右に頭を振りながら、もこ美を探す。


と、さっき通り過ぎてきた、一軒の店の前でもこ美が立ち止まっているのが見えた。


何かをじっくりと見つめているようである。


その視線の先には、おもちゃ屋があるのだった。


そして、そのおもちゃ屋のショーウィンドウの中に大きなピカチューのぬいぐるみがあるのが遠目からでも見える。


きっと売れ残ってずっと置いてあるものなのだろう。


僕は歩いて近づいていった。


しかし、あまりに夢中で見ているせいか、もこ美は僕が近づいていることにまったく気がついていないようだ。


僕は、横から、

「それ、気に入ったの?」

と声を掛ける。


すると、突然声を掛けられ驚いたもこ美はびくっと肩を震わし、

「えっ!な、なんのこと?」

と裏返った声で返事を返す。


「だから、そのぬいぐるみ。見てたんじゃないの?」


「な、こんな黄色いの。何で私が見なければいけないのかしら。勘違いしないで欲しいわ」


「いや、勘違いというか。ずっとそこで何か見てたからさ。何をみていたのか気になっただけだよ。それじゃあ一体何を熱心に見てたんだい?」


僕はさらに聞いてみる。


「えーと、あれよ、あれ、あれ」


もこ美が指を指した方向には、日本刀のレプリカやら、手裏剣やらが並べられている棚が見える。


「今後のことを考えてね。もしかしたら、太一を守るときに役立つかと思って色々と見ながら、作戦を練っていたのよ。もしかしたら、いきなり一の太刀を浴びせられる状況、なんていうのに巻き込まれる可能性も十分に考えられるもの。ああ、頼りない男を守るのは全くもって大変だわ。ほっほっほ」


と明らかに浮ついた声でよく分からない言い訳をしながら不自然な笑い声を上げているもこ美。


「そうですか。もこ美がそう言うならそうなんだろうけど。でもさ、一の太刀をいきなり浴びせられる状況なんて、この現代にあるかは疑問だけどね」


「あ、あるわよ。一の太刀どころか、回転剣舞六連を見舞われる可能性だって棄てきれないわ」


「そうですか。それは大変だ。その時はもこ美さん、しっかりと守ってくださいね」


そんな状況、絶対にあいたくないけどね。


「あなた、その顔。絶対嘘だと思っているわね。嘘じゃないわ。本当よ。先日、飛天御剣流の正統後継者から聞いたのだもの。間違いないわ」


言い訳もここまでいくと逆に爽快だと感じてしまう。


「だから、嘘だなんて言っていないよ。二重の極みを小学生の頃からチャレンジしているけど成功していない僕としては、ぜひともその流浪人とご友人にお会いして詳しくお話を頂戴したいと思っているくらいだもの」


僕がそこまで言うと、彼女は頬を膨らませて

「ふんっ」と鼻を鳴らしてそっぽを向く。


これはこれでとても微笑ましい光景である。

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