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フェチ×フェチ  作者: 兼平
第1章 僕ともこもこ
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少女の名

まどろんだ意識の中、すっと目をあける。


そこには、窓枠に腰を降ろし、朝日を浴びている少女の姿があった。

時折吹く風がカーテンと共に、その少女の流れるような髪を揺らす。


一瞬、ここがどこか分からなかった。


間違いなく自分の部屋であるはずなのに、なぜかとても幻想的な光景に見えたから。


不思議な少女である。外見もそうだが、それ以上にやはり彼女の持つ雰囲気というような何かが僕の心の奥に訴えかけてくるのだった。


そんな風に色々と考えていると、その思考の源泉となっていた彼女が、


「あら、起きたのね」


と僕に声を掛けてくるのだった。


「ああ、なんだか生き返った気分がするよ」


と僕は素直に今の気持ちを伝えていた。


さっきは正直本当に死ぬかと思ったからね。


「それは僥倖ね」


彼女はこちらを向き、ふっと笑みをこぼしながら語りかけてくる。


「それではさっきまでの続きを話しましょうか?」


「ああ、そっか。結局よくわかんないことになったけど、話途中だったっけ」


「そう、僕に危険が迫っていて、危ないってこと」


僕はさきほど彼女から言われた言葉を思い出して言う。


「よく覚えていたじゃない。あなたのことだから、てっきり完璧に忘れているかと思ったわ。それはもう節足動物のごとくね」


あれ?


なんだか誉められているのか、けなされているのか分からないようなお言葉が出ましたね、こりゃ。


いや、少なくとも人を誉めるときに節足動物という単語は出てこないよな。

君、まるで節足動物のような足だね!


なんて、カモシカみたいな使い方をしても、絶対けなしているもんな。


ここ、怒っていいのかな、僕。


「失礼なことを言ってしまったかしら?訂正するわ。それはもう、ファミコン版ドラクエⅢのセーブデータのごとくね」


あー、生き物でさえなくなりましたね。というか、微妙な比喩を出してくるな。

憤りを通り越して、なんかどうでも良くなってくる。


「あなたは所詮、ルイーダの酒場でとりあえず気分のままに作った遊び人よ。私がプレーヤーでいる限り、あなたがアリアハンから出ることは一度も無いわ」


おいおい、せめてアリアハンからは出させてくれよ。ルーラでもなんでもいいから、ロマリアくらいは行かせてくれよ。


もう、スライムとおおがらすの日々はたくさんだ。


さまようよろいを一度でいいから見せてください。


僕は神の気まぐれで創造された哀れな遊び人の気持ちを痛いほど理解し、叫びそうになったのだった。


「そんな無駄話をしている場合ではなかったわ。さっきあなたが言ったように今あなたに迫っている危険を回避することが最優先事項。そのためには私も協力を惜しまないわ。感謝しなさい」


「わかった。まだよく飲み込めていないけど、とりあえず、あれだ、いのちだいじにってことね」


「まだドラクエトークを引っ張るのね・・・まあ、当面の理解はそれでいいわ」


「ところでさ、ちょっと聞きたいんだけど」


「何かしら?」


僕はそこでさっきから彼女と話して気になっていたことを告げる。


「君をさ、なんて呼べばいいのかと思って、今までは君が喋れなかったから、こっちで勝手にもこもこって呼んでいたんだけれど・・・やっぱりそれじゃなんかなーと思ってさ。なんていう名前なんだい?」


「私?そうね、最初に言ったかも知れないけれども、私はやはり私でしかないの。名前は無いのよ。まあ、あなたの好きに呼べばいいわ」


彼女はそっけなく話す。


「そうなんだ。だからってずっと“君”って呼ぶのも何だか落ち着かない感じがするし、そうだなー」


と僕は考えこみ、そして、

「だったら“もこ美”っていうのはどうかな?めっちゃ良くない?」


僕は自身、あまりのネーミングセンスの良さに惚れ惚れとしながら、自信満々の口調で彼女に伝える。


「ダサッ」


一蹴だった。


「好きに呼べば言いといったのはそっちじゃないか!それをダサッの一言って無くないか?」


「だって、ダサいものはダサいのだからしょうがないでしょう。他の呼び名を考えてちょうだい」


僕は最高傑作を否定されて、意気消沈していたが、代替案を提案していく。


「それじゃ、アイマイもこは?これはさ、曖昧模糊とI・・・」


「却下」


「MY、MEをかけて・・・って話途中なんですけど!」


「却下」


お気に召さなかった様子だった。


「だったら、モコルート」


「バカ」


「それなら、モコラッチ」


「死ね」


「じゃあ、モコ尻」


「死ね、そして死ね」


「・・・・・・・・」


あまりにひどい対応に僕の心は折れた。


「何とでも呼べばいいといったものの、あなたのネーミングセンスの酷さには恐れ入ったわ。ここまで酷いとは想像の範疇を大きく超えていたわ。ここまで私に言わせるなんて・・・規格外っていうのはこういうことを言うのね」


彼女ははあーっとため息を一つつくと、

「まあいいわ、一番最初のやつ。それでもまだマシだったから」と僕に伝える。


最初のヤツか、わかった。


「それじゃあ、あらためてよろしく。もこ美」


「こちらこそ、よろしく。太一」


僕らはここにきてようやくお互いの名前を呼び合い挨拶をしたのだった。

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