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フェチ×フェチ  作者: 兼平
第1章 僕ともこもこ
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嬉々として

「はいっと!そんでもってほいっと!」


授業も終わり高校から帰宅した夕方。

自室には軽快な僕の声が響く。

その前にはわなわなという音が聞こえてきそうなくらい拳をぎゅっと握り締めたもこ美の姿があった。


「うーん。やっぱりいいよね。もういっちょほい」

僕は嬉々とした掛け声をさらに続ける。


人生とはなんと楽しいものなのだろうか。

先日突然の襲撃やらなんやらで、死に掛けたり、大切な人を失う様な自体が嘘のようだ。

生きるって素晴らしい。


「ふん、ふんふふーん!ふんふん!ふん、ふんっ!ふん、ふんふんふん!ふんふんでぃふぇぇんす」

鼻歌が盛り上がりすぎて往年のバスケット漫画に出てくる主人公が初期に使用していた技名が出てくるほどのうきうき感。

これが”生”そう、生YES!!

超ハイテンションです、僕。


「………………」

ものすごいテンションのあがっている僕と反比例してテンションだだ下がりというか、怒りマックスな様子のもこ美。


「さあいこう、僕らのネクストジェネレーション、フォーエバーラブ アンド ターン。えんどぅ~ た~ん」


ガスッ!!

思いっきり僕の顔面に鉄拳が突き刺さる。


「うごっ!な、何するんですかもこ美さん。いきなりストレートを打ち込むなんて、ひどくないですか?」

無言で殴りつけた手を軽く振り、ふっと一息をついてこちらに視線を向けてくる。


「いや、目は口ほどに物を言うという言葉があるけれども、拳は口よりも感情が伝わって何よりだわ。怒りメーターが2ポイントほどは下がったわ」


「いや、まず目でも口でもいいけど、拳はさすがに後回しにしましょうよ。僕びっくりしちゃったもん。なんかいきなり殴られるってメンタルに相当くるんだって実感しちゃったもん。下手するとPTSDで町の中とか歩けなくなっちゃうくらいの衝撃だよ?」

僕の抵抗に対して、拳に力をこめるもこ美を見て即座にだんまりを決め込む。


「まあ、こんな事態を招いたのは確かに私が多少原因であるとは思うわ。だからこそさっきまで耐えていたというものよ。それにしたって、それにしたってよ。あなたの馬鹿さを本当に侮っていたわ。それは確かに私が『この前の戦闘で使った変身能力。いつでも使えるように練習とかしておいたほうがいいかも』なんてことを言ったのは確かよ。だからってあなた、練習にかこつけて家に帰ってから寝るまでエンドレスで変身を繰り返すって何事?何者?なに、虫なの?ちょっとした進化でなぜか現代まで生き残ってしまったなんか古代的な生き物なの?本当なんなの?」


「ただ太陽が眩しかったから」

僕は平然とそう告げる。


「何世界の名著から言葉を借りてるのよ。高尚な理由なんて何もないくせに。あなたなんて異邦人どころか、違法人よ。さっさと捕まってきなさい」

調子に乗りすぎてもこ美さんご立腹です。

しかし、どうしても譲れないものはある。それは男として、いやおとことしてやらなければいけない時がある。

僕は意を決してもこ美に語りかける。


「まあ、まあさ。確かに僕も節操がなかったというか、やりすぎちゃったことは認めるよ。でもさ、人間やるべきことはやらないといけないと思うんだよ。だから、さ。もう一回だけさ。お願いします。もこ美さん。おねがいじまずよぉぉぉ」

覚悟を決めて語り掛けたが、もこ美のあまりにも鋭い目線を見ていたら最後は涙ながらになってしまった。


「なんでそんなに必死になのか、わかりたくもないわ。それでもやっておいた方が良いということはまあ確かなのよ。あなたの態度が気に食わなかっただけで。本当に最後よ?」


こくん、こくん。

僕は無言で首を縦にスイングして、同意の意思を示す。


「もこ美さん。それじゃいきますよ」


その言葉を聞いて、軽く目を瞑るもこ美。


僕も精神を集中させ、リビドーが求める心の動きのままに想いをめぐらせる。

心の奥底からふつふつと湧き上がる気持ちの波は僕の全身を包みこむように広がっていく。

そして、その気持ちが頂点を迎えようとした瞬間にあわせ僕は目を見開く。


その瞬間、目の前のもこ美の姿が鋭い輝きを放ち、次の瞬間には「ポンッ」と間の抜けた音を出す。

音が鳴ったのもつかの間、輝くもこ美の姿は魔法少女もののアニメさながらに、変身を遂げていく。

くるくると回りながら、その姿を変えていき。

ひと際放つ光が強くなったかと思うと、目の前にはナース服姿のもこ美が立っていた。


「わっほーい。やっぱりいいよ。もこもこ姿も良いけど、ナース服姿もまたいいね。何度見ても良いわ」


何故こんなことをしているかといえば、もこ美の「この前では偶然変身して敵に勝てたけれど、またいつ違う奴が襲ってくるとも限らないわ。あの力を使いこなせばきっと役に立つはずよ」という話から、だったら練習していつでも変身できるようにしよう。

というところから始まった。

確かに最初のうちは勝手がわからずもこ身とうんうん唸りながらあーでもない、こーでもないというやり取りをしていたけれど、過去の戦闘状況を思い出しながら、僕の感情の高ぶりがマックスに達した時に変身が出来たという部分を再現したところ、結構あっさりとナース服姿への変身が出来てしまったのである。

そこからは、特訓という名の変身ショーをひたすら繰り返していた。

そう、僕らは命を掛けた戦いに身を投じた。そしてその戦いを共に生き抜くパートナーなのである。

そんな中で少しでも戦いを有利にさせることが出来る力があれば、練習を繰り返して磨きあげること何もおかしいところはないはずだ。


確かに僕もいつでも変身が出来るようになることで、もこ身のレベルアップに貢献できればと思っていた。

ただ一点、この練習がもこ美の怒りを買ってしまった点があるとすれば、それは変身が無駄にエロいということだ。

ナース服姿へと衣装を変えていく過程で、もこ美はくるくると無駄に回りながらいつも来ている水着のような服が消えて変身する。

どういう仕組みかはわからないが変身中服が消えても18禁にひっかかりそうなところは見えそうで見えないのだけれども、逆にそれが僕の男心をくすぐってくる。

とても戦場には似合わない扇情的なその変身シーンに僕はとりこになってしまい、何度も繰り返してしまった。

この変身の仕様はもこ美の意思で変えられないようで、最初は練習ということで付き合っていた彼女もだんだんと渋い顔になっていき、最後はさっきのやり取りにつながってしまったというわけである。


「いやーもこ美さんやっぱ良いですわ。なんか良いですわ」


人間一度味をしめてしまうとなかなか止められものだ。もし簡単に止めることが出来るのであれば、喫煙者も麻薬中毒者もこの世から簡単にいなくなってしまうはずである。

もちろん、僕も人間である以上そのさがには逆らえない。

そしてあっさりとこう言うのだった。


「もこ美姉さん。もう一回、もう一回いきましょ!」


さっきから沈黙を続けていたもこ美だが、よく見るともこ美の手からはバチバチ火花が散っておりこれから起こるであろう展開を予想させてくれた。


「死ね」

鋭い言葉と共に、もこ美から電撃が放たれる。


「ぐぎゃあああ!」

脳天を貫く衝撃をくらい僕は気絶するのだった。

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