ゲームは仲良く
「くそっ」
苛立ちに一人ではき捨てるが、もこ美が見つからないという結果は変わらなかった。
既にめぼしい場所はすべて周った。
しかしもこ美につながる情報は何も見つからなかった。
街中を走りまわっていたため、疲労はひどく歩くのがやっとという感じだ。
それでも休んでしまうことが、自分自身のもこ美への気持ちを裏切るような気がして、きつくても歩いていた。
ただただ歩いていた。
でももこ美はみつからない。
手がかりさえ見つからない。
そうだわかっていた。
高校生が出来ることなんて、行動範囲なんてたかが知れている。
いつもは何でもできる、俺は凄いことができる、そんな万能感があるのに、こうリアルに厳しい場面に出くわすと自分の実力というか、本当の自分がわかってしまう。
俺は一体なんなんだろう。
こんな非力なんだ。
大切な人を探して見つけることすらできない。
なんて弱いんだ。
沈みかけた太陽を眺めていると、自分の無力感に押しつぶされそうになってしまう。
どうしようもない。
自分の矮小さに嫌気がさす。
徒労という言葉がぴったりくる。
心に空しさを抱えたまま僕は家に足を向けていた。
家について玄関のドアを開けるが、いつもよりも何倍もの重さがあるかのようにドアの重みがずしっとドアノブ越しに伝わる。
はあぁぁー…
大きなため息をつきながら家に入る。
鉛のようになった足をひきずりながら、2階にある自室に向かう。
とりあえず横になろう。
部屋のドアを開け、ベッドに向かおうとする。
ん?
なんだこれ?
ピコピコという安っぽい音楽と共に部屋のテレビにがんばれゴエモン2 奇天烈将軍マッギネスのプレイ画面が写っているのが見える。
あれ?
なんか、ゴエモンインパクトがキセルボムを打ってるけど…
なにこれ?
TV画面からスーファミ本体へ目線を移し、さらにコントローラーへと。
そこには、雪見だいふくをたべながらボス戦を楽しんでいるもこ美の姿があった。
え?
開いた口がふさがらない。
「なんじゃこりゃあああ」
意味もなく横っ腹を抑えながら叫んでいる自分がいた。
「ああ。太一。どうも…」
なんだか歯切れの悪い感じで他人行儀な装いのもこ美。
「おーい!もこ美さん?消えちゃったんじゃないでしたっけ?僕必死で町を走りまわったんですけど?何ゴエモンしてるんですか?」
あっけない出会いと、これまでの気持ちのやり場が無くて、よくわからない言葉使いになってしまう。
「あ、このゲーム結構面白いわね。ちょっとやりたかったから、待っている間やらせてもらったわ」
「いや、そういうことじゃなくて、何をされてるんですか?」
「え、だから。ゴエモン?」
「ゴエモン?とかじゃなくて…なんで復活されているかってことなんですが・・・」
「まあ・・・世の中いろいろあるってことかしら・・・?」
あれだけ今生の別れかのように騒いだもこ美と僕だったが、お互いにこうして普通に会えたしまったことに、素直に喜ぶというより気まづさが先にたって妙な空気が二人を包んでしまっていた。
うわああ、キスとかしちゃったし…
どうすんのこれ?
この状況をどうにかする技量、僕にはないっすよ。
沈黙が二人の間に流れていく。
「あ、太一?そういえばここのボスはどうすれば倒せるのかしら?さっきから手こずっているのよね」
「ああ、それはさ。相手の出す弾丸みたいなボールがあるだろ?そいつをパンチで迎え撃てばいいんだって」
「そーなんだ。そうすればよかったのね。あはは・・・」
というような、ぎこちない会話を交わすもこ美と僕だったが、こんな会話がつづくはずもなく、また沈黙が訪れる。
「太一!!」
突然、あらたまって僕の名前を呼ぶもこ美。
「私、気づいたらここにいたの。本当にもうダメだと思っていたんだけど。でも今ここにいる」
「...」
僕は無言でもこ美の言葉を聞いていた。
「あまりに暇だったからちょっとゲームをしていたのだけれど」
暇だからってゴエモンをしてなくてもいいとは思うけど。
でも良かった。
もこ美が無事でよかった。
「ぷっ。あは、あははははは!」
僕はあまりの疲れと、もこ美に出会えた安堵から大声で笑っていた。
「何よ!あなたいきなり笑い出して、失礼ね!」
「い、いやさ。だって、あんだけ必死で探してたのに、家で雪見だいふく食べながらゲームしてるなんてさ。滑稽すぎて笑うほか無いでしょ!」
「なによそれ。しかも笑いすぎて涙まで流すなんて。どこまで馬鹿にしているのかしら」
もこ美の言葉を聞いて僕は初めて笑いながらも涙を流していることに気づいた。
よかった、本当によかった。
必死で探し回ったけど、もう二度と会えないと思ってた。
心のそこからうれしい。
僕はそのまま心の赴くままに笑い続けていた。
「いつまで笑っているの。いよいよ頭でもおかしくなったのかしら?」
僕に悪態をつくもこ美の横顔は笑っているように見える。
ただの気のせいかもしれないけど。
「そんじゃ、2Pで参加させてもらおうかね」
僕はコントローラーを手に取ると、ゲームに参加をする。
「何してるの?勝手にはじめて、私の足を引っ張らないでちょうだい」
ゲームをしながらやいのやいのと二人で騒ぐ。
ただ二人でゲームをしているだけだけれど、こんな時間がとても大切だということを改めて実感する。
まだまだしばらくはこのふわもこ系ガールと僕の生活は続くようだ。
白衣男とか、他のフェチマスターとか色々不安はあるけれど、こいつとなら乗り越えていけるそんな気がした。




