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フェチ×フェチ  作者: 兼平
第1章 僕ともこもこ
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結末

勝利を確信した僕はもこ美に向かって近づこうと踏み出した。


だが、もこ美は僕と違って敵を見つめたまま視線を動かそうとしない。


疑問に思い、もこ美の電撃が向かった先を改めて見つめる。

と、そこには黒い壁がスクール水着姿の少女がいた場所を覆うようにそそり立っているのだった。


「な、なんだこいつは」


突き立った黒い壁がゆっくりと崩れていくとその影から少女と男の姿が現れてきた。


「あ、危ないな、もう。あとちょっとでやられるところだったよね、まったく。それにしてもやっぱりスク子ちゃんはできる子だね」


「ご主人様をお守りするのは当然です!」


にこっと笑う少女の笑顔がさきほどまでと違って不気味なものとして見えてくる。


「電撃が特技みたいだね。き、きっと狙ってたんだろう、水と電気だったら電気が勝つなんておもってさ。残念でした。スク子ちゃんの能力が水系の技だけだっと思う?」


幼女の技は水流を放つだけでなく、謎の黒い壁を出現させることもできるらしい。


二つも能力があるってずるくないか?


「くっ」


もこ美が歯噛みをしている。


決まったと思ったところが、逆に振り出しへ、いや振り出し以下の状況になってしまった。


再び少女へと向かって飛び込んでいくもこ美だが、そこにはがむしゃらといった様子がみえる。


正直一瞬でも勝てたと思ったところから逆に追い込まれてしまったためメンタル的にもダメージが大きい。


再度電撃を放つが黒い壁に阻まれ水流によって道路わきの壁に叩き付けれてしまう。


それでも特攻を繰り返すもこ美を見ていることしか僕にはできない。


歯がゆい。


だが、ここで僕が飛び込んだところで邪魔になるだけだ。


何か、何かできることはないのか?


自問自答を繰り返す。


さっきから、あの少女は二種類の技を使っている。

ということはもこ美だってきっといろんな能力が使えるはず。


だが、その方法が思いつかない。


何か、何かヒントはないのだろうか?


そういえばあの白衣男は言っていた。


この町で行われているのは思いを具現化する実験だと。


ということは・・・


バシンっという音とともにもこ美が水流によって近くの壁に打ちつけれらる。


思考をめぐらさせている間にももこ美は倒れ傷ついていく。


こうなったら試してみるしかない。


僕は思いついたことを実行に移すことにする。


「はああ」


息を吸い込み、精神を集中させる。


そして、思う。


僕の願望を。


もこもこは大好きだ。


そして他に好きなものはなかっただろうか?


さらに深く深く思いを強める。


徐々に意識の深くへともぐっていく。


ただひたすら自分の気持ちに忠実に。


自然と安らかな気分になるとともに力がみなぎっていくのが見える。


しかしそれは気のせいではない。


自分の意識、心の力とでも言えばよいものがが高まるとともに僕の体からは淡い黄金色のオーラが立ち上っていく。


そんな僕の姿を映し出すかのように、もこ美も同様にそのオーラを身にまとっているのが見える。


それも少しずつ強い色へと変化していく。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


戦いの現場から少し離れた場所に白衣姿の男とメガネをかけた女が立っている。


白衣の男は女に話しかける。


「見てごらん、やっぱり彼面白いよ。自分で気づいちゃったね。思いが力になるこの世界でどうすればいいのかって。しかもあんな目に見える形まで思いの力が噴出している。差し詰めスーパーフェチモードとでもいうところかな」


話しかけられた女は無言だ。


「僕が見込んだだけのことはあるよ。この戦いこれでどうなるかわからなくなったよ」


メガネのを掛けた女は無言でその光景を見つめている。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


戦闘は続いている。

「な、なんですか、それは。少しまずい匂いがしますよ、あれは。スク子ちゃん」


「はいです!」


返事をするが早いか、無防備の僕に向けて水流が放たれる。


しかし、その水流はキンという甲高い音ともに僕を包むオーラにぶつかると弾かれていく。


「も、もっと、もっと」


男の指示とともにどんどんと放たれる水流はすべて弾かれる。


その間にも僕の気持ちは高まり、そして集中がマックスに達する。


迸る心の奥底から吹き出る気持ちの中で僕は叫ぶ。


「きたきたアアアアアアアアアアアアアアアアー!」


そんな僕の掛け声と共に広がり続ける僕ともこ美を包むオーラはひと際大きな輝きをすると、光は収束していった。


光が消えた中で周囲を見回す。


そこにはもこ美がいた。


ただし、ナース服姿の。


「って、何よこれ!何でナース服なの!?」


「僕だってわからん!」


あれだけ盛り上げて、そこにはなぜかナース服姿のもこ美がいるというとんでもな状況になった。


「わからんって何よ。これがあなたの願望ってことでしょ?私はあんたのおもちゃじゃないのよ!」


ああそうか、僕の思いが具現化してこんな状況になったのか。


というか、僕にナース服フェチの願望があったなんて…


また一つ自分の知らないフェチを見出してしまった。


「もうなんでもいいや!いくぞもこ美verナース!!」


「勝手にバージョンしないでちょうだい!本当に馬鹿ね。でも、でもこれならいけるかも…やるわよ!」


突進するもこ美。


「くっ、なんなんですか、こいつらは。そんな姿だけ変えたって、形勢は変わりません。スク子ちゃん」


「わっかりました!」


黒い壁を出現させる少女。


「ま、またその壁!?いい加減何度もしつこいのよ!」


怒りを吐き出すもこ美の両手が光る。


「何!?この黄色の光は?またさっきの光?次はなんなの?」


光るもこ美の両手からは先端がとがった1mほどの物体が出現する。


「ちゅ、注射器?」


おいおい、ナースだからってそりゃないだろ!


もこ美の光る両手には、医療用としては絶対あってはならない。言ってみれば凶器と呼べるサイズの注射器が出現していた。


「なんじゃそりゃ!?」


「なんだからわからないけど、喰らいなさい」


突然の状況だけれども、それでも先頭に活かせる限り即座に武器として使用してまうもこ美。


現れた注射器を黒い壁に突き立ててしまう。

鋭利な先端は壁を突き破る。


「う、うわあ」


壁の向こう側からは男の悲鳴が聞こえてくる。


「それにおまけよ」


もこ美が打ち込んだ注射器に対してさらに彼女が力をこめると、注射器を通して電撃が壁向こうの二人へと襲い掛かっていく。


「ぐぎゃああ」


「きゃああ」


二人の悲鳴があがる。


悲鳴とともに先ほどまで彼らを守っていた黒い壁が消滅していく。


消えた壁の向こうには煙を上げている男とスクール水着姿の少女の姿が残っていた。


「や、やったのか?」


最後はナースだのなんだのが出てくる超展開についていけなかったが、なんとか勝てたようだ。


「やったなもこ美」


勝利の安堵とともに声をかける。


ナース服の彼女は振り向きながら答えた。


「馬鹿じゃないの!ナースフェチって何!もっとあったでしょう?付き合いきれないわよ」


お怒りの言葉をいただいた。


「ま、まあさ。勝てたんだからよしってことでさ…」


「よくないわよ」


おっと、こんなやり取りしている場合ではなかったんだっけ。


倒れている二人へと視線を移す。


と、スクール水着の少女の姿が気のせいか薄くなっている。


それは気配が薄いというような比喩ではなく、現実的に消えているのである。


そしてそのまま空気に溶けるように消えていってしまった。


これが、戦いで負けた者のまつろってことなのか…


戦いたくないと思っていたのに、結果的に戦ってしまった。


こいつらのせいで被害にあっている人間がいるとはいえ、本当によかったのだろうか。


後味悪い感覚が残る。


「お、おい。お前」


話しかけようともこ美をみると、もこ美の体も薄く消えかけていることに気づく。


「あ、あれ?私まで消えるのかしら?あんなよく分からない力を使った代償なのかしらね」


「なにをそんな悠長なこと言ってるんだよ?消えかけてるっていうのに」


「どうしてかしらね。動揺がない訳ではないのだけれど、騒ぐほどのことではないって感じね」


「そんな。そんなこというなって。何か方法を見つけよう。そうだ、あいつ、あの白衣男に相談すれば」


もこ美の手を掴み連れて行こうとする。


「いいのよ。別に。何となくだけど。どうしようも無いって感じね。分かるのよ、自分のことだから。でも良かった、最後にあなたを守れて」


「おい!何を死んでしまう前みたいなこといってんだって。僕が助けるから、諦めんなよ」


肩に手を置き体を揺すりながら、なかば自分に言い聞かせるように僕は叫ぶ。


「短い間だったけど私としてはまあ、楽しかったのよ。元々はこの世にいること自体がイレギュラーだったのだから、いい経験だわ。思い出せば。思い出せば…なんだか不愉快なことばかり思い出されてくるわね。これ」


顔を歪めて、口角をひくつかせる。


少しばかりそんな顔をして、ふーっと息を吐く。


「まあいろいろ、いろいろとあったけれど悪くはなかったわ」


「僕は嫌だ!折角であったんだ、これからもっと楽しい思い出だってきっと作れる。だからさ、そんなこと言わないでくれって」


さっきとは少し違う調子でまた息を吐くともこみは答える。


「それは楽しみね、そしてきっと楽しいことなのでしょうね。でも仕方ないの、きっといつかはこうなることだったのよ」


だから…

と言葉をつなげるもこみの瞳から涙が頬を伝う。


「わがままいってるんじゃないわよ。私だって消えたくない!もっと楽しいことしたいし、一緒にいたいの。そんなこと言わせないで。せっかく最後はクールに行こうと思ったのに、なんで、なんであなたはそう…」


目に浮かべた涙を手で拭いながら、もこみが告げる。


「時間がないわ。ねえ、白衣の男。どうせ近くで見ているのでしょう。私達の観察のために」


その言葉に反応して、通りの角から白衣男がぬっと出てくる。


「よく分かりましたね、さすがです」


「御託はいいのよ、時間がないわ。簡潔に答えてちょうだい。私がこれから消えたら太一はどうなるの?」


「お前、僕のことなんか、それよりもこ美のことを」


「本来はフェチドールが消えるとそのマスターも廃人になる。そう伝えたね」


そうだ、そう言えばそういうルールだった。


「でも、今回は特殊ではないかしら?なぜなら、私たちは他のフェチマスターに勝っているのよ。決して負けたわけではないわ」


「うーん。確かにそうなんだよねー。君たちは勝った。まあ、それに面白いもの見せてくれたしね」


話をしながらも、もこみは膝から崩れ落ちていく。


「お、おい」


駆け寄ってもこ美を抱きかかえる。


「もうダメみたいね。太一。さよなら」


そう言うと僕の唇にもこ美は自分の唇を重ねてくる。


次の瞬間には、もうほとんど消えかけた彼女の体はすっと空中に溶けるように消えて行った。


「もこ美ー!」


僕はさっきまでもこ美がいた今は何もない空間を、もこ美の存在の何かしらがそこにあるかのように手を伸ばす。


あああアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!


声にならないうめき声をあげる僕は、立ち上がり白衣男に詰め寄る。


「なんとか、何とかしてくれ」


白衣男は無言で首を横を振る。


そんな態度にさらに詰め寄って抗議をしようとする。

が、いきなり足の感覚が遠くなる。

がくんと、膝が抜ける。


「なっ?」


そのまま地面に倒れる僕。


ち、力が入らない。


「力を使い果たしたのさ、君は。あれだけの力を使ったんだ無理もない。まあ、今はゆっくり休むことさ」


くそ、い、嫌だ。

なんとか、しないと。

もこ美を助けないと。


僕はなけなしの力を振り絞り、這いずるように力の入らない腕で前に進もうとする。


しかしそんな行為も虚しく、体は一向に前に進まない。


しかも、意識まで遠くなっていく。


ち、ちくしょう。


どんどん意識が遠くなる。


絶対なんとかしてやる、絶対に。


視界は狭まっていき遂には暗闇が僕を包み込んでいく。

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