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フェチ×フェチ  作者: 兼平
第1章 僕ともこもこ
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幼馴染

だいぶ熱弁をしてしまったがそんなもこもこと出会った僕が、もこもこを家族に紹介したくなったのは当然のことだろう。


早速もこもこを抱きかかえ、階段を下りて、朝食を食べている妹のところまで連れて行く。


そして、トーストをほおばっている妹に対して、

「見てくれよ!このもこもこ。やばいだろ!」と自慢をしてみた。

が、きょとんとしている妹。


そして、「何言ってんの?もこもこ?またそんなキモイこと言ってるの?」とあきれた口調で言ってくる。


僕は言っている意味が飲み込めず、胸元に抱きかかえているもこもこと妹の間に視線を行き来させながら、

「だから・・・このもこもこ・・・なんだけど」とぼそぼそ言ってみる。


そんな僕の姿を見ているのか、見ていないのか、妹はもう朝のニュースに集中しているようだった。


無視。


内心、このやろう、と思ったが、どうもおかしいということには自分自身気づいていた。


それでも、最後に一言、「お前、このもこもこ見えないのか?」と聞いてみる。


妹は、さも面倒くさそうに「はあ?まだ言ってんの?わざと無視してんのわかんないの?朝から意味不明なこと言わないでよ」と一蹴する。


「そ、そっか。いや、なんか悪かった・・・」


僕はそれだけ言うと、一人テーブルに座って考え込んだ。


どうやら、妹にはもこもこがみえていないようなのである。


僕しか見えない?


まさか・・・


それはつまり幻覚とか、病気とかってことじゃ・・・


急に心配になり、母親にも聞いてみたが、対応は妹より柔らかいものの、同様に見えていない様子だった。


しかし、電撃を喰らって僕が気絶していたのも事実だと思うし、そしてこうして抱きしめているもこもこが現実ではないという気もしない。


そこで、僕は考えるのが怖くなり、思考を停止させる。


貧困な脳みそで考えた対処方法は、いつもどおり学校に行くという、政治家も顔負けの先延ばししただけのものだった。


つまり、無かったことにしようとしたのだ。


だが、現実はそんなに甘いものではなく、ちゃっかりと学校までもこもこは着いてきた。


家から学校まで行く間、とてとてとしっかりと着いてくる。ご丁寧に「にゃっしゅ」なんて鳴き声をあげながら。


幻覚と、幻聴、やばいかも。なんて思いながら学校に行くが、案の定、学校のクラスで誰もこもこについて話題にあげるヤツはいなかった。


こんな不思議生物がいたら普通誰でも聞いてくるだろう。


それでも聞いてこないって事は、見えてない、とぃうことなのだろう。

そんなこんなで、一週間。


病気なのでは?などともんもんと考えながらだったが、何度も電撃を食らっているうちに、幻覚だという線は無くし、やはり自分にしか見えないという見解に達したのである。


だからと言って、こいつのことが分かったわけではなかったし、むしろ謎が深まっただけなのだけれど。

続いて分かっていることだが、


②驚くと電撃を発生させる。


今朝から散々喰らっているし、一週間の間に何度気絶させられたか分からないくらいだから、わざわざ書くようなことでもないのかも知れないくらい、身体が覚えている。


が、書かざるを得ないだろう。


そう、このもこもこは怒ったり驚いたりすると電撃を発生させるのである。


なにかちょっかいを出したりすると(主にそのもこもこを堪能しようという衝動の我慢ができずに、揉みしだいたりした際)、物凄い衝撃の電撃を食らわせてくる。

イメージとしては、うる星やつらのラム姉みたいな感じである。


これで「だっちゃ?」なんて言ってくれるスレンダー宇宙人だったら、違う意味でもーう最高!ってな感じだが、そこはそこ、こいつは球形のもこもこである。


基本的に、電撃を発生させる前には前兆として、身体がピカピカと光ってくるため、うまくそこで対処ができれば直撃を避けることも可能である。


が、やめられない止まらない、そんな依存性食物のキャッチコピーにも代表されるように僕のもこもこ衝動をそんな簡単に抑えられるわけもなく、毎度毎度同じ繰り返しをしてしまっているのが現状である。


③僕の後をついてくる。


今日もそうだが、このもこもこ。


ずっと僕の後をついてくるのだ。


学校に行けば学校までついてくるし、学校から家に帰れば、家までついてくる。

家の中でも自分の部屋にいるときは、部屋でごろごろしているし、フロに入っているときはフロまでついてくる。


理由は分からない。


一度、実験的に自分の部屋から出る際に、僕だけ先に廊下に出て、さっと扉を閉めたときがあった。さらに鍵もかけた。


つまりもこもこを部屋に閉じ込めるかたちだ。


しばらく扉の向こうからは、「みゃんぐらー」と鳴き声が聞こえていたが、放っておいた。


扉の向こう側で鳴き続けるもこもこに対して良心の呵責が無かったといえば嘘になるが、これは真実を知るための実験なので仕方がないと割り切る。


そして、僕は居間まで向かいテレビを見ることにしたのだ。


そのまま30分ほどテレビを見ていたときだっただろうか?


ふとCMになり、もこもこの様子を部屋まで見にいこうと思って立ち上がった時だった。


僕は驚きの光景に、一瞬血の気が引いた。


なんと、その足元にはもこもこの姿があったのである。


確かに扉を閉めていたはず・・・しかも鍵までかけていたのに・・・


かなりのショックを受けたが、そのつややかなもこもこに飛びつくまでにはそう時間がかからなかった。


そして、電撃を喰らってあっさり気絶している時には、もうそんなことどうでも良くなっていた。


こいつは謎の生き物なのだからしょうがない。


都合の良い言葉だが、そうとしか言いようが無いのである。


そもそも自分にしか見えないのだから、なんでもありなんだ。


と現在わかっているもこもこの特徴としてはこんなとこだろうか。


本当にこいつは一体なにものなのだろうか?


全くわけがわからん。こうやって何十回も考えているが、毎回結局答えは出ないのである。


そんな風に考えていると、ふと隣から話し掛けられていることに気づく。


「太一何やってんの?もう休み時間だけど?」


と下の名前で呼んでくるのは、幼馴染のアゲハである。


ちなみに僕の名前は山田太一。


某野球漫画の主人公と一文字違いで、そのためによく間違われる。


いっそ山田太郎の方がまだましだったかもなんて思うときが多々ある。


そして、今僕の名前を呼んだのは、玉虫アゲハ。


小さい頃から近所に住んでいる幼馴染である。

腐れ縁というかで小、中、高校とずっと同じ学校だ。


「授業終わったのに、何を必死で考えてたの?普段はノート貸してっていつも言ってくるくらいなのに」


たしかに僕は普段授業を真面目に受けているほうではなく、テスト前にはアゲハをはじめ、が友達にノートを良く借りている。


僕は自分のノートに改めて視線をおろしてみる。


と、そこには、思考回路はショート寸前、やめられないとまらない、僕にしか見えないといった文章に加えて、もこもこ、もこもこ、もこもこ、もこもこ、もこもこ、超もこもこと言った文字でひしめきあっていた。


これは明らかに異常だ。


これこそまさに自分自身を死地に向わせる、逆デス・ノート誕生の瞬間だった。


なんてこと考えながらさっとノートを閉じて、アゲハに見えないようノートを机に入れる。


「いや少し考え事をしてたんだよ。これからの正義についてとか、もしも僕がドラッカーのマネジメントを読んで高校野球部の女子マネージャーになったら、とかさ」


「何それ?難しいこと考えているんだね。というか、女子マネージャーって・・・まあいいけど」アゲハはそんな風に答え、続ける。


「最近、太一遅刻が多いし、なんか大変なのかなと思ったりしたんだけど、なにか悩んでたりしないの?」


僕は少しの沈黙を置いて、

「別に何も無いけど」と答える。


僕にしか見えないもこもこについて悩んでいる、なんて言えるはずが無い。

「アゲハの方こそ最近変な生き物とか見なかったか?」

と聞いてみる。


すると、

「え!変な生き物!えーっとね、最近テレビで見たんだけどね、ヨツコブツノゼミって言って、南米に生息しているセミの一種がいるんだけど、これがすごい不思議な形状をしているんだよ。どんな形状かというと、頭にツノがついているんだけど、このツノが物凄い大きいんだ。見た目は戦闘機のロケットエンジンみたいなかたちで、しかもこのツノが一体何のためについているのか、まだ学者も詳しくは分かっていないんだって。物凄い惹かれるよね。あと、ヒヨケムシ。この虫はね、北アフリカや中東に生息しているんだけど、現地ではラクダムシとも呼ばれているの。見た目はとてもグロテスクで、足が十本あるクモの仲間なんだ。その強靭なあごは、砂漠最強と誉れ高く、さらに世界で二番目に早く走る虫で時速16kmで走れるんだって。ちなみに一番はゴキブリね。納得っていった感じだね。すごいよね。それと、それと・・・」


不思議な生き物の話になった瞬間に一瞬にして顔を輝かせて、熱く語り始めるアゲハには悪いが、これ以上はちょっと付き合いきれない。


「わかった、すごいな、そんな生き物がいるんだな。また今度ゆっくり聞かせてくれよ」と体よくあしらう。


「えー。これからがいいところなのに、キサントバンモルガニとか、カッターバッタとか凄いんだけどな」と口を尖らせるが、「まあいっか、それより本当何か悩んでたりしてたら言ってね。どんな悩みも一発解決しちゃいますから。ただし相談料は高くつくけどね」と続ける。


「金取るのかよ。でもサンキュー、また何かあったら相談するよ」と僕は答える。

持つべきものは幼馴染だなと、嬉しくなったりした。


「あ、そう言えば、話は変わるけど。最近またあったらしいよ。「水着泥棒」。周辺の小、中、高問わず狙われているみたいだよ。恐いねーうちの学校も水泳の授業あるし、遭遇したりしたら嫌だな。すっごい気持ち悪いよね」


と嫌悪感丸出しで、最近発生している水着泥棒について語る。


「そういや結構な数の被害者が出てるんだろ?警察も裏ルートでそういったものを流している集団による犯罪って線で犯人を捜したりしているみたいだってな」


それにしても集団による水着泥棒なんて、本当にいたら世の中も末だと思う。


「隣の学校でも被害があったんだって。それも結構な数の被害。なのに犯人の手がかりが見つからないんだって。ちゃんと正門に警備員もいる私立の学校なのにって市民新聞に載っていたよ」と後に加えて「幽霊の仕業だったりしてね」なんて茶化しながらアゲハが言う。


「幽霊って。どんな幽霊だよ。昔スクール水着が好きで仕方が無くて、水着を身体に巻きつけているうちに不意の事故でなくなった中年男性の霊とかか?」


「太一…よくそんな想像できるね。水着を身体に巻きつけているうちの不意の事故って…どれだけの珍事件なのよ。まあ、幽霊っていうのは冗談。それくらい不可思議な事件ってことなのよ」


「そんなもんかね。まあすぐに犯人も捕まるだろ。日本の警察は凄いんだってテレビで言ってたぜ」


「それもそうよね」


そんなくだらない会話をしていると、キーンコーンと授業開始のベルがなる。


「それじゃ、ほんと何かあったらお姉やんに相談しなさいね」と言ってアゲハは自分の席に戻っていった。


お姉やんって、いつの時代の話だよ、なんて考えながら教室に入ってくる先生に視線を向ける。


そうしていつも通り、授業が始まる。


そんな日常のヒトコマの中で、足元には異常の象徴ともいえるもこもこが眠りこけていた。


ここまで色々と語ってきて、既に気づいている人もいるかもしれないが、僕はこの世の中で、誰よりももこもこなものが好きだという自負がある。


小さい頃からもこもこしたものが大好きで、毛布やクッションはもちろんのこと、服や小物に至るまで、もこもこしたものを収集した。


子供の頃に読んだスヌーピーに出てくる毛布をいつも持ち歩く少年ライナスは自分のことを書いてくれているのだと国境を越えて共感をしたものだった。


小学生の頃はデパートの布団売り場であまりにお気に入りの布団があったため、布団を置いている棚に一昼夜潜り込み、翌日家族が誘拐されたのかと心配して、警察に捜索依頼を出して大騒ぎになったなんてこともあった。


何故こんなにもこもこが好きなのだろうか?


正直言って理由はわからない。


ただ言えるのは、もこもこが好きということだけだ。


もこもこは僕のレゾンディートルと言っても過言では無いだろう。


そんな僕のところに謎のもこもこが現れたのだから、あまりの想いの強さに幻覚を見たと思ってしまったのも仕方ないことだと思う。


つまり僕は一言で言えばもこもこフェチなのである。

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