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フェチ×フェチ  作者: 兼平
第1章 僕ともこもこ
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ある実験の話

君は思いは叶うという言葉を聞いたことがあるだろう。


他にも思考は現実化するなんて言葉も。


実際はどうだろうか?


かなわない夢はあるし、現実はそこまで夢のようなことは起きない。


それは人生経験の短い君でもなんとなく理解しているんじゃないかな、体感として。


ただね、世の中は広いし、様々な人間が生活をしている。


その中には、本当に不思議なことを熱心に考えている連中だっているのさ。


そんな不思議なことを真剣に考える連中の1人の中にある男がいたんだ。


その男は夢のようなことを実際に起こしてみたいと、試してみたいと考えたんだね。


彼の思想や考えは確かに突拍子もなかったが、彼の頭脳は同じくらいに突拍子もなく優れていたんだ。


彼はこう考えたんだ「思いが実現する、そんな世界を作りたい」と。


言葉だけ聞けば努力すれば、きっと成功できる。

そんな理想論にも聞こえるものだろうね。


しかし、彼は現実世界に思いが干渉する、そんなシステムの構築を考えたんだよ。


きっかけはちょっとした発想だったが、彼の才能を認めていた周りの人々は、一人また一人と彼の理想に賛同していったそうだ。


研究は進み、規模もおおきくなっていったという。


その研究では、宇宙のはじまり、無から始まったという宇宙について、きっと何かがあったのではないかという発想から始まった。


何もない、本当の無からは何か始まるはずがない。


現代の社会では測定できない、力があったという仮定をしたんだ。


そして、その力こそが思いであるとしたんだね。


思いという無形のものこそが、ビックバンを起こしたのだと。


まあ、それが本当なら、その思いは誰の思いなんだろうね?


それは分からないし、もしかしたら、それこそが神と呼ばれる存在なのかもしれないけど。


彼らは、研究を進め、遂にその思いという力を測定する方法を確立したんだ。


思いを捕えることに成功したといってもいい。


臨床実験が始まり、何人かの人体実験が行われていく。


そして、実験はある程度の成果をあげるようになった。

その話をきいた政府の人間も数多く訪れるようになったようだよ。


まあ、何しろ思いが実現する実験さ。


政治家なんていう人の思いを操ろうという人種が喰いつかないわけがない。


最初はみんな疑っていたようだよ。


でも実際に目の前にして、掌を返したそうさ。


そして、政府までもがその実験に本腰をいれ始めたのさ。


もちろん、一般市民に知られないようにね。


そんなことが知れ渡ったらだれもがその力を欲するよね。


きっとその中には今の社会なんて壊れてしまえばいい、そんな強い思いを持った輩もいるかもしれない。


それは彼らにとっては都合が悪いんだね。


政府も一緒になった実験は速度をあげて、進んでいく。


そして、小規模な人体実験がほぼ確実な成果をあげるようになって、実験は次の段階を迎えたんだ。


それは、一定区域にいる人間を対象とした大規模な実験。


そして、その実験区域には人口が過密しすぎず、通行の便がある程度悪い地区。


そんな実験に最も的した場所の名前は、近畿地区の山間に位置する、この山田市さ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「お、お前急に何をいってるんだよ!?実験、そんな。この町がその実験に使われているっていうのか!そんなの許されるわけがないだろ?」


「だれが許さないんだい?君だって今知ったばかりだろう?」


「いや、知ったからこそ憤っているんだ。怒っているんだよ」


「それはまあたいした正義感だ。尊敬に値するよ。しかし、こんな話を誰が信じる?誰も信じないだろう?まあ、時間をかけて説得していくという方法も確かにある。けど、そんな時間はあるのかな?君がそんなことをしている間にも、自体は刻一刻と進んで行っているというのにね」


「は?いくらでも時間はあるだろ」


「きみは本当にわかっていないね。そんなことではすぐに消し炭だよ。陸に上がった魚を見ているようだね。それ、口をパクパクとやりながら、ビチンビチンと跳ねてるのがお似合いだね」


「おい、そんな比喩はどうだっていいんだって」


「まあ、いいさ。そう、君、というか君たちはね、すでに実験に巻き込まれているんだよ」


そして、一間を置いて男はいう。


「殺し合いという名の舞台にね」


「なんだよ、それ。。。」


殺し合いってなんで、意味がわからない。


なんでそんなものに巻き込まれないといけないんだ。


というか、そもそもコイツのいっていることは全部ハッタリなんじゃないのか。


「もしかして、こいつのいっていることはすべてハッタリなんじゃないか、と思っているような顔をしているね」


思っていることを看過されて、思わず背筋に緊張が走る。


「ハッタリだとしてもね、そこのもこ美ちゃんについて説明できるのかい?」


そういわれて、ぐっと押し黙るしかない。


そう、確かに今、この場で起こったことはすべて現実離れしていた。


そして、その現実離れした出来事について男のいうことを信じれば、確かに説明ができるのである。


これは悔しいが認めるしかないのか、だからといって、殺し合いがどうとかいうことを真に受けるなんてこともばかげている。


「殺し合いって、なんだよ、そんなの納得いかない」


やっとのことで、言えた言葉がそんなものだった。


「そうだね、確かに納得できないかもね、不条理だろうね。でも仕方がない。納得しようがしまいが、事態は進んでいる、それだけ。受け入れようが、受け入れまいが、事実は変わらない。そして、それで君が死のうがまあ仕方がないね。」


そう男が言うのを聞きながら考える。


ぐっ、そうだ、不条理だ。不条理すぎる。


しかし、不条理だと嘆いても変わらない。

この奇妙な世界も、体験もすべては現実なんだ。


現実を否定したところでどうしようもない、現実はただただ迫ってくるのだから。


「納得なんかしない、でもどうにかするしかない。なら何をすればいいっていうのかくらい。それくらいは教えてくれよ」


「何をするかだって、そんなのは簡単なことさ。ただただ生き延びればいのさ。全人類が日々行っているそれとなんら変わらない。ただちょっと、難易度があがっているだけでね」


そして続ける。


「そう、これから君たちはね、同じような戦いを繰り返すことになるのだからね」


なんだ、戦い?まさか今起こったようなことをまたやれっていうのか?

そんなのは嫌だ。

少し間違えば大怪我だ、というか怪我くらいじゃ済まない。


下手すれば死んでいた可能性だってある。


「なんだよ、それ」

さっき不条理を受け入れようとは思ったばかりだったはずの自分がもう否定を始めている。


こんな現実受け入れられないと崖然としている僕の横で同じく押し黙っているもこ美の姿がある。


こいつもきっと受け入れ難いのに違いない。


ふるふると体が小刻みに震えているのが見える。


お前の気持ちは痛いほど分かる俺だってこんな現実受け入れられない。


わなわなと震えるもこ美がやっとという感じで口を開いて声を出す。


「そ、それはつまり…」


と言いづらそうに口ごもるが、それでも言葉をつなごうとしている。


そうだ、言ってやるんだ。

こんな理不尽なことはないって、僕の心を代弁してくれ。


「わ、わたしはそこの馬鹿から生まれてきたということ…なのかしら…」


とこちらに震える指を向けてくる。


いやいや、何を言っているんだろうか。


僕と同じ気持ちだと思っていただけに少し残念な感じがする。


だが、もこみの言葉の意味をもう一度思い出して考える。


僕から生まれてきた、それはどうゆうことだろうか。


頭を捻って考えてみると、その意味にようやく理解ができた。


そう、さきほどまで目の前の男は言っていたのだ。この町では願いの叶う実験が行われていたというようなことを。


そう、願いが叶うという対象の中には例外なく僕自身も含まれているということだ。


そして、僕の願いとは何か。


そんなのはすごく単純で、究極のモコモコを手に入れることなのである。


つまり、僕の隣に立っている少女、その毛ざわりこそ僕が求めていたものなのだ。


僕の願いとはつまり、目の前にいる少女そのものなのである。


言われてみればもこみの容姿は僕好みの顔つき、スタイルで、こんな彼女ができたらいいなと普段から思っている姿だ。


有り体な言い方をすればタイプな子である。


そんなモコモコな娘が、つまりモコモッ娘が突然僕の前に現れた理由、それは。


「私は、私はこいつの願いがかたちになったものだとでもいうの」


僕の心で思っていることをもこ美が代わりに答えてくれる。


「ご明察、よくわかったねーハナマル、ハナマル」


ウキウキとした口調で馬鹿にしたように答える男。


「つまり君は山田君の分身みたいな存在っていったらわかりやすいかな?まあ、勝手な彼の願いだからね。君には迷惑な話かもだけどね」


「そ、そんな、わ、私があんなのの分身!?あり得ない、そんなのあり得ない、あっちゃいけないことだわ!」


ガクッと肩を落として、地面に膝を折るもこみ。


虚ろな目をしながら、ぶつぶつと嫌とか、夢だとか繰り返している。


そんなに嫌か?

俺の願いだってことが。


というか、僕の願いなのになんで僕を否定するんだろうか?


なんか矛盾してるよな。


「もこ美ちゃんはね、君の願いというか、強い深層意識なんだね。僕たちの実験ではね、ただ言葉で言ったような表面上の願いを叶えたものは結局一人もいなかった。そういう意味でいうと、この実験もまだ成功しているとはいえないね。では、どんな願いが叶ったのか。それはね、その人間が持っている本能に近い欲望、それも大きな個人差があるもの、趣味嗜好とも言えるものだよ。つまりね、簡単にいえば、フェチさ」


は?


何?


今なんて言った?

さっきまでの壮大な話から一気に下世話な話に変わった気がする。


「フェチだって?」


「そうさ、フェチだよ?誰しもが心のどこかに持っている嗜好、そして、時として強い行動の原動力となるもの。言葉に出さずとも心の奥にある、その思いが実現するのさ、この実験ではね」


「そんな馬鹿な…」

その続きを言葉にしようとして紡ぐ。


確かに馬鹿馬鹿しい、本当に馬鹿馬鹿しいことだ。


ただ、目の前で膝をつきまだぶつぶつと言いながら現実逃避をしているもこ美を見て考えを改める。


そう、こいつは確かに俺が求めていたものだ、それだけは確かだ。


そうもこ美の存在を受け入れても、まださっきまでの男の言葉で受け入れがたい部分があったことを思い出す。

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