戦が終わって
「わ、わかりましたよ。もうそれで構わないので許して下さい」
なんだろう。別に負けたわけではないのに何故か悲しい気持ちになってしまっているのは。
あれ?
今勝ったんだよな?
なんで存在を否定されなければならないのだろう。
これはあれだ、うん、きっとあれだ。
考えたら負けというやつだ。
世の中には辛い、理不尽なことに耐えなければいけないことなんてよくあるはず。
それがたまたま、本当にたまたまの確率できっと今になってしまったのだろう。
偶然て恐ろしいなー。
いや、諸行無常だな。って、今じゃなくてもいいよね。
きっと今この瞬間じゃなくてもいいよね。
抗議していいんだよきっと。
うんそうだ、きっと抗議していいんだよ。
声をあげていいんだ、僕は、僕を主張していいんだきっと。
よし、思い切って声をあげよう息を吸い、そして喉から音を出そうとしたそのときだった・・・
「死ね」
言葉という刃物が僕を袈裟懸けで斬りつける。
「って、おい!まだ何も言ってないだろ?なんだその突然の切り返しは?言葉通りに僕の心は真っ二つだよ。」
「だって、なんか死ねって感じだったから。」
「は?なんだそれ?死ねって感じって、どんな感じだよ?それはあれか?極東国際軍事裁判みたいな感じってことか?」
「つい・・・ごめんなさい。私としたことが間違った選択をしてしまったわ」
「まあわかればいんだけど」
意外と殊勝なところもあるなと思った。
全然足りないけどね。一般市民レベルに大いに欠ける部分があるけどね。
「死んでください」
「ほわっつ?」
あれ英語が口から出てる?
でも仕方がない、意図が通じればそれでいい。
「クッデュー キリング ユアーセルフ,クデュンチュー?」
「うわ、意味が通じている上に丁寧語で返してきた。文法的に正しい分、本来的な言葉としてのおかしさが紛らわされている!?」
「馬鹿ね」
「馬鹿だな」
「・・・」
「おい外野!入ってくんな!最後の・・・はかなり含み入ってるのが目線で伝わってくるんだよね!おいメガネをはずして確認するな、曇ってない、曇ってないよー」
完璧アウェイなこの状況なんとかならないかと感じる。
さっきまでの方がまだ気が楽だ。2対2から3対1にかわってしまった。
辛いわ、人生は辛いわ。
というか、まあおふざけはこれくらいにしよう。
「なあ、そろそろ教えてくれよ。なんでこんなことになったのか。」
あらためて白衣男の方に頭を向けて喋りかける。
「なんでかって?そんなことも分からないなんて、君はダメだな、本当」
「そういうのはもういいからさ、僕の頭の悪さについてはもういいから」
「いいえ、そこはとても大切なことだと私は思うわ。まだまだ自覚が足りないようね」
「内野も出てくんな!ってか定位置で守ってろ!」
投手はマウンド上で孤独だとはいうけど、まさか孤独どころか四面楚歌になるとは・・・
野球って大変だな。
「早く話進めたいんだよ、僕は。そろそろ話をすすめさせてくれないかな、本当」
「そうだね、まあ多少は期待に答えないといけないかな、これでも大人だし。
では何から答えて欲しいんだい?君は何が分からないんだい?」
「そんなこと言われてもな。だってすべて分からないんだから、この状況とか全てだよ」
「なるほど、それなら少し話をしようか。ただ、すべてとは言えないな。
私も全てを知っているわけではないのだから」
少し遠くを見るように視線をずらして男は続ける、
「そもそもだ。そもそもだが、なぜそこの彼女がここにいると思う?疑問に思わなかったかい?」
「疑問に思ったに決まってるだろ!朝起きたら得体のしれない極上のもこもこがあるんだから。それはもう疑問というか、思考が麻痺するかと思うくらいの至福の時だったよ」
「いやいや、疑問があっさりと消えているよ、君」
「そ、そんわけない。疑問はたくさんだ、不思議いっぱい」
「なんだいそれは?まあ、君が摩訶不思議アドベンチャーを朝から決め込んでしまったのは、他でもない。君自身のせいだ」
「は?僕のせいだって?僕が何をしたっていうんだ?寝て起きたら隣にもこ美がいたそれだけだ」
「そう、寝て起きて。君はいつも通り、いつも通りの思考だった、違うかい?」
「そうだよ、別に何か変わったことなんてしていないさ」
「つまりはそういうことなのだよ。君のいつも通りこそ、もこ美ちゃんが現れる原因だったわけなんだよね」
「は?意味が分からない。早く教えてくれ」
「そう焦るなって、答えは嫌でも教えてあげるさ。その前に、少し話をしようか。ある実験の話さ」
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