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フェチ×フェチ  作者: 兼平
第1章 僕ともこもこ
14/29

勝負

・・・・・・・・・・・・・・・


僕は眼鏡美人がもこ美の動きに集中してレーザーを撃っているのを見ながら、白衣男に向かって駆け出していた。


レーザーを撃つ準備をしている眼鏡美人は僕が白衣男に突進しているのに気づいたようだ。


しかし、もう遅い。


既に発射体勢に入っているため、いまさら照準をこちらに向けることは難しいだろ

う。


この瞬間を作るために、もこ美には頑張ってもらったのだ。


ここを逃したら後が無いし、何よりもこ美に示しがつかない。


必ず決めてみせる。


僕は途中で拾ったレストランのモップを手に走っていた。


さっき、喫茶店の中でもこ美と作戦会議をしてから僕は喫茶店の裏口から店を出ると、さっきまで僕達が戦い、そして今ももこ美が戦っている大通りと平行している裏通りへと出たのだった。


そして、その裏通りを歩き、白衣男がいる位置から直線距離で一番ちかい通り沿いの店。


この商店街で営業しているレストランへと入っていった。


そこで息を潜めていたのである。


もこ美に喫茶店で伝えた作戦は次のようなものだ。


まず、もこ美が喫茶店からなるべく目立つようなかたちで喫茶店を飛び出す。


そこで一気にラッシュを相手にかける。


そうすれば、敵はもこ美に意識が集中するだろう。


さらにもこ美は眼鏡美人をひきつけ、白衣男から距離をとらせる。


その間に僕は白衣男から一番近い距離にある商店街の店へ移動する。


仕上げとして、もこ美にはなんとか眼鏡美人にレーザーを撃たざるを得ない状況に追い込んでもらい、さらに白衣男を挟んで、今僕がいるレストランがある方向とは逆方面でかわす。


そうすることで、僕が突っ込んでいった時に、白衣男を挟むようなかたちで、僕、白衣男、もこ美と並ぶようになる。


既に、レーザーを構えた眼鏡美人がもこ美に照準をあわせているので、そこからレーザーを僕に向けようとすれば、白衣男に当たる危険が出てくる。

そんなリスクを負うわけには行かないだろう。


次のレーザーが撃たれるまでに再装填のタイムラグもあるだろうから、ここでもこ美に向けてレーザーが飛んでいく間に僕が手にしたモップで白衣男に“まいった”と言わせればいいのだ。


僕は組み立てた作戦がここまでうまくいくとは思わず、我ながら驚いている。


しかし、決まったものは決まったのだ。


しっかりと勝利を手にいれさせてもらおう。


眼鏡美人は僕に気づいたものの、レーザーの照準はそのままもこ美の方に向けたままだ。


よし、決まったと思った。


そして放たれるレーザー。


そのレーザーはもこ美に向かっていき、あっさりとかわされ、そのまま後方へと飛んでいくのだった。


その軌跡を目で追いながら、勝利を確信して白衣男へとモップを振り上げた時だった。


レーザーの進行方向の先で何かチカっと光るのが見えた。


何事かと思い、その光った場所に目を凝らすと、非現実的なものが目に映る。


それは空中に浮く眼鏡だった。


空間を掌握するような異様な存在。


空に浮かぶ眼鏡。


そんなシュールな光景に驚いたのもつかの間、その眼鏡に向かって先ほどのレーザーが直撃する。


さらに、レーザーは眼鏡に当たると壁に当たったボールのように跳ね返るのだった。


嫌な予感がした。


そのレーザーの向かう先は、そう、僕だったのだ。


虚をつかれた僕にレーザーをかわすことは出来そうにもなかった。


そのままレーザーの餌食になるのを覚悟した。


しかし、そんな僕の目の前に飛び込んでくる影が見えた。


レーザーと僕の間にまるで楯のように立ちふさがる。


もこ美だった。


そのもこ美にレーザーが直撃する。

レーザーはもこ美にあたるとバシュっという音をたてる。


もこ美は一瞬の間をあけて、糸を切られた操り人形のように前のめりに倒れた。


そして、焦げ臭い匂いがあたりに立ち込めてくる。


「嘘だろ・・・」


「おい、もこ美・・・返事しろよ」


僕はもこ美に声をかける。


しかし、もこ美は返事をしない。


一気に色々な感情が襲ってくる。


なんて言えばいいのか、分からない。


頭が真っ白になるというのは、こういうときのことを言うのかもしれない。


「切り札っていうのはねーこーいうものを言うんだよーわっかるかなー太一くーん」


白衣男が半笑いでこっちを見ている。


「惜しかったけどねーちょっとびっくりしたしねーでもさー残念でーしたーもこ美ちゃん。死んじゃったかなー」


心無いその言葉に僕は我を忘れて白衣男に向かって飛び掛っていた。


その傍にはいつの間に移動したのか眼鏡美人の姿も見える。


しかし、そんなの関係ない。


眼鏡美人がレーザーを僕に向けて撃とうとしてくるのが見える。


けど、そんなのも関係ない。


とりあえず、この白衣男をぶん殴ってやらないと気がすまない。


レーザーを食らおうが、どうなろうが、構わない。


でも、絶対ぶっとばす。


僕はただじっと白衣男の顔を睨み、駆ける。


そんな僕を見ながら白衣男は、「3」と言う。


続いて「2」と。


どうやら、レーザー発射までのカウントダウンのようだ。


さらに「1」と聞こえてくる。


あとちょっとで白衣男をぶん殴れるのに、あと数歩の距離なのに、でも届かない。


ちくしょう。歯軋りをする。

ゼ・・・」白衣男が最後のカウントをするその瞬間、僕の目の前を何かが飛んでいく。


それはさっきもこ美が僕を助けようとしてレーザーの壁になってくれた時に、落としていたモップだった。


そのモップが眼鏡美人の顔へと向かい、直撃する。


眼鏡美人の顔ははじかれ、パーンときれいに放物線を描き宙を舞う眼鏡。


そんな光景を片目に僕は最後の数歩を詰め寄ると、思いっきり白衣男に向かって振りかぶった右手を振りぬく。


「これが、俺のもこもこの分だーーー!!!!」


渾身の一撃が白衣男の右頬へと突き刺さると、右手に殴った際の衝撃が走った。


僕の拳が自分まで届くはずがないと思っていた白衣男は不意打ちに近い状態で喰らった一撃に「くきゃっ・・・」と息を吐く音が聞こえ、大きく身体をのけぞらせる。


そしてそのまま背中から倒れ、地面に身体を打ち付けるのが見える。


「い、つつつ・・・」と痛みに声を出しながら、殴られた頬を押さえる白衣男。

やってやった。この野郎。


眼鏡美人の方を見やると両手で顔を覆い、ぺたんとその場で膝を折り座っている。


少し離れたところには、壊れた眼鏡がコロンと転がっているのも見えた。


反撃する様子も見えないので、後ろを振り向くともこ美がよろよろと立ち上がっているのがわかった。


なんとか無事だったようだ。


せっかくのもこもこがちりちりとなってしまっているのが残念至極だが、何とか元に戻るだろう。


それにしても無事でよかったと思う。


僕は白衣男の方向に振り返り、


「これでどうだよ。俺達の勝ちだろ?」と言葉を浴びせる。


頬をさすっていた白衣男は「ふーっ」と息をはきながら、こちらを見る。


「まあまあだねー面白いよーなかなかー」と嘯くのだった。


僕は続けて、「だから俺達の勝ちだよな?まいったと言ってくれよ。言わないのなら、もう一発いくぞ?」と追い討ちをかける。


が、「かっかっかっ」と余裕の表情で笑い声を上げる白衣男。


その笑いが不気味だ。


「短気は損気だよー短期決済で株なんか買ってもねーむずかしいーんだよねーデイトレーダーなんて今頃はやらないんだよねー」


は?こいつは何を言っているんだろうか。


適当なことを言ってうやむやにしてごまかそうとでもしているのかと思い、


「そんなことどうだっていいんだ。早くまいったと言えよ」


そう言いながら白衣男へと足を踏み出そうとする。


「まだまだ甘いな。そんなんじゃ早死にするぞ」


白衣男が急に声のトーンを下げ、僕の後方を見やる。


その変化に嫌なものを感じ、白衣男の視線の先へと目を向ける僕。


そこには眼鏡美人がいる。


座り込んで、眼鏡を壊された眼鏡美人はさきほどまで動く気配などなかった。


が、今は違う。


座り込んで両手で顔を覆っているのは変わらないが、その口からぶつぶつと声が聞こえてくる。


「・・・・よくも・・よくも・・よくも・・よくも・・よくも・・よくも・・よくも・・よくも・よくも・よくも・よくも、よくも、よくも、よくも、よくも・・・・・」


ぶつぶつと繰り返すその言葉が不気味だった。


「・・・・殺す・・殺す・・殺す・・殺す・・殺す・・殺す・・殺す・・殺す・・殺す・・殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す・・」


殺意の念をこめて怨嗟をあげるその姿は異常だ。


すると、突然眼鏡美人の周りの空気が変わったのが分かった。


空気なんて見えるわけないが、何かどんよりとした黒いもの、漫画でいうところのオーラみたいなものが彼女から発せられているのが感じられる。


ヤバイ、と思った瞬間には手遅れだった。


僕の周りで最初はポツリ、ポツリと、それから一斉にダダダダダッと空中の何も無い空間に浮かびあがるものが見える。


あっという間に僕の周囲の空間はその何かで埋め尽くされていく。


僕を囲むそれらのぼんやりとした輪郭がはっきりとしてくると宙に浮かぶ“それ”がなんなのか分かった。


眼鏡だ。


それも大量の。


僕は今、数百というおびただしい数の眼鏡に囲まれている。


外から見れば、とんでもなく異様な風景だろう。


そして、恐らくこの眼鏡は眼鏡美人が出したものに違いないのだ。


ということは・・・


次に何が起きるのかだいたい想像がついた。


僕のそんな杞憂の中、空中に浮かぶ無数の眼鏡が輝き始める。


やっぱり、こいつら・・・


眼鏡、一つ一つがレーザーを撃つ準備をしているのだろう。


この状況で回避することはまず無理だ。


一気に形勢は逆転した。


しかも、チェックメイトだ。


レーザーを一撃喰らっただけでもこ美があんなになってしまったのだ。


これだけの数の眼鏡から発射されるレーザーを喰らったら、僕などひとたまりも無いだろう。


茫然と立ち尽くす僕は、もう抵抗する気力も起きなかった。


終わりか・・・


ちくしょう・・・


無数の眼鏡が輝き、レーザーを発射しようとしてひと際大きく輝く。


僕の最期はこんなもんなのか。


まだ高校生なのに・・・


絶望という文字が頭に浮かび、死を覚悟した。

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