人の縁
「すみません、ガドさん。もう一度聞かせてくれませんか?」
突然、変な事を言われた気がした。
「お前がお前の刀を打てと、言ったんだ。次からは、一発で聞き取れ。」
聞き間違いでは、なかった。
「場所はここ。材料は出してやる。口も出すから、覚悟しとけ。」
混乱する俺をよそに、話を進めるガドさん。
「それと、これからは師匠と呼べ。生意気な坊主。」
どうやら、「打ち方教えてやるから、自分で刀を打て」と、言いたいらしい。
王都まで行く事を考えたら、こちらが得策だろう。
「分かりました。よろしくお願いします、師匠。」
はっきりとガドさん…いや、師匠に意思を伝える。
「いやー、よかったよかった。」
ユースが、俺の肩を叩きながら祝福してくる。
ちょっと痛い。
「絶対ガドさんの眼鏡にかなうと思ってたが、教えを受けられるとは。流石だな、ガイ。」
バシバシと叩きながら褒めてくる。
力がこもってきて、結構痛い。
「だが、それも明日からだ。今日はもう日が傾いている。オレの家に泊まれ。そこから通えば良い。」
「良いですよね?よし、問題なし。」と師匠に訊ねるも答えを聴かず決めるユース。
「では、お邪魔しました。」
「あっ…明日からお願いします。」
ユースに引っ張られながら、なんとかそれだけを言い、師匠の家をお暇する。
「さーて、嫁を紹介してやろう。美人で料理が上手いんだぜ。」
どうでも良いが、いい加減手を離して欲しい。
結局、道中ずっと引っ張られながらユースの家にやって来た。
叩かれ、引っ張られた肩を擦る俺をよそに、
「ただいま。」
意気揚々と家に入って行くユース。
俺は渋々それに続く。
「お帰りなさい、あなた。そして、君がガイ君ね。」
出迎えた女性は、確かに町で1・2を争うには十分な容姿をしていた。
「いらっしゃい。ご飯の用意は出来ているわ。」
そうして、リビングに通される。
(ユースが自慢するだけの事はあるな。)
暖かみを感じさせる料理の数々に舌鼓をうちつつ思う。
「どう?口に合うかしら?」
「えぇ。美味しいですよ。」
「そう、よかった。あっ、これはどう?」
ユースの奥さん…ナンさんは、料理に関して並々ならぬ思い入れがあるらしい。
「食材の希少さとか料理の高級感が必要な時もあるかもしれないけど、ただ美味しいものを、美味しく食べられる場所で、美味しく食べられる人達と食べる。食べるとは、それで十分なのよ。心が幸せにならない料理は、料理じゃない。餌よ。」
そう熱く語る彼女の天職は、料理長。
【料理】を鍛え続けた者がなれる天職だそうだ。
「家出した見習い冒険者なのよね?しばらく、家に居て良いからね。」
食事が終わる頃、ナンさんはそう言ってきた。
(夫婦揃ってお人好し。しかし、家出少年は良いカモフラージュかもな。)
この町で来訪者だと知っているのは、ユースと町長のみ。
面倒事を避けるためにも、出来れば隠しておきたい。
「ナンだから話すが、ガイは来訪者だ。」
そんな事お構い無しに、ユースは暴露した。
能力一覧
変化なし