第一異世界人
しばらく森を歩く。【警戒】を絶えず行う事で、最初のウサギ以来戦闘は避けている。
倒したウサギは、容れるものがないため、角を握って持ち歩いている。
(そう言えば、結構歩いているがあんまり疲れてねぇな。)
元の世界で俺は、スポーツ選手ほどではないがある程度は運動してきた。それでも、こんな長時間歩き続けた事はなかった。
(あの戦闘でもそうだ。)
女神が言っていた体力補助は、地味ながらも確かに効いている。
突然、【警戒】が異常を知らせる。
(デカイ気配。)
道中、ランクが上がった【警戒】がまだ見ぬ敵対者の強さを知らせる。
物音と共に姿を現したのは、俺より二回りはデカイ熊だった。
(これでも、喰らってろ。)
ウサギを熊の足元に投げつけ、ジリジリと後ろに下がる。熊はウサギよりも俺に興味を持ったようだ。
(マジかよ。)
徐々に殺気がこの場を満たしていく。どうこの状況を回避するか頭を働かせながら、俺は熊とにらみあう。
まさにそのタイミングで、
シュッ
風切り音と共に1本の矢が熊に刺さる。
急所を射たれ、倒れる熊。急な出来事に呆然する俺。
「おーい。大丈夫かー。」
矢が飛んできた方向から、男が一人声をかけながらやってくる。
探し歩いた人間は、向こうから近付いてきた。
「オレは、ユース。ユース・ベルマだ。近くの町で、防人をしている。」
命の恩人は、安心感満点の笑顔でそう言った。
(人の好かれるってのは、こういう奴を言うんだよな。)
「本当に大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫です。ありがとうございます。」
再度訊いてくるユースに無事を伝える。
「見かけない顔だな。どこの誰だ?」
問いかけに対し、
「俺は、ガイ・アイオイ。信じられないかもしれませんが。」
と、前置きして全てを話す。
この人には、話しても大丈夫だと思わせる何かがあった。
「お前が伝説の来訪者か。」
ユースの町に向かいながら、俺の話はあっさり受け入れられた。
「信じられたのが意外か?」
顔に出てたのか、ユースが話しかけてくる。
「それは、防人の技能に【真偽】があるからだ。」
天職にも技能があり、その職務を助けるのだそうだ。逆に一定の能力を習得していないと、天職を得られないらしい。
で、【真偽】と言うのは、相手の発言が嘘か真実か判別するそうだ。
「嘘の度合いまでは、分からないけどな。」
と言い、また笑った。
「この世界について、教えて下さい。」
「良いぞ。」
こんなやり取りをしたのは、町の入り口に着いた時だった。
「ようこそ。リーンリットへ。」
能力一覧
天職:なし
加護:九十九神 技能:なし
能力:警戒B(UP)、回避C、幸運D