大海の覇者と倫理の楔
「お!やっと来てくれたか。」
「一体何の用だ?用件も言わず、「早く来てくれ」の一点張りで。」
海に浮かぶ世界最強の船にトラブル発生したとかで、俺に仲裁の依頼が舞い込んだ。
現場がラフブリッジ海賊団、依頼人がその船長とあっては俺に話が回ってくるのは必定だった。
「いや、な。」
「俺だ!」
「いいや!僕だ!」
ショウが視線で促した先には、二人の兄弟が喧嘩の真っ最中。
「おい。俺を呼びつけたトラブルって……。」
「そ。うちの子達の喧嘩。理由は跡目争い。」
実力派なルキさんの子と、知性派なアイファさんの子。
物心つく頃から何かと競いあってきた二人だ。
「以前、お前を太陽と例えたアレ。今なら納得だ。焼き焦がす事は出来ても、冷たく律する事が出来ていないからな。でも、ショウがなんとかする問題だろ?父親なんだからさ。」
「面目ない。」
子供の喧嘩、されど跡目争い。
海の平和のために、と言う建前で第三者である俺が介入する。
その場は収まるが、先が思いやられる。
[ーーー十年余りの後、再び海賊王の息子達は激突する。
その影響は海に留まらず、交流会の継承者全てを巻き込む大喧嘩に発展。
さすがに事態を重く見たショウ・ラフブリッジの喝と倫理の継承者の仲裁により、一大勢力だったラフブリッジ海賊団は二分される事になる。
その後、海を舞台に緩やかな喧嘩が代々続く事になるとは、最初で最後の海賊王も予想出来なかった。ーーー]
「それは災難デシタネ。」
「全くだ。」
その帰り、シェンロンに愚痴をこぼす。
優秀な部下が揃い、互いに手が空く身の上。
身内以外で一番話をするのは、この法の番人だったりする。
「後継者について、シェンロンはどうしてる?」
「息子達の成長次第……デスネ。不安が残るようなら、最も優秀な部下にこの椅子を譲りマス。」
この件について、既に布告済みだそうだ。
全くもって如才ない。
「ガイさんはどうするのデスカ?子宝に恵まれていないのデショウ?」
「それが今一番の悩みだ。ホタルからもそれらしいアドバイスは貰えなかったからな。」
スノーにも相談しているが、そちらも振るわない。
「なるようにしか、なりマセンネ。」
「そうだな。神ですら後継者に困るくらいだからな。」
どの業界も、後継者問題は深刻だ。
[ーーー公平なる第三者を自任し続けたシェンロン・ユンは、公正に天秤を掲げ、実像を真実の鏡に映してきた。
その姿を真摯に追いかけてきた息子を、彼は父親としては優しく、師匠としては厳しく接する。
息子が一人前になったのを見届けると、鏡と椅子を譲り引退する。
そして、後進の指導をする傍ら裁判官の心構えをまとめ、安寧秩序の礎を築く。ーーー]




