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異世界を九十九と一人旅  作者: 書積 詠人
エピローグ
299/302

大海の覇者と倫理の楔

「お!やっと来てくれたか。」

「一体何の用だ?用件も言わず、「早く来てくれ」の一点張りで。」


海に浮かぶ世界最強の船にトラブル発生したとかで、俺に仲裁の依頼が舞い込んだ。

現場がラフブリッジ海賊団、依頼人がその船長とあっては俺に話が回ってくるのは必定だった。


「いや、な。」

「俺だ!」

「いいや!僕だ!」


ショウが視線で促した先には、二人の兄弟が喧嘩の真っ最中。


「おい。俺を呼びつけたトラブルって……。」

「そ。うちの子達の喧嘩。理由は跡目争い。」


実力派なルキさんの子と、知性派なアイファさんの子。

物心つく頃から何かと競いあってきた二人だ。


「以前、お前を太陽と例えたアレ。今なら納得だ。焼き焦がす事は出来ても、冷たく律する事が出来ていないからな。でも、ショウがなんとかする問題だろ?父親なんだからさ。」

「面目ない。」


子供の喧嘩、されど跡目争い。

海の平和のために、と言う建前で第三者である俺が介入する。

その場は収まるが、先が思いやられる。


[ーーー十年余りの後、再び海賊王の息子達は激突する。

その影響は海に留まらず、交流会(サークル)の継承者全てを巻き込む大喧嘩に発展。

さすがに事態を重く見たショウ・ラフブリッジの喝と倫理の継承者の仲裁により、一大勢力だったラフブリッジ海賊団は二分される事になる。

その後、海を舞台に緩やかな喧嘩が代々続く事になるとは、最初で最後の海賊王も予想出来なかった。ーーー]




「それは災難デシタネ。」

「全くだ。」


その帰り、シェンロンに愚痴をこぼす。

優秀な部下が揃い、互いに手が空く身の上。

身内以外で一番話をするのは、この法の番人だったりする。


「後継者について、シェンロンはどうしてる?」

「息子達の成長次第……デスネ。不安が残るようなら、最も優秀な部下にこの椅子を譲りマス。」


この件について、既に布告済みだそうだ。

全くもって如才ない。


「ガイさんはどうするのデスカ?子宝に恵まれていないのデショウ?」

「それが今一番の悩みだ。ホタルからもそれらしいアドバイスは貰えなかったからな。」


スノーにも相談しているが、そちらも振るわない。


「なるようにしか、なりマセンネ。」

「そうだな。神ですら後継者に困るくらいだからな。」


どの業界も、後継者問題は深刻だ。


[ーーー公平なる第三者を自任し続けたシェンロン・ユンは、公正に天秤を掲げ、実像を真実の鏡に映してきた。

その姿を真摯に追いかけてきた息子を、彼は父親としては優しく、師匠としては厳しく接する。

息子が一人前になったのを見届けると、鏡と椅子を譲り引退する。

そして、後進の指導をする傍ら裁判官の心構えをまとめ、安寧秩序の礎を築く。ーーー]

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