鬼ごっこ、からのかくれんぼ
「がんばれー、ガイ。」
「お貴族様なんて、お前の敵じゃねぇ。」
「ギルベルト様、其奴など蹴散らして下さいまし。」
町のほとんどの住人が集まっている。
(ユースにマス、笑いやがって。シャシャさん…は、いつも通りか。ガドさんはいないな、やっぱり。ナンさんにミイさん。ん?ナタクが呼んでる。)
こちらを手招きするナタク。
「すみません、サイア殿。知人が呼んでるので、少し良いですか?」
「早くしたまえ。」
礼を言って、ナタクのところへ。
そこでスフィアを十数個渡される。
「【鑑定】持ちだから、説明は要らないな。魔力は全部入れてある。ぼ……」
必要な事だけ聞き、スフィアはキャリーに。
「準備は良いかい?」
「えぇ。」
目の前に戻った俺に、ギルベルトは言う。
「では、始めよう。構えたまえ。」
ギルベルトは腰の剣を抜き、俺はキャリーから刀を出し、同様に抜く。
辺りは一転、静かになる。
「行くぞ。」
向かって来るギルベルトに対し、
「待て!逃げるのか!」
俺は反転、全速で離れた。
「おのれ!神聖なる決闘を愚弄するか!」
「そもそも、乗り気ではありませんし。」
「何を!」
逃げる俺。追うギルベルト。
始まったのは決闘ではなく、鬼ごっこだ。
「くっ、どこへ消えた。」
(貴方の真上です。)
舞台は森の中に変わり、鬼ごっこはかくれんぼに変わった。
探索系が使えないのか、使う余裕がないのか、ギルベルトは無闇に俺を探し回る。
俺はというと、森に入ってすぐ【気配遮断】し、木陰に隠れる。
その後は、【エンチャンター】の力を借り木の上に。
【平衡感覚】を駆使して落ちないように尾行中だ。
(鬼ごっこの鬼は交代しましたよ、サイア殿。)
焦りはない。【精神防御】は、精神安定にうってつけだ。
(キャリー、狙撃弓を。)
(あいよ。気張りな。)
武器は弓に変更。
森に入った時点で、俺の優位。
(油断はしない。魔法騎士ならば、魔法が使えて当然。)
能力以上になんでもありな魔法には、逆転の芽がある。
徐々に森は暗くなってくる。
(そういえば、夜戦の訓練してないな。)
生産の修行のために、いつも昼過ぎには町に戻っていた。
(しかし、伊達にA-ではないな。野営の心得は万全か。)
ギルベルトは手際良く焚き火を用意すると、近くに腰掛け周囲を警戒する。
そこに、油断も怒りも感じられない。
(とりあえず、【警戒】持ちだな。動く気配なし。これ以上体力は削れないか。)
おにぎり(手製)と、水筒代わりの流水スフィアで軽く渇きを満たす。
こちらも長期戦の構えだ。
完全に日は沈み、ギルベルトの焚き火だけが辺りを照らす。
「おい。見てるのだろう?出てこい。」
近くで監視しているのは、流石にバレている。
「ふん。それで出てきたら阿呆か。せっかく独壇場に誘い込んだんだ。」
「普通有効活用する。」と、冷静な分析。
(バカなボンじゃないっと。)
ギルベルトの評価を上方修正する。
すると、急にギルベルトは立ち上がり、剣を抜き、
ズドンッ!
あさっての方向の木を一刀で斬り倒した。
「は?」
予想外の行動に、思わず声が出る。
「こ…、こんなところで一人きりは、怖いんだよ!」
そう言うと、剣で魔法でやたらに攻撃を仕掛けてくる。
(冷静になったんじゃない。恐怖で大人しくなっただけか。)
疲労させる目的は達成出来る。
だが、
(余波を食らったら、こっちがアウトだ。)
誘い込みじゃない、本気で逃走した。
それだけ攻撃力がずば抜けていた。
能力一覧
天職:レンジャー 技能:弓術B、警戒A、気配遮断A(up)、木工技師D、料理B、罠設置D、平衡感覚B(up)
加護:九十九神 技能:人格投与S
能力:回避A、幸運C、刀術B、鑑定B、鍛冶師C、エンチャンターC、精神防御C、魔具作成A、仕立て師C、調薬B、応急措置C、薬物耐性B




