家事と鍛冶
翌朝、目覚めると直ぐ起き上がる。
一人暮らしの習性で、二度寝はあまりしない。
(さてと、今日から鍛治修行だな。)
今日の予定を確認。
服は、昨日のままだ。
(替えの服、2組は要るな。)
ファッションに興味はないが、精神衛生上同じ服のままはさすがに嫌だった。
リビングには、誰も居なかった。
恐らく“疲れて”寝ているのだろう。
(待ってても良いが……。)
空腹に促され、台所に立つ。
周囲を探せば、食材は見つかった。
だが、似ている食材が、同じ食材だと言う保証はない。
(これは、小麦粉……だよな?)
袋詰めの白い粉を凝視する。
ピコン♪
唐突にプレートが更新を知らせる。
プレートを呼び出すと、
[新しい能力を習得しました。]
能力:鑑定D
と表示されていた。
俺は改めて目の前の粉を【鑑定】する。
小麦粉
・食材
小麦を挽いた粉
名前と説明が、頭に浮かぶ。
同じ要領で、砂糖と果物を【鑑定】する。
小麦粉と砂糖を目分量で水で溶き、果物を細かく切ったら、それも混ぜる。
フライパンで焼けば……、のタイミングでコンロが魔力式である事に気付く。
スイッチにあたる部分には、小さな水晶が取り付けられている。
(魔力を送り込むのか?)
試しに少量流し入れるイメージで、水晶に触る。
すると、小さく着火した。
作業を再開。
流す魔力を調整しながら、火力を合わせる。
フライパンを乗せ、水溶き小麦粉を入れる。
(しばらく焼けば、ホットケーキもどきの完成っと。)
【料理】Dを習得したのは、言うまでもない。
「普通に美味しいのだけれど、雑ね。」
料理には一切の妥協を許さない、料理長のナンさんは批評も辛め。
一人暮らしの「食えれば良い」料理は、認められない。
今後、毎朝の手伝いを約束させられ、ベルマ邸を出発する。
師匠の家に着き、奥さん…シャシャさんに挨拶してから工房に入る。
既に高校生に見えるご老体は、元気に鉄を打っていた。
「おはようございます。」
「やっと来たか。」
挨拶もそこそこに、師匠の作業を見る。
単調に槌を降り下ろしているようにしか見えなかった。
作業に一段落付いたのか、場所を空け、俺を促す。
作業場に座り、手渡された槌を持つ。
「これから、槌を打って貰う。」
「槌を……ですか?」
貸すのは場所と材料、知識だけで、道具は自作させるのが、師匠の方針なのだそうだ。
(まっ、いっか。)
先達の方針に口を出す趣味も実力もないため、素直に従う。
(ただ従うのも面白くないし、エンチャントも試してみるか。)
俺が使える唯一の魔法を使用する。
(硬化、自己修復、成長。ざっと思い付くのは、これぐらいか。)
イメージを魔力と共に鉄に流し込む。
感覚は、今朝の魔力式コンロ。
そこに、師匠の指示通りに鎚を打つ。
しばらく、打っては冷やし、冷やしてはまた打つを繰り返す。
そして、出来上がったそれを【鑑定】する。
鍛治用金槌
・道具
鍛治のために作られた金槌
エンチャント
硬化、自己修復、成長
完成していた。
ピコン♪
プレートは、【鍛治】と【エンチャント】の習得。
そして、【幸運】のランクアップを告げていた。
「生意気な。」
師匠は、貸した槌を取り上げると、鉄の小山を渡し「自由にやれ。」と言い、研磨作業を始めてしまった。
(あっ。生意気って誉め言葉のつもりなのか。)
そんなことに気付きながら、鏃や槍の穂先、たまには剣を打ち続けた。
一日で【鍛治】が一気にB、【エンチャント】もランクアップした。
能力一覧
天職:なし
加護:九十九神 技能:なし
能力:警戒B、回避C、幸運C(up)、刀術D、鑑定D(new)、料理D(new)、鍛冶B(new)、エンチャントC(new)




